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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
316/421

◆◆◆◆ 9-16 沐浴 ◆◆◆◆

 賊たちを載せた荷馬車を見送るホノカナとゼンキョク……

 その姿を、こっそりとうかがっている影があった。


【 サノウ 】

「……やれやれ。やっぱり、ただの旅人なんかじゃ、なかったみたいだなぁ……」


 そう呟いたのは人呼んで雲竜飛聖うんりゅうひせいヘキ・サノウ。


【 サノウ 】

「念のため、狸寝入りしてたけど……う~ん、お嬢サマに報告しておいた方がいいのやら……?」


 連れのミナモは、あてがわれた寝床でスヤスヤ安眠している。


【 サノウ 】

「面倒だし、放っておきたいのはヤマヤマだけど……真面目にやらないと、また師父しふに怒られるしぃ……」


 つい先日、師である流渦深仙りゅうかしんせんにこっぴどく絞られたばかりである。

 どうも嫌な予感がして、例の会盟の儀式から抜け出したところ、師に見つかり、さんざん説教される羽目になったのだ。


【 サノウ 】

「はぁ……とりあえず、伝えるだけ伝えておくかなァ……」


 と、サノウがミナモの寝所へと足を向けた、その時。


 ……チャプン……


【 サノウ 】

「うっ……!?」


 なぜか、足が生ぬるい水に包まれた。


【 サノウ 】

「こ、これはっ……!?」




 あたりに、濛濛もうもうとした湯気が立ち込めている。

 そこは、巨大な浴場であった。


【 サノウ 】

(幻術かっ……いや、これは――)


 ただのまやかし、ではない。

 お湯で濡れた足の感覚といい、肌に触れる湯気の熱さといい、本物としか思われなかった。


【 サノウ 】

(どこか別の場所に、呼び込まれたっ……?)


【 ???? 】

『ああ――ごめんなさいね、驚かせてしまって』


 湯けむりの向こうから、女の声がした。


【 サノウ 】

「…………っ」


 目をこらすと、一人の女が沐浴もくよくしていた。

 *沐浴……身体を浄めるの意。


 まばゆい美貌と輝くような柔肌に、つい目を奪われてしまう。


【 サノウ 】

「あ……あ、あんたはっ……」


 その顔には、見覚えがある。

 先ほどまで食卓を囲んでいた、三人の旅人のひとり……


【 サノウ 】

「ずっとウトウトしてた、リクとか呼ばれてた女っ……!?」


【 リク 】

リク――ああ、そうでしたね。そういうことにしておきましょう』


【 サノウ 】

(なんだ……この、感じっ……)


 サノウは、背中にじっとりと汗をかいていた。

 先刻まで寝てばかりいたあの女と、姿こそ同じだが、その気配はまるで別人である。


【 サノウ 】

(まるで、師父しふにはじめて会ったときのようなっ……)


 目の前の女からは、師である流渦深仙りゅうかしんせんに匹敵する……いや、それ以上の圧力が感じられた。


【 リク 】

『ああ――そうでした、思い出しました。あなたは、テンカイのところの弟子ですね。いつぞやの〈衆会しゅえ〉で見かけた覚えがあります』

 *衆会……集会。ここでは神仙関係の集まりの意。


【 サノウ 】

「……っ! わ、我が師父しふの名を、軽々しくっ……!」


 いつになく、サノウは怒気をあらわにした。

 流渦深仙りゅうかしんせんの姓名は〈チョウ・テンカイ〉というが、呼び捨てにしていいのは立場が上の者だけである。

 ふだん礼儀作法など顧みないサノウだが、さすがにこれは見過ごせるものではなかった。


【 リク 】

『ああ――ごめんなさいね、つい、昔のクセで。悪気はないの』


【 サノウ 】

「……ふうん? ま、まあ……それなら、いいけど……」


【 蒼清宮そうせいきゅうの者 】

『そう――ありがとう』


【 蒼清宮そうせいきゅうの者 】

『――それから、背中に隠しているその呪符も、引っ込めてもらえるとありがたいのだけれど』

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