◆◆◆◆ 8-66 祝福 ◆◆◆◆
【 流渦深仙 】
「さて施主殿、我ら仙郷の者は、本来、地上の争いには関わらぬのが法である」
【 流渦深仙 】
「――誰が天下を取るかとか、誰が政を牛耳るかといったような話は、地上の者たちの問題であるがゆえに」
【 グンム 】
「…………」
内心ドキリとしつつも、グンムは素知らぬ顔で頷いてみせる。
【 流渦深仙 】
「しかしながら、現在、邪法をもって世を乱す輩が地の底より湧き出でて、あまたの陰謀を企んでおる」
【 流渦深仙 】
「その規模、その剣呑さたるや、七年前の峰東の比ではない」
【 グンム 】
「――――っ」
七年前、峰東の地にて起きた〈五妖の乱〉……
そこでは多くの将兵、人民が命を落とし、運命を変えられた。
【 流渦深仙 】
「このまま捨て置けば、一国の興亡にもまさる未曽有の災厄とならん」
*未曽有……今まで起きたことのないようなこと、の意。
【 流渦深仙 】
「それを阻止するためには、我らの力だけではかなわぬ。人間……就中、英雄たる資質ある者の力が必要だ」
*就中……とりわけ、中でも特に、の意。
【 流渦深仙 】
「――ゆえに、我ら幽聖岳の者は、貴殿に惜しみなく助力しよう。天下を安寧へと導くべく、励まれよ」
【 グンム 】
「……っ、ははっ……」
グンムは、深々と一礼した。
【 流渦深仙 】
「故あって、あたし……いや、我は直接手を貸すわけにはゆかぬが、追って後詰めを遣わそう」
*後詰め……ここでは援軍の意。
【 グンム 】
「かたじけなく――」
【 流渦深仙 】
「(――まァ、こっちにもいろいろ事情があるンでね。さしあたりは、お前さンたちのお手並みを拝見させてもらうさ)」
【 グンム 】
「…………っ」
頭の中に声が響き、グンムは当惑の色を見せる。
流渦深仙はそんな彼にはかまわず、
【 流渦深仙 】
「――む。変わり種が、いるようだな」
【 アグラニカ 】
「えっ? あ……」
アグラニカに目を向ける。
【 ウツセ 】
「…………っ」
とっさに、ウツセが女王を守るように前に出る。
害意は感じられないが、異国の者に対する神仙の感情がいかなるものか、計りかねたゆえである。
そんなウツセの心情を知ってか知らずか、
【 アグラニカ 】
「どうも、はじめまして! サノウさんには、とてもお世話になりました!」
屈託なく礼を言うアグラニカ。
【 流渦深仙 】
「……不肖の弟子が、少しでもお役に立てたならなによりだ。せいぜい、今後もコキ使っていただこう」
【 アグラニカ 】
「は、ははぁ……」
一礼されて、戸惑い顔のアグラニカ。
【 流渦深仙 】
「では――今は、これにて。貴殿らが、邪なる道に堕ちることなく、世に平穏をもたらすことを、心より祈っておる――さらば!」
流渦深仙がそう告げるや、
――ドドォッ!
すさまじい勢いで噴き上がった水柱が、そのまま巨大な龍へと変化した。
そして、流渦深仙を載せたまま、空高くへ飛び去っていったのだった――
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