◆◆◆◆ 8-67 進撃 ◆◆◆◆
――思いがけない珍客の登場でしばし混乱した会盟であったが、その後はなにごともなく、無事に誓約を終えた。
ここに〈獅水の会盟〉は終わり、帝都へ進撃すべく、陣が整えられるに至ったのである。
その数は、
官軍、約十万
南軍、約一万五千
森羅軍、約一万
と、いったところ。
これを二十万の軍と号して、一路、帝都への進軍が開始されたのだった。
――急に兵を返して、帝都を攻める。
――それも、つい先日まで戦っていた相手と共に。
詳しい事情を知らない兵士たちにしてみれば、ここ最近の事態は、まったくもって困惑以外のなにものでもなかったであろう。
【 官軍の兵 】
「大していくさもしていないのに、もう帰ることになるとはなぁ……」
【 他の官軍の兵 】
「まあ、命あっての物種ってやつだ。こんな辺境の土になるのはまっぴらだろ?」
【 別の官軍の兵 】
「それもそうだ。……それで、次は天子さまを攻めるんだって?」
【 訳知り顔の官軍の兵 】
「ああ、国母さまのご命令らしい。天子さまが謀叛を企んでるんだとさ」
【 素朴な官軍の兵 】
「天子さまが謀叛って、おかしな気もするが……天子さまって、この世で一番偉いんじゃないのか?」
【 訳知り顔の官軍の兵 】
「まあ、建前上はな。よくわからんが、勝ち馬に乗れば、恩賞も思いのままってわけだ」
【 欲深い官軍の兵 】
「それが一番だよな! こっちじゃあ、メシに苦労はしなかったが、カネもオンナも手に入らなかったし……」
【 官軍の兵 】
「女っていやあ……岳南の兵だけじゃなくて、森羅の兵も加わってるっていうじゃないか。大丈夫なのか?」
【 別の官軍の兵 】
「むむ……あの連中、宙人を恨んでるだろうしな」
【 訳知り顔の官軍の兵 】
「なぁに、大した数じゃないし、心配はいらんさ。連中はなかば人質のようなもんだ」
【 素朴な官軍の兵 】
「なるほど、人質……」
【 訳知り顔の官軍の兵 】
「それに、翠公だの森羅の軍だのが加わってる……っていうのは、他の勢力に対する宣伝材料に使えるからな」
【 素朴な官軍の兵 】
「へえ、なるほどねえ。……偉い人たちの考えることは、おっかえねえな」
【 素朴な官軍の兵 】
「――それにしても、みやこを攻めるみたいだが……それって、こっちが謀叛人になるんじゃないのか?」
【 訳知り顔の官軍の兵 】
「――おい、めったなことを言うな。……国母さまの命令なんだから、謀叛じゃないだろう。それに、幽聖岳の神仙さまのお墨付きだからな」
【 官軍の兵たち 】
「おお――それもそうだ。ありがたや、ありがたや……」
こうした兵たちの中には、シュレイの息がかかった者も混じっており、巧みに人心を操作していたのである。
【 シュレイ 】
「――そんな工夫の甲斐あって、兵の動揺は抑えられているようです」
【 グンム 】
「骨を折らせたな、楽老師」
夜ふけ。
帝都へ向かう陣中にあって、グンムとシュレイが密談を交わしていた。
【 シュレイ 】
「いえ……これからの難儀を思えば、さしたることではありません」
【 グンム 】
「まったくな。……ああ、おっくうだ」
グンムはため息をこぼした。
そこには、先の会盟で見せた颯爽たる雄姿のかけらも感じられない。
【 シュレイ 】
「よもや、早くも心が揺らいでいるのではありますまいな?」
【 グンム 】
「まさか。今からそんな調子じゃあ、烙宰相に笑われちまうからな」
【 シュレイ 】
「…………」
烙・レツドウの最期の様子は、すでにシュレイからグンムに伝えられていた。
【 グンム 】
「天下の責をその肩に負うことになる――か。……確かに、早くもずっしりと肩が重い気がするな」
【 シュレイ 】
「後悔、されているのですか?」
【 グンム 】
「いや、それはない」
【 グンム 】
「なんせ、のんきにしてたら、今頃は俺の首が胴から離れてたかもしれないんだからな。だから、悔やんじゃいないが……」
【 グンム 】
「死者に叱責されるような真似はできない、って気にはなるさ」
【 シュレイ 】
「……まことに」
死者に恥じぬよう力を尽くすのが、生きのびた者のつとめというものであろう。
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