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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
310/421

◆◆◆◆ 9-10 奇縁 ◆◆◆◆

【 女の声 】

「わたくしともあろう者がっ……なんたる失態っ! この恥辱、晴らさずにはおれませんわっ! 必ずや、千倍返しにしてさしあげますわぁ~~っ!」


【 男の声 】

「うへぇぇ……ボクはやめておけって言ったのにぃ……お嬢サマに無理矢理付き合わされて、こんな目に……うぐぅぅ……」


 男女ふたりの声がする。

 やはり縛られているようで、ジタバタとしきりに悶えている。


【 ホノカナ 】

「あ、あのっ……あなたたちも、捕まっちゃったんですかっ?」


【 女の声 】

「むむっ……? 助けが来た……わけではないようですわね。あなたたち、何者ですのっ?」


【 ホノカナ 】

「えっと、旅の者なんですけど、食事をとったら、眠らされちゃって……」


【 女の声 】

「むぅ……わたくしたちと同じですわね! あの不埒ふらちなる店主、断じて許せませんわっ! 生きたまま八つ裂きにして、釣りの餌にしてあげますわっ!」


【 ホノカナ 】

「怖っ……」


【 男の声 】

「う~ん、ぼ、ボクは、ちょっとした毒なんか効かないはずなんだけどぉ……安酒に付き合わされたから……うっぷぅ……」


【 女の声 】

「このままではよくて奴隷として売られ、下手をすれば饅頭っ……そんなのは断じて御免ですわ! あなたたちも、脱出に手を貸しなさい!」


【 ホノカナ 】

「そ、それはもちろんですけど、でも、どうすれば……」


【 ゼンキョク 】

「ふむ――ではそろそろ、お暇するとしましょうか」


【 ホノカナ 】

「――えっ?」


 ゴキッ……グキッ……


 ゼンキョクの肢体から、異様な音が響く。


【 ホノカナ 】

アン老師せんせい……!?」


 と、ホノカナが目を見張る間に、


 パラリ……


【 ゼンキョク 】

「やれやれ。……いささか骨が折れましたね。いや、折れてはいませんが」


 手足を縛っていた縄から脱し、顔をしかめるゼンキョク。


【 ホノカナ 】

「!? アン老師せんせい、どうやってっ……」


【 ゼンキョク 】

「なに、手足の関節をちょっと外したりなんだりとしただけです。こう見えても、医者ですので」


 さらりと言う。


【 ホノカナ 】

「お医者さまだからって、みんなができるわけじゃないと思いますけど!?」


【 ゼンキョク 】

「なに、心がけしだいというものです」


 などと言いながら、手早くホノカナやセイレンの拘束を解く。


【 女の声 】

「なんだかよくわからないですけれど、大したものですわね! こちらもお願いいたしますわ!」


【 ゼンキョク 】

「――構いませんか、副頭目?」


【 ゼンキョク 】

「(……もしかすると、レイ将軍の手の者かもしれませんが?)」


【 ホノカナ 】

「――――」


 言われてみれば、その可能性は否定できない。


 だと、しても……


【 ホノカナ 】

「――もちろんです、困ってるときはお互いさまなので!」


【 ゼンキョク 】

「……なるほど」


 ゼンキョクは薄く微笑み、男女の縄も手早くほどいた。


【 若い女 】

「ふぅ――助かりましたわ! このご恩は決して忘れません! そうですわね、方士殿っ!」


【 若い男 】

「え、えへへ……えぇ、もちろん……くっふふ……」


 女の方は端正な顔立ちながら引き締まった体躯の持ち主で、男の方はすこぶる顔色が悪い。


【 若い女 】

「さぁっ、悪党どもをぶちのめしてやるとしましょうっ! 参りますわよっ! 得物は……おや、おあつらむきに、ちょうどいいものがありますわね!」


 やけに巨大な包丁を手に取る。

 それがなにを斬るために使われていたのかは、あまり考えたくないところだった。


【 若い男 】

「い、いやいや……お嬢サマ、ボク、まだ、本調子じゃないんですけどぉ……」


【 若い女 】

「はぁ~? 気合が足りませんわねっ! 一発ぶん殴れば、元気が出てくるのではなくって? 頬がいいかしら、もしくは鳩尾みぞおちがいいかしらっ?」


【 若い男 】

「ど、どっちも嫌なんですけどぉっ……!」


【 ホノカナ 】

「あ、あのぉ~……」


【 若い女 】

「おっと、あなたがたも加勢してくださるのかしら? そうでなくては! ともに悪党どもをぶち転がしましょうっ!」


【 若い女 】

「――申し遅れましたわね、わたくしは、スイ・ヤクモが一子、ミナモと申します! 世間では神弓姫しんきゅうきなどと呼ばれておりますけれど、まあ、控えめにいって天下第二の腕前と自負しておりますわ! 天下一? それはもちろん父上ですので!」


【 ホノカナ 】

スイ……ミナモ……!?)


 それは、今まさに北上中であるレイ・グンムの軍における、最重要人物のひとりの名に他ならなかった――

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