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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
298/421

◆◆◆◆ 8-67 進撃 ◆◆◆◆

 ――思いがけない珍客の登場でしばし混乱した会盟であったが、その後はなにごともなく、無事に誓約を終えた。

 ここに〈獅水しすいの会盟〉は終わり、帝都へ進撃すべく、陣が整えられるに至ったのである。

 その数は、

 官軍、約十万

 南軍、約一万五千

 森羅軍、約一万

 と、いったところ。

 これを二十万の軍と号して、一路、帝都への進軍が開始されたのだった。




 ――急に兵を返して、帝都を攻める。

 ――それも、つい先日まで戦っていた相手と共に。

 詳しい事情を知らない兵士たちにしてみれば、ここ最近の事態は、まったくもって困惑以外のなにものでもなかったであろう。


【 官軍の兵 】

「大していくさもしていないのに、もう帰ることになるとはなぁ……」


【 他の官軍の兵 】

「まあ、命あっての物種ってやつだ。こんな辺境の土になるのはまっぴらだろ?」


【 別の官軍の兵 】

「それもそうだ。……それで、次は天子さまを攻めるんだって?」


【 訳知り顔の官軍の兵 】

「ああ、国母さまのご命令らしい。天子さまが謀叛を企んでるんだとさ」


【 素朴な官軍の兵 】

「天子さまが謀叛って、おかしな気もするが……天子さまって、この世で一番偉いんじゃないのか?」


【 訳知り顔の官軍の兵 】

「まあ、建前上はな。よくわからんが、勝ち馬に乗れば、恩賞も思いのままってわけだ」


【 欲深い官軍の兵 】

「それが一番だよな! こっちじゃあ、メシに苦労はしなかったが、カネもオンナも手に入らなかったし……」


【 官軍の兵 】

「女っていやあ……岳南の兵だけじゃなくて、森羅しんらの兵も加わってるっていうじゃないか。大丈夫なのか?」


【 別の官軍の兵 】

「むむ……あの連中、宙人ちゅうひとを恨んでるだろうしな」


【 訳知り顔の官軍の兵 】

「なぁに、大した数じゃないし、心配はいらんさ。連中はなかば人質のようなもんだ」


【 素朴な官軍の兵 】

「なるほど、人質……」


【 訳知り顔の官軍の兵 】

「それに、スイ公だの森羅の軍だのが加わってる……っていうのは、他の勢力に対する宣伝材料に使えるからな」


【 素朴な官軍の兵 】

「へえ、なるほどねえ。……偉い人たちの考えることは、おっかえねえな」


【 素朴な官軍の兵 】

「――それにしても、みやこを攻めるみたいだが……それって、こっちが謀叛人になるんじゃないのか?」


【 訳知り顔の官軍の兵 】

「――おい、めったなことを言うな。……国母さまの命令なんだから、謀叛じゃないだろう。それに、幽聖岳おやまの神仙さまのお墨付きだからな」


【 官軍の兵たち 】

「おお――それもそうだ。ありがたや、ありがたや……」


 こうした兵たちの中には、シュレイの息がかかった者も混じっており、巧みに人心を操作していたのである。




【 シュレイ 】

「――そんな工夫の甲斐あって、兵の動揺は抑えられているようです」


【 グンム 】

「骨を折らせたな、ガク老師せんせい


 夜ふけ。

 帝都へ向かう陣中にあって、グンムとシュレイが密談を交わしていた。


【 シュレイ 】

「いえ……これからの難儀を思えば、さしたることではありません」


【 グンム 】

「まったくな。……ああ、おっくうだ」


 グンムはため息をこぼした。

 そこには、先の会盟で見せた颯爽たる雄姿のかけらも感じられない。


【 シュレイ 】

「よもや、早くも心が揺らいでいるのではありますまいな?」


【 グンム 】

「まさか。今からそんな調子じゃあ、ラク宰相に笑われちまうからな」


【 シュレイ 】

「…………」


 ラク・レツドウの最期の様子は、すでにシュレイからグンムに伝えられていた。


【 グンム 】

「天下の責をその肩に負うことになる――か。……確かに、早くもずっしりと肩が重い気がするな」


【 シュレイ 】

「後悔、されているのですか?」


【 グンム 】

「いや、それはない」


【 グンム 】

「なんせ、のんきにしてたら、今頃は俺の首が胴から離れてたかもしれないんだからな。だから、悔やんじゃいないが……」


【 グンム 】

「死者に叱責されるような真似はできない、って気にはなるさ」


【 シュレイ 】

「……まことに」


 死者に恥じぬよう力を尽くすのが、生きのびた者のつとめというものであろう。

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