◆◆◆◆ 9-26 一筆 ◆◆◆◆
【 ゼンキョク 】
「――腹蔵のないお言葉、かたじけなく存じます。改めて、閣下の大望に感服いたしました」
*腹蔵……包み隠すの意。
と、さらりと話を引き継いで。
【 ゼンキョク 】
「ついては、私の知人で、やはり医術に長けた者が幾人かおります。その者たちを語らって、将軍の傘下へと連れてきたいと存じますが、いかがでしょう?」
【 グンム 】
「ほう、それはありがたいな。ぜひお願いしよう」
【 ゼンキョク 】
「お聞き届けいただき、ありがとうございます。ついては、一筆したためていただくことはできますまいか?」
【 グンム 】
「一筆というと?」
【 ゼンキョク 】
「はい、『我に従うならば、これまでの罪を問うことはない』という赦免状です。それを見せれば、皆、安心して馳せ参じてくることでしょう」
【 グンム 】
「なるほど、な」
チラリと脇のシュレイに目を向ける。
【 シュレイ 】
「…………」
頷いてみせるシュレイ。
【 グンム 】
「よかろう、しばし待たれよ」
筆と紙を取り出し、自ら一筆したためる。
【 グンム 】
「――これでかまわぬか?」
【 ゼンキョク 】
「は……確かに。かたじけなく存じます」
文面を確かめ、うやうやしく受け取り、懐に収めるゼンキョク。
【 ゼンキョク 】
「されば、さっそく発つといたしましょう」
【 グンム 】
「なに、今からか?」
さすがに驚きの声をあげるグンム。
【 グンム 】
「そう急かずとも、明日の朝でもかまうまい」
【 ゼンキョク 】
「かたじけなく存じますが、善は急げと申します。されば、これにて――」
と、ゼンキョクは立ち上がる。
【 ホノカナ 】
(晏老師、はじめからこのつもりで……!)
どうやって脱出すれば……と内心気を揉んでいたホノカナが、ゼンキョクの策に感嘆していると、
【 セイレン 】
「えぇ~~っ、今からですかぁ? さすがに、一晩休んでいきましょうよぉ~~~~っ」
などと、セイレンが駄々をこね始めた。
【 ホノカナ 】
(ちょっと、セイレンさんっ……!?)
【 ゼンキョク 】
「……私もそうしたいのは山々ですが、ここは寸暇を惜しみ、一人でも多くの同志を集めるべきでしょう。これも国家のためです」
*寸暇……少しの間、の意。
【 セイレン 】
「うぅ~ん……はぁ~、仕方ないですねぇ……あ~ぁ……」
露骨にがっかりしながら、セイレンは幕舎を出ていった。
【 ゼンキョク 】
「……失礼いたしました。それでは、また後日……翠将軍も、お取次ぎ、かたじけなく存じます」
【 ミナモ 】
「ええ、力になれてなによりですわ!」
【 ゼンキョク 】
「では――行きますよ」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
ゼンキョクにうながされ、ホノカナも一礼し、そそくさと幕舎を後にしたのだった……
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