◆◆◆◆ 8-69 飛報 ◆◆◆◆
【 シュレイ 】
「――すでに、各地の諸軍へ送る檄文の準備は整えております」
*檄文……触れ文の意。
話題を変えて、檄文の下書きを差し出すシュレイ。
【 グンム 】
「ふむふむ……『我は国母さまより命を受け、朝廷を改め、天下の政を刷新せんとす……』うんぬん、か。よくできてるじゃないか」
【 シュレイ 】
「これを受け取った者たちが、すぐに味方として馳せ参じる……などとは思えませんが、あらかじめ布石は打っておくべきかと」
【 グンム 】
「そうだな。……やれやれ、これで俺は、天下を取るか、謀叛人として野垂れ死にするか……どっちかってわけだ」
【 シュレイ 】
「……将軍、天下を取るとは、いかなることとお思いですか?」
【 グンム 】
「そりゃあ……まあそうだな、宰相にでもなれりゃ、十分じゃあないか?」
【 シュレイ 】
「ほう、宰相の座につき、天子を擁し、諸侯に号令する――と、いったところですか」
【 グンム 】
「それ以外にあるか? まあ、もっと上なら、丞相っていうのもあるか」
【 グンム 】
「ま、そのへんの地位につけば、ひとまず安泰だろ。あとは、老師お得意の謀略でヨソの連中を争わせたりして、うまい具合にできれば万々歳だな」
【 シュレイ 】
「……先日、師父が将軍をなんと呼ばれたか、憶えておいでですか?」
【 グンム 】
「ああ、施主殿……とか呼んでたな。さしづめ、烙宰相の葬儀委員長ってところか」
【 シュレイ 】
「それもありましょうが……私はもう一つ、別の意味が込められていたように思います」
【 グンム 】
「……と、いうと?」
【 シュレイ 】
「…………」
【 シュレイ 】
「……いえ、今は申しますまい」
【 グンム 】
「なんだ。ずいぶんともったいぶるじゃないか」
【 シュレイ 】
「いずれ、思い当たることもありましょう。……」
シュレイは口をつぐんだ。
流渦深仙がグンムを〈施主殿〉と呼んだ真の意味……それは、
【 シュレイ 】
(この宙帝国そのものを看取る者――ということに、違いあるまい)
すなわち、宙三千年の歴史に終止符を打ち、新たなる国家を建てる――
それこそが、グンムに期待されている役割。
さすがにそれは、軽々しく口にできるものではない。
【 シュレイ 】
(――どうやら、私の目に狂いはなかったようだ)
神仙をもってしても、未来を完全に見通すことは難しいという。
であっても、それだけの目がある――と見られているだけでも、大変なことだ。
【 シュレイ 】
(やはり、この御仁が――)
古き世を革め、新たなる世を築くにふさわしい、英雄なのであろう。
【 シュレイ 】
(そうでなくてはならぬ。であればこそ、この私は――)
【 グンム 】
「――――っ」
ふいに、グンムが刀に手をかけた。
【 シュレイ 】
「……っ! 将軍っ?」
【 グンム 】
「誰か来る――」
【 ???? 】
「――失礼いたすッ!」
幕舎に、息を荒げた人物が飛び込んできた。
【 グンム 】
「――おお、ユイ殿かっ」
帝都の状況を確かめるべく派遣されていた、虎王・ユイであった。
【 シュレイ 】
「その様子……帝都で、なにか異変が?」
【 ユイ 】
「い――異変なんてものじゃあ、ありませんよっ……」
いつになく、息を乱しながら。
【 ユイ 】
「謀叛が起こって、帝都は炎上っ……十二佳仙は潰滅し、煌太后は宮廷から退去したとの由……!」
【 シュレイ 】
「…………!」
【 グンム 】
「――だとすると、今は誰が朝廷を?」
【 ユイ 】
「天子おんみずから、政を執っているとかっ……!」
【 グンム 】
「なるほどな。……宰相の見立て、まんざら外れてもいなかったようだ」
【 シュレイ 】
「……っ、嶺将軍……いかがなさいますかっ?」
【 グンム 】
「そりゃあ、決まってるだろ」
嶺・グンムは言った。
【 グンム 】
「予定通り、だ」
かくして、ここに。
皇帝〈焔・ヨスガ〉と、叛将〈嶺・グンム〉、この両者が覇を競う情勢を迎えたのである――
(第八幕:完)
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