◆◆◆◆ 9-18 進軍 ◆◆◆◆
ドドッ……ドッ、ドドドッ……!
地を揺るがす大軍勢が、北上している。
――いざ、みやこへ。
――帝都〈万寿世春〉へ。
征南将軍〈嶺・グンム〉率いる十数万の大軍が、進撃していた。
【 グンム 】
「――民百姓に決して難儀をかけてはならぬ。盗む者、犯す者は、ことごとく斬る!」
グンムは駿馬にまたがって上軍の先頭に立ち、軍規を引き締めている。
*上軍……ここでは先陣の意。中軍が中堅、後軍が後拒となる。
大将みずから号令する成果もあって、略奪や暴行を働く兵もほとんどない。
たまに見つかった者はたちどころに血祭りとなり、軍内に戦慄を走らせた。
【 グンム 】
「我らは大義のために起った義軍なり! 者ども、奮励努力せよ!」
*奮励……気合を入れて励むの意。
【 将兵たち 】
『おおおおおっ……!』
地鳴りのような喚声が轟く。
【 グンロウ 】
「まるで無人の野を征くがごとし……これも、兄者――いえ、嶺将軍の威光というものですな! わはははっ!」
グンムの弟にして勇猛さ随一の将、〈嶺・グンロウ〉が哄笑する。
【 グンム 】
「そうであって欲しいものだな」
グンロウの能天気ぶりに、つい微笑を誘われるグンムのところへ、
【 仮面の女 】
「嶺将軍――」
仮面をつけた女が馬を寄せてきた。
【 グンム 】
「お――シンセ殿か、どうした?」
声をかけてきたのは、〈楽・シンセ〉。
グンムの客将にして相談役であるシュレイの従妹であり、方術の心得があることから〈神鴉兵〉と呼ばれる特殊部隊の長を任されている。
【 シンセ 】
「先ほど、碧老師から連絡が入りました。翠のご令嬢ともども、息災とのこと」
【 グンム 】
「おお……そうか、それは良かった」
安堵の色を見せる。
【 グンム 】
「偵察に行くと言って飛び出したはいいが、ずいぶん音沙汰がなかったからな……いったい、どこで道草を食っていたのやら」
【 シンセ 】
「さぁ……老師によれば、『危うく食べられるところだったけど、自分の活躍で難を逃れた』と記されておりましたが」
【 グンム 】
「……まあ、なんにせよ、無事なら結構だ。じきに合流できそうか?」
【 シンセ 】
「はい、すでにこちらに向かっているとのことですので」
【 グンム 】
「了解した。ところで……従兄殿はまだ調子が悪いのか?」
【 シンセ 】
「は……申し訳ありません、いささか、気分がすぐれぬようで……」
【 グンム 】
「いや、無理は禁物だからな。しばらく中軍に下がってもらっても構わん、と伝えてくれ」
【 シンセ 】
「お気遣い、かたじけなく……」
【 グンム 】
「そうそう、お嬢様の件、南軍の方にも伝えてもらぬか? さぞかし、気を揉んでいることだろうからな」
【 シンセ 】
「はい、心得ました。それでは――」
シンセは一礼して、下がっていった。
【 グンム 】
「…………」
【 グンロウ 】
「そういえば最近、楽軍師を見かけませんでしたな……風邪でも引いているのですか?」
【 グンム 】
「さぁな、疲れが溜まっているのではないか?」
【 グンロウ 】
「むう……鍛え方が足りませんなっ! 肉を食い、酒を飲んで寝れば、おおかたは治るものをっ……後で、肉と酒を差し入れに行ってきましょう!」
【 グンム 】
「……それは、気持ちだけにしておけ」
その夜、上軍の駐屯地にて。
己の幕舎の中で、グンムは地図を睨んでいた。
【 グンム 】
「他の軍の動きはどうだ?」
【 ダンテツ 】
「さて……あまり、かんばしくはありませんな」
そう答えたのは〈鋼骨陣〉の異名で知られる〈汐・ダンテツ〉。
グンムの陣中にあっては、堅実な用兵で信任も厚い部将である。
【 ダンテツ 】
「明快に敵対を表明している者はおりませんが、その逆もしかり……」
【 グンム 】
「ふん、形勢を見極めようって腹か。まぁ、そんなところだろうさ」
宙帝国内には、数々の軍閥が存在する。
*軍閥……独立した軍事勢力の意。
その代表格が、翠・ヤクモら〈四寇〉であるが、他にも小王国のごとき軍事勢力はすくなくない。
彼らは独自の軍隊を抱え、己の縄張りを実効支配しているのである。
【 ダンテツ 】
「おおかたは黙殺するか、玉虫色の返答をよこすといったところですが……はっきりと意向を伝えてきたのは、唯一、〈東寇〉雷・ジンマのみですな」
【 グンム 】
「ほう、なんと?」
【 ダンテツ 】
「『己の野心を満たすがために不義の大軍を興し、幼帝を討たんとするなど、恥知らずの鬼畜の所業、大逆無道なり』――とのことで」
【 グンム 】
「ふむ、不義の軍にして恥知らずの鬼畜、おまけに大逆無道……ときたか。好き勝手に言ってくれるものだな」
痛烈極まる罵倒に、グンムは怒るより思わず笑いをこぼす。
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