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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
300/421

◆◆◆◆ 8-69 飛報 ◆◆◆◆

【 シュレイ 】

「――すでに、各地の諸軍へ送る檄文げきぶんの準備は整えております」

 *檄文……触れ文の意。


 話題を変えて、檄文の下書きを差し出すシュレイ。


【 グンム 】

「ふむふむ……『我は国母さまより命を受け、朝廷を改め、天下の政を刷新さっしんせんとす……』うんぬん、か。よくできてるじゃないか」


【 シュレイ 】

「これを受け取った者たちが、すぐに味方として馳せ参じる……などとは思えませんが、あらかじめ布石は打っておくべきかと」


【 グンム 】

「そうだな。……やれやれ、これで俺は、天下を取るか、謀叛人として野垂れ死にするか……どっちかってわけだ」


【 シュレイ 】

「……将軍、天下を取るとは、いかなることとお思いですか?」


【 グンム 】

「そりゃあ……まあそうだな、宰相にでもなれりゃ、十分じゃあないか?」


【 シュレイ 】

「ほう、宰相の座につき、天子を擁し、諸侯に号令する――と、いったところですか」


【 グンム 】

「それ以外にあるか? まあ、もっと上なら、丞相じょうしょうっていうのもあるか」


【 グンム 】

「ま、そのへんの地位につけば、ひとまず安泰だろ。あとは、老師せんせいお得意の謀略でヨソの連中を争わせたりして、うまい具合にできれば万々歳だな」


【 シュレイ 】

「……先日、師父が将軍をなんと呼ばれたか、憶えておいでですか?」


【 グンム 】

「ああ、施主せしゅ殿……とか呼んでたな。さしづめ、ラク宰相の葬儀委員長ってところか」


【 シュレイ 】

「それもありましょうが……私はもう一つ、別の意味が込められていたように思います」


【 グンム 】

「……と、いうと?」


【 シュレイ 】

「…………」


【 シュレイ 】

「……いえ、今は申しますまい」


【 グンム 】

「なんだ。ずいぶんともったいぶるじゃないか」


【 シュレイ 】

「いずれ、思い当たることもありましょう。……」


 シュレイは口をつぐんだ。

 流渦深仙がグンムを〈施主殿〉と呼んだ真の意味……それは、


【 シュレイ 】

(このちゅう帝国そのものを看取る者――ということに、違いあるまい)


 すなわち、宙三千年の歴史に終止符を打ち、新たなる国家を建てる――

 それこそが、グンムに期待されている役割。

 さすがにそれは、軽々しく口にできるものではない。


【 シュレイ 】

(――どうやら、私の目に狂いはなかったようだ)


 神仙をもってしても、未来を完全に見通すことは難しいという。

 であっても、それだけの目がある――と見られているだけでも、大変なことだ。


【 シュレイ 】

(やはり、この御仁が――)


 古き世をあらため、新たなる世を築くにふさわしい、英雄なのであろう。


【 シュレイ 】

(そうでなくてはならぬ。であればこそ、この私は――)


【 グンム 】

「――――っ」


 ふいに、グンムが刀に手をかけた。


【 シュレイ 】

「……っ! 将軍っ?」


【 グンム 】

「誰か来る――」


【 ???? 】

「――失礼いたすッ!」


 幕舎に、息を荒げた人物が飛び込んできた。


【 グンム 】

「――おお、ユイ殿かっ」


 帝都の状況を確かめるべく派遣されていた、虎王コオウ・ユイであった。


【 シュレイ 】

「その様子……帝都で、なにか異変が?」


【 ユイ 】

「い――異変なんてものじゃあ、ありませんよっ……」


 いつになく、息を乱しながら。


【 ユイ 】

「謀叛が起こって、帝都は炎上っ……十二佳仙は潰滅し、コウ太后は宮廷から退去したとのよし……!」


【 シュレイ 】

「…………!」


【 グンム 】

「――だとすると、今は誰が朝廷を?」


【 ユイ 】

「天子おんみずから、まつりごとっているとかっ……!」


【 グンム 】

「なるほどな。……宰相の見立て、まんざら外れてもいなかったようだ」


【 シュレイ 】

「……っ、レイ将軍……いかがなさいますかっ?」


【 グンム 】

「そりゃあ、決まってるだろ」


 レイ・グンムは言った。


【 グンム 】

「予定通り、だ」




 かくして、ここに。

 皇帝〈エン・ヨスガ〉と、叛将〈レイ・グンム〉、この両者が覇を競う情勢を迎えたのである――



(第八幕:完)

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