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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
317/421

◆◆◆◆ 9-17 取り引き ◆◆◆◆

【 サノウ 】

「…………っ」


 呪符を懐にしまう。

 油断したところに一撃お見舞いしてやろう、という魂胆だったが……お見通しだったようだ。


【 サノウ 】

「あんた……な、何者だっ……?」


【 リク 】

『そうね、簡単に言えば、あなたの同業者なのだけれど……いろいろと事情があって、自由には動けない身なのです』


【 リク 】

『今はたまたま、この者が深い眠りに落ちているので、あなたと話せているけれど……』


【 リク 】

『ああ、あなたに害を加えるつもりは毛頭ありません。安心して?』


【 サノウ 】

「…………っ」


【 サノウ 】

(衆会で見かけたっていうからには、いずこかの神仙かっ……?)


 神仙の世界では、時おり、衆会と呼ばれる集会が開催される。

 ごくたまに、重大な案件について話し合われることもあるが、そのほとんどはただの宴会にすぎない。

 サノウも師に連れられて何度か参加したが、いつも適当なところで抜け出したので、ほとんど他の神仙や方士とは面識がなかった。


【 サノウ 】

(どっちみち、とても、かなう相手じゃないっ……)


 そう悟ると、サノウはひざまずき、


【 サノウ 】

「――し、失礼いたしました……ボク……いえ私は、流渦深仙りゅうかしんせんが弟子、ヘキ・サノウと申します。いずこの仙洞の御方か、お、お教え願えませんでしょうかっ?」


 うやうやしく一礼して、尋ねる。


【 リク 】

『ああ……どうもご丁寧に。そうね、名乗りたいのはやまやまだけれど、そうなると、あなたに災いが降りかかるし……』


【 リク 】

『そうね、さしづめ〈蒼清宮そうせいきゅうの者〉とでも呼んでもらいましょうか』


【 サノウ 】

(蒼清宮……?)


 どこかで聞いたことがある気もしたが……どうも思い出せない。


【 サノウ 】

「はっ……そ、それで……蒼清宮の御方、わ、私に、なにか御用でしょうかっ?」


【 蒼清宮そうせいきゅうの者 】

『ああ、たいしたことではないのだけれど……先ほどの件、つまり、あの子たちが賊を逃した件、見なかったことにしてくれないかしら』


【 サノウ 】

「は、ははぁ……しかし……」


【 蒼清宮そうせいきゅうの者 】

『もちろん、タダとは言いません、お礼として――』


…………


…………


【 サノウ 】

「――――っ」


 一陣の風が吹き抜けたのち、周囲は、もとの場所に戻っていた。


【 サノウ 】

(今のは、夢……? いや、確かにっ……)


【 リク 】

「……ぐぅ……ぐぅ……」


 足元には、だらしない寝相の女が転がっている。


【 リク 】

「むにゃむにゃ……う~ん、温泉、行きたいなぁ……むにゃ……」


【 サノウ 】

「…………っ」


 気持ちよさそうに寝息を立てている女を、気味悪げに見下ろすサノウ。


【 ミナモ 】

「ふぁあっ……方士殿? なにをしているんですのっ……?」


 寝ぼけまなこのミナモが顔を出した。


【 サノウ 】

「あ――え、ええっと……」


【 サノウ 】

「……なんでも、ありません、ええ、なんでも」


【 ミナモ 】

「それなら結構ですわ……明日の朝は早いですわよ! むにゃ……」


 そう言って、さっさと寝床に引っ込んでしまうミナモ。


【 サノウ 】

「…………」


 サノウは、無言でその場を離れたのだった……




 その後。


【 セイレン 】

「ぐぅぐぅ……」


【 ホノカナ 】

「わっ!? セイレンさん、なんでこんなところで寝てるんですか……!?」


【 ゼンキョク 】

「寝相が悪いと言っても、限度がありますね……」


 酒屋の外で寝入っていたセイレンは、ホノカナたちに発見され、屋内に運び込まれたのだった……

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