◆◆◆◆ 9-22 診察 ◆◆◆◆
【 ミナモ 】
「さあ、遠慮は無用ですわ! お入りになって!」
ミナモにうながされて入ってきたのは、三人の女だった。
【 ミナモ 】
「こちらが嶺征南将軍ですわ! さぁ、ご挨拶なさって!」
【 翳のある女 】
「――お初にお目にかかります。河甫・ゼンシンと申します」
正面に立って一礼したのは、両手を手袋で覆った、美貌の女。
どこか暗い翳があるように見えるのは、気のせいであろうか。
【 奇妙な姿の女 】
「私は、名高き占い師の蓼にございます! どうぞお見知りおきを!!」
大仰な挨拶をしてみせたのは、曲がりくねった杖を手にした、奇妙な出で立ちの女である。
そして、もうひとりは……
【 素朴そうな小娘 】
「…………」
河甫と名乗った女の背後に、荷物を背負った小娘が控えている。
グンムが視線を向けると、はっと平伏した。
【 河甫 】
「これなるは私の助手にございます。貴人と対面する機会などないため、恐縮しておりますが、どうかお咎めなく」
【 グンム 】
「ふむ……?」
チラリと見えた小娘の顔は、ごく素朴で野暮ったく、ふっくらとした顔立ち……
【 ミナモ 】
「なんでも、虫歯のせいで急に顔が腫れてきてしまったそうですわ! 年頃の娘御ですし、あまりジロジロ見ないであげてくださいませ!」
【 グンム 】
「……なるほど」
【 グンム 】
(どこかで、見かけたか……?)
そうも思ったが、ただの気のせいだったかもしれない。
【 グンム 】
「そう堅くなることはない。私が嶺征南だ。こちらは私の相談役の、楽老師」
【 シュレイ 】
「…………」
無言で会釈を返すシュレイ。
【 グンム 】
「ミナモ殿を賊の手から救ってくれたそうだな。まずは、礼を言わせてもらおう」
【 河甫 】
「いえ、人として当たり前のことをしただけです。我らが翠将軍の窮地に巡り合ったのは、将軍の人徳というもの……お褒めにあずかるようなことではございません」
【 グンム 】
「さて、我が軍に加わりたい、とのことだが」
【 河甫 】
「は……閣下は世を正すため、人材を集めていると聞いております。微力ではございますが、いささかなりともお役に立てればと思い、こうして馳せ参じた次第でございます」
【 グンム 】
「ほう、ありがたい申し出だ。陣中にあっては、医師はいくらいても足りぬほどだからな」
【 グンム 】
「――そうだ、楽老師、ひとつ診てもらってはどうかな? 具合がよくなかったようだし」
【 シュレイ 】
「は? いや、それは……」
いきなり話を振られ、シュレイはややためらいを見せる。
どこの馬の骨ともわからぬ輩に、触れられたくはないのかもしれない。
【 ミナモ 】
「それは名案ですわね! ええ、ぜひ診ていただくべきですとも! 河甫老師の腕前は、なかなか見事なものですわよ!」
【 シュレイ 】
「……っ、それでは……お願いすると、しましょう」
ミナモの勧めもあり、断りがたくなったと見えて、あまり気が進まない様子ながらも頷くシュレイ。
【 河甫 】
「それでは――」
医師はシュレイの元へ足を運ぶと、手袋を脱いだ。
【 河甫 】
「失礼、いたします」
と、彼の手を取る。
【 シュレイ 】
「…………っ」
その瞬間、なにやらシュレイはビクリと身を引きつらせた。
【 河甫 】
「ふむ……ふむ、ほほう、なるほど……」
しばし探るようにシュレイの手に触れていた女だったが、ややあって手を離し、口を開いた。
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