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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
318/421

◆◆◆◆ 9-18 進軍 ◆◆◆◆

 ドドッ……ドッ、ドドドッ……!


 地を揺るがす大軍勢が、北上している。


 ――いざ、みやこへ。


 ――帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉へ。


 征南将軍〈レイ・グンム〉率いる十数万の大軍が、進撃していた。


【 グンム 】

「――民百姓に決して難儀をかけてはならぬ。盗む者、犯す者は、ことごとく斬る!」


 グンムは駿馬にまたがって上軍じょうぐんの先頭に立ち、軍規を引き締めている。

 *上軍……ここでは先陣の意。中軍が中堅、後軍が後拒あとぞなえとなる。


 大将みずから号令する成果もあって、略奪や暴行を働く兵もほとんどない。

 たまに見つかった者はたちどころに血祭りとなり、軍内に戦慄を走らせた。


【 グンム 】

「我らは大義のために起った義軍なり! 者ども、奮励ふんれい努力せよ!」

 *奮励……気合を入れて励むの意。


【 将兵たち 】

『おおおおおっ……!』


 地鳴りのような喚声が轟く。


【 グンロウ 】

「まるで無人の野をくがごとし……これも、兄者――いえ、レイ将軍の威光というものですな! わはははっ!」


 グンムの弟にして勇猛さ随一の将、〈レイ・グンロウ〉が哄笑する。


【 グンム 】

「そうであって欲しいものだな」


 グンロウの能天気ぶりに、つい微笑を誘われるグンムのところへ、


【 仮面の女 】

レイ将軍――」


 仮面をつけた女が馬を寄せてきた。


【 グンム 】

「お――シンセ殿か、どうした?」


 声をかけてきたのは、〈ガク・シンセ〉。

 グンムの客将にして相談役であるシュレイの従妹であり、方術の心得があることから〈神鴉兵しんあへい〉と呼ばれる特殊部隊の長を任されている。


【 シンセ 】

「先ほど、ヘキ老師せんせいから連絡が入りました。スイのご令嬢ともども、息災とのこと」


【 グンム 】

「おお……そうか、それは良かった」


 安堵の色を見せる。


【 グンム 】

「偵察に行くと言って飛び出したはいいが、ずいぶん音沙汰がなかったからな……いったい、どこで道草を食っていたのやら」


【 シンセ 】

「さぁ……老師によれば、『危うく食べられるところだったけど、自分の活躍で難を逃れた』と記されておりましたが」


【 グンム 】

「……まあ、なんにせよ、無事なら結構だ。じきに合流できそうか?」


【 シンセ 】

「はい、すでにこちらに向かっているとのことですので」


【 グンム 】

「了解した。ところで……従兄殿はまだ調子が悪いのか?」


【 シンセ 】

「は……申し訳ありません、いささか、気分がすぐれぬようで……」


【 グンム 】

「いや、無理は禁物だからな。しばらく中軍に下がってもらっても構わん、と伝えてくれ」


【 シンセ 】

「お気遣い、かたじけなく……」


【 グンム 】

「そうそう、お嬢様の件、南軍の方にも伝えてもらぬか? さぞかし、気を揉んでいることだろうからな」


【 シンセ 】

「はい、心得ました。それでは――」


 シンセは一礼して、下がっていった。


【 グンム 】

「…………」


【 グンロウ 】

「そういえば最近、ガク軍師を見かけませんでしたな……風邪でも引いているのですか?」


【 グンム 】

「さぁな、疲れが溜まっているのではないか?」


【 グンロウ 】

「むう……鍛え方が足りませんなっ! 肉を食い、酒を飲んで寝れば、おおかたは治るものをっ……後で、肉と酒を差し入れに行ってきましょう!」


【 グンム 】

「……それは、気持ちだけにしておけ」




 その夜、上軍の駐屯地にて。

 己の幕舎の中で、グンムは地図を睨んでいた。


【 グンム 】

「他の軍の動きはどうだ?」


【 ダンテツ 】

「さて……あまり、かんばしくはありませんな」


 そう答えたのは〈鋼骨陣こうこつじん〉の異名で知られる〈セキ・ダンテツ〉。

 グンムの陣中にあっては、堅実な用兵で信任も厚い部将である。


【 ダンテツ 】

「明快に敵対を表明している者はおりませんが、その逆もしかり……」


【 グンム 】

「ふん、形勢を見極めようって腹か。まぁ、そんなところだろうさ」


 ちゅう帝国内には、数々の軍閥ぐんばつが存在する。

 *軍閥……独立した軍事勢力の意。


 その代表格が、スイ・ヤクモら〈四寇しこう〉であるが、他にも小王国のごとき軍事勢力はすくなくない。

 彼らは独自の軍隊を抱え、己の縄張りを実効支配しているのである。


【 ダンテツ 】

「おおかたは黙殺するか、玉虫色の返答をよこすといったところですが……はっきりと意向を伝えてきたのは、唯一、〈東寇とうこうライ・ジンマのみですな」


【 グンム 】

「ほう、なんと?」


【 ダンテツ 】

「『己の野心を満たすがために不義の大軍を興し、幼帝を討たんとするなど、恥知らずの鬼畜の所業、大逆無道なり』――とのことで」


【 グンム 】

「ふむ、不義の軍にして恥知らずの鬼畜、おまけに大逆無道……ときたか。好き勝手に言ってくれるものだな」


 痛烈極まる罵倒に、グンムは怒るより思わず笑いをこぼす。

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