◆◆◆◆ 9-10 奇縁 ◆◆◆◆
【 女の声 】
「わたくしともあろう者がっ……なんたる失態っ! この恥辱、晴らさずにはおれませんわっ! 必ずや、千倍返しにしてさしあげますわぁ~~っ!」
【 男の声 】
「うへぇぇ……ボクはやめておけって言ったのにぃ……お嬢サマに無理矢理付き合わされて、こんな目に……うぐぅぅ……」
男女ふたりの声がする。
やはり縛られているようで、ジタバタとしきりに悶えている。
【 ホノカナ 】
「あ、あのっ……あなたたちも、捕まっちゃったんですかっ?」
【 女の声 】
「むむっ……? 助けが来た……わけではないようですわね。あなたたち、何者ですのっ?」
【 ホノカナ 】
「えっと、旅の者なんですけど、食事をとったら、眠らされちゃって……」
【 女の声 】
「むぅ……わたくしたちと同じですわね! あの不埒なる店主、断じて許せませんわっ! 生きたまま八つ裂きにして、釣りの餌にしてあげますわっ!」
【 ホノカナ 】
「怖っ……」
【 男の声 】
「う~ん、ぼ、ボクは、ちょっとした毒なんか効かないはずなんだけどぉ……安酒に付き合わされたから……うっぷぅ……」
【 女の声 】
「このままではよくて奴隷として売られ、下手をすれば饅頭っ……そんなのは断じて御免ですわ! あなたたちも、脱出に手を貸しなさい!」
【 ホノカナ 】
「そ、それはもちろんですけど、でも、どうすれば……」
【 ゼンキョク 】
「ふむ――ではそろそろ、お暇するとしましょうか」
【 ホノカナ 】
「――えっ?」
ゴキッ……グキッ……
ゼンキョクの肢体から、異様な音が響く。
【 ホノカナ 】
「晏老師……!?」
と、ホノカナが目を見張る間に、
パラリ……
【 ゼンキョク 】
「やれやれ。……いささか骨が折れましたね。いや、折れてはいませんが」
手足を縛っていた縄から脱し、顔をしかめるゼンキョク。
【 ホノカナ 】
「!? 晏老師、どうやってっ……」
【 ゼンキョク 】
「なに、手足の関節をちょっと外したりなんだりとしただけです。こう見えても、医者ですので」
さらりと言う。
【 ホノカナ 】
「お医者さまだからって、みんなができるわけじゃないと思いますけど!?」
【 ゼンキョク 】
「なに、心がけしだいというものです」
などと言いながら、手早くホノカナやセイレンの拘束を解く。
【 女の声 】
「なんだかよくわからないですけれど、大したものですわね! こちらもお願いいたしますわ!」
【 ゼンキョク 】
「――構いませんか、副頭目?」
【 ゼンキョク 】
「(……もしかすると、嶺将軍の手の者かもしれませんが?)」
【 ホノカナ 】
「――――」
言われてみれば、その可能性は否定できない。
だと、しても……
【 ホノカナ 】
「――もちろんです、困ってるときはお互いさまなので!」
【 ゼンキョク 】
「……なるほど」
ゼンキョクは薄く微笑み、男女の縄も手早くほどいた。
【 若い女 】
「ふぅ――助かりましたわ! このご恩は決して忘れません! そうですわね、方士殿っ!」
【 若い男 】
「え、えへへ……えぇ、もちろん……くっふふ……」
女の方は端正な顔立ちながら引き締まった体躯の持ち主で、男の方はすこぶる顔色が悪い。
【 若い女 】
「さぁっ、悪党どもをぶちのめしてやるとしましょうっ! 参りますわよっ! 得物は……おや、おあつらむきに、ちょうどいいものがありますわね!」
やけに巨大な包丁を手に取る。
それがなにを斬るために使われていたのかは、あまり考えたくないところだった。
【 若い男 】
「い、いやいや……お嬢サマ、ボク、まだ、本調子じゃないんですけどぉ……」
【 若い女 】
「はぁ~? 気合が足りませんわねっ! 一発ぶん殴れば、元気が出てくるのではなくって? 頬がいいかしら、もしくは鳩尾がいいかしらっ?」
【 若い男 】
「ど、どっちも嫌なんですけどぉっ……!」
【 ホノカナ 】
「あ、あのぉ~……」
【 若い女 】
「おっと、あなたがたも加勢してくださるのかしら? そうでなくては! ともに悪党どもをぶち転がしましょうっ!」
【 若い女 】
「――申し遅れましたわね、わたくしは、翠・ヤクモが一子、ミナモと申します! 世間では神弓姫などと呼ばれておりますけれど、まあ、控えめにいって天下第二の腕前と自負しておりますわ! 天下一? それはもちろん父上ですので!」
【 ホノカナ 】
(翠……ミナモ……!?)
それは、今まさに北上中である嶺・グンムの軍における、最重要人物のひとりの名に他ならなかった――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




