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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
315/421

◆◆◆◆ 9-15 悪名 ◆◆◆◆

【 ホノカナ 】

「……あれっ? すごくキョトンとされてるっ……もしかして、宝玲山ほうれいざんを知らないんですか?」


【 酒屋のおやじ 】

「い、いや……いえっ、存じておりますがっ……」


【 手下 】

「人侠烈聖なんてのは、聞いたことがねぇ……〈天侠大聖てんきょうたいせい〉なら知ってるが……」


【 ホノカナ 】

「……まあ、仕方ないですね、最近名乗り始めたばかりですから! とにかく、わたしは天侠大聖の妹分にして、宝玲山の副頭目なのです!」


【 無頼漢たち 】

「…………」


 男たちは、しばしあっけに取られていたが、


【 酒屋のおやじ 】

「――そ、そんな御方とはつゆ知らず、とんだご無礼をっ……おい、お前らもお詫びしろっ……!」


【 手下たち 】

「へ、へぇっ……大変、お見それいたしやした……!」


 と、そろって頭を下げる。


【 ホノカナ 】

「……ゴホン。わたしたちの同志として、宝玲山の一味に加わってくれるなら、今回のことは水に流して、逃がしてあげましょう」


【 酒屋のおやじ 】

「ほ、本当でっ……?」


【 ホノカナ 】

「ええ。路銀をあげますから、それを持って宝玲山まで行ってください。紹介状もしたためます」


【 酒屋のおやじ 】

「あ、ありがたい限りでっ……お前らも、いいだろうっ?」


【 手下たち 】

「もちろんっ……!」


 ここを先途せんどとばかりに、ペコペコと頭を下げてくる。

 *先途……分かれ目、瀬戸際の意。


【 ホノカナ 】

「…………」


 その姿を眺めていたホノカナは、


【 ホノカナ 】

「いいでしょう。では老師せんせい、お願いします」


【 ゼンキョク 】

「――心得ました」


 ゼンキョクが、はりを手に進み出てくる。

 それらは一本一本が太く、また長く、傍目には凶器そのものだ。


【 無頼漢たち 】

「ひっ……!?」


 怯え、身をよじる男たちに、


【 ゼンキョク 】

「動くと痛いので、じっとしていることをお勧めしますよ――ふッ!」


 ドスッ! ドシュッ! ズドッ!


【 無頼漢たち 】

「ぐあっ……ひぃっ!?」


 次々と、男たちの体内に鍼を打ち込んでいくゼンキョク。


【 酒屋のおやじ 】

「なっ……う、ううっ……!? は、鍼がっ……身体の、中にぃ……!?」


【 ゼンキョク 】

「なに、ご安心を。いたって無害なものです――しばらくは、ね」


【 ゼンキョク 】

「ですが、ざっと百日以内に取り出さなければ、五臓六腑ごぞうろっぷをことごとく貫き、死ぬよりも辛い苦しみをもたらすことになるでしょう」


【 無頼漢たち 】

「――――っ!」


【 ゼンキョク 】

「この〈百日奪命鍼ひゃくにちだつめいばり〉、取り出せるのはこの私――〈救神双手きゅうしんそうしゅ〉、ただひとり」


 薄く笑うゼンキョク。


【 無頼漢たち 】

「ひっ……救神双手っ……!?」


【 無頼漢たち 】

「己の医術を極めるために、無数の罪人で実験を繰り返したっていう、あの闇医者っ……!?」


 ゼンキョクの二つ名を聞き、震え上がる男たち。


【 ゼンキョク 】

「やれやれ、とんだ悪評が立っているようですね。なに、百日の間に、私と再会できれば問題ありませんよ」


【 ゼンキョク 】

「ただし、もしも約束を破ってどこかに逐電ちくでんでもしようものなら――わかりますね?」

 *逐電……逃げ出す、行方をくらますの意。


【 無頼漢たち 】

「はっ……ははぁっ……!」


 恐れ入って平伏する、悪党どもなのだった。




【 ホノカナ 】

「…………」


 男たちを載せて離れていく荷馬車を見送りながら。


【 ゼンキョク 】

「……本当によろしかったのですか? あのような手合い、本当の意味で役に立つとは思えませんが」


【 ホノカナ 】

「そうかもしれません……けど」


【 ホノカナ 】

「別の生き方があるなら、新しい人生を送る可能性があるなら……それを示してあげられたらって」


【 ホノカナ 】

「だって――まだ、生きてるんだから」


【 ゼンキョク 】

「ふむ……ただの義侠心でもない、と」


【 ホノカナ 】

「姉さまなら、なんの条件もつけないんでしょうけど……わたしは、そこまで人を信じられないので」


【 ホノカナ 】

「だから、老師せんせいに手伝ってもらいました」


【 ゼンキョク 】

「それでいいのではありませんか? あの方にはあの方、あなたにはあなたのやり方がありましょう」


【 ゼンキョク 】

「あの方は昔から、人間というものに深いところで絶望しつつ、それでも見捨てきれない……そんな甘さがありますので」


【 ホノカナ 】

「……アン老師せんせいは、姉さまとは古い付き合いなんですか?」


【 ゼンキョク 】

「……ええ。いささか」


【 ホノカナ 】

「…………」


【 ホノカナ 】

「そういえば、さっきあの人たちが言ってたこと……ただの、噂ですよね?」


【 ゼンキョク 】

「ああ、実験がどうこうという話ですか? ふふ、もちろんですよ」


【 ホノカナ 】

「で、ですよねぇ~」


 ホッと安堵するホノカナ。


【 ゼンキョク 】

「…………」


【 ゼンキョク 】

「(……まぁ、まったくの嘘八百でもありませんが)」


 ぽつりと呟いたゼンキョクの言葉は、ホノカナの耳には届かなかった。

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