◆◆◆◆ 9-17 取り引き ◆◆◆◆
【 サノウ 】
「…………っ」
呪符を懐にしまう。
油断したところに一撃お見舞いしてやろう、という魂胆だったが……お見通しだったようだ。
【 サノウ 】
「あんた……な、何者だっ……?」
【 蓼 】
『そうね、簡単に言えば、あなたの同業者なのだけれど……いろいろと事情があって、自由には動けない身なのです』
【 蓼 】
『今はたまたま、この者が深い眠りに落ちているので、あなたと話せているけれど……』
【 蓼 】
『ああ、あなたに害を加えるつもりは毛頭ありません。安心して?』
【 サノウ 】
「…………っ」
【 サノウ 】
(衆会で見かけたっていうからには、いずこかの神仙かっ……?)
神仙の世界では、時おり、衆会と呼ばれる集会が開催される。
ごくたまに、重大な案件について話し合われることもあるが、そのほとんどはただの宴会にすぎない。
サノウも師に連れられて何度か参加したが、いつも適当なところで抜け出したので、ほとんど他の神仙や方士とは面識がなかった。
【 サノウ 】
(どっちみち、とても、かなう相手じゃないっ……)
そう悟ると、サノウはひざまずき、
【 サノウ 】
「――し、失礼いたしました……ボク……いえ私は、流渦深仙が弟子、碧・サノウと申します。いずこの仙洞の御方か、お、お教え願えませんでしょうかっ?」
うやうやしく一礼して、尋ねる。
【 蓼 】
『ああ……どうもご丁寧に。そうね、名乗りたいのはやまやまだけれど、そうなると、あなたに災いが降りかかるし……』
【 蓼 】
『そうね、さしづめ〈蒼清宮の者〉とでも呼んでもらいましょうか』
【 サノウ 】
(蒼清宮……?)
どこかで聞いたことがある気もしたが……どうも思い出せない。
【 サノウ 】
「はっ……そ、それで……蒼清宮の御方、わ、私に、なにか御用でしょうかっ?」
【 蒼清宮の者 】
『ああ、たいしたことではないのだけれど……先ほどの件、つまり、あの子たちが賊を逃した件、見なかったことにしてくれないかしら』
【 サノウ 】
「は、ははぁ……しかし……」
【 蒼清宮の者 】
『もちろん、タダとは言いません、お礼として――』
…………
…………
【 サノウ 】
「――――っ」
一陣の風が吹き抜けたのち、周囲は、もとの場所に戻っていた。
【 サノウ 】
(今のは、夢……? いや、確かにっ……)
【 蓼 】
「……ぐぅ……ぐぅ……」
足元には、だらしない寝相の女が転がっている。
【 蓼 】
「むにゃむにゃ……う~ん、温泉、行きたいなぁ……むにゃ……」
【 サノウ 】
「…………っ」
気持ちよさそうに寝息を立てている女を、気味悪げに見下ろすサノウ。
【 ミナモ 】
「ふぁあっ……方士殿? なにをしているんですのっ……?」
寝ぼけまなこのミナモが顔を出した。
【 サノウ 】
「あ――え、ええっと……」
【 サノウ 】
「……なんでも、ありません、ええ、なんでも」
【 ミナモ 】
「それなら結構ですわ……明日の朝は早いですわよ! むにゃ……」
そう言って、さっさと寝床に引っ込んでしまうミナモ。
【 サノウ 】
「…………」
サノウは、無言でその場を離れたのだった……
その後。
【 セイレン 】
「ぐぅぐぅ……」
【 ホノカナ 】
「わっ!? セイレンさん、なんでこんなところで寝てるんですか……!?」
【 ゼンキョク 】
「寝相が悪いと言っても、限度がありますね……」
酒屋の外で寝入っていたセイレンは、ホノカナたちに発見され、屋内に運び込まれたのだった……
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