◆◆◆◆ 8-63 誓約の壇 ◆◆◆◆
明けて、吉日――
晴天の下、官軍と南軍、および森羅軍の首脳陣による会盟が執り行われることとなった。
盟約を誓う儀式を行うため、突貫工事でこしらえられた祭壇の前に、各軍の重鎮たちが集っている。
【 シュレイ 】
「――会盟の儀の采配、この楽・シュレイが務めさせていただきます」
恭しく一礼したのは、正装姿のシュレイ。
こうした儀式の進行において、方士が仕切ることは珍しくはない。
【 シュレイ 】
「誓約に先立ち、不慮の死を遂げられた烙宰相に、献杯を――」
一同が盃を捧げ、遠征軍の総司令であった烙・レツドウを悼む。
表向きでは、レツドウの死は
――落馬によるもの。
と、されていた。
【 グンム 】
「烙宰相は、天下のために身を捧げるお覚悟をお持ちでした。その結果、異郷に倒れたのは天の巡り合わせというもの……」
*異郷……故郷から遥かに離れた土地の意。
【 グンム 】
「このグンム、浅学非才の身ではございますが、宰相の遺志を継ぐ所存にござる――」
*浅学非才……学問が浅く、才能もないの意。この場合は、当人はそこまでは思っていないが、へりくだって用いているのである。
うっすらと涙を浮かべ、真剣そのものの顔で述べるグンム。
【 ウツセ 】
(……面の皮の厚い御仁だな)
辰・ウツセは、内心そう思った。
なにせ、レツドウが異郷に倒れる羽目になったのは、他ならぬグンムらの策謀によるものなのだ。
【 ウツセ 】
(我らもそれに乗ったのだから、同じ穴のムジナではあるが……)
シュレイから申し込まれた、偽装作戦――
すなわち、シュレイの軍が大敗したと見せかけ、森羅軍が岳南へ進撃する……という筋立て。
ウツセは当初、この策に懐疑的であったが、女王アグラニカの決断によって承諾することとなり……
そして、今に至っている。
【 ウツセ 】
(嶺将軍……信じてよいのか?)
かつて、ウツセはヤクモの副官として、グンムと共に戦ったこともある。
だが、あの頃とは、状況が違いすぎるし……
【 ウツセ 】
(なにより、あのうさんくさい男がそばにいる以上は……とても、心許せる相手ではない)
素知らぬ顔で式の司会役をこなすシュレイの姿を見て、そう思わざるをえない。
とはいうものの、
【 ウツセ 】
(閣下が認めているかぎりは、問題なかろうが……)
そう、ヤクモが受け入れている以上、ウツセは異を唱えるつもりはなかった。
そんな彼の気持ちはさておき、会盟は粛々と続く。
【 グンム 】
「宰相の遺志とは――こちらを成就することにござる」
と、レツドウが手にしていた“皇太后の密旨”を披露する。
それは、
――天子ヨスガに、謀叛の兆しあり。
――我(煌太后)を害し、権を専らにせんと企てている。
――汝、兵をもってこれを正し、新帝を立てよ。
と、いうものであり、
【 グンム 】
「宰相は翠将軍と手を携え、国母さまからの命を果たすおつもりでしたが、はかなくも世を去られました」
【 グンム 】
「翠将軍に罪なきことは明らか――ここは手を取り合い、義軍となって、ともに天下のために働こうではありませんか」
【 ヤクモ 】
「――異存はござらぬ」
と、ヤクモは頷いてみせる。
【 グンム 】
「されば、この義軍の総大将は、ぜひ、武名ならびなき翠将軍にお願いしたく――」
【 ヤクモ 】
「いや、私はもはや半ば引退した身、国家のために大任を果たすことなど思いもよらぬ。ここは、嶺将軍にお任せしよう」
【 グンム 】
「いやいや、それは……」
……などといった儀式的な譲り合いの末に。
ヤクモを盟主、グンムを総大将……とすることで話がついた。
もっとも、これらの流れは、あらかじめ決められた段取りに従っているだけにすぎない。
【 ヤクモ 】
「――私は老齢ゆえ、遠征に参加するのは難しい。ゆえに、我が娘であるミナモを将として派遣いたそう」
【 グンム 】
「ありがたく――」
南軍からはミナモ、ウツセ、ドリュウらが。
森羅軍からはアグラニカ、ヴァンドーラらが加わることとなった。
これもまた、事前に決まっていたことなので、異論も出ない。
【 グンム 】
「女王陛下のご助力、ありがたく存じますが……しかし、一国の女王たる御方に、そこまでの遠征を願うというのは、いささか――」
【 アグラニカ 】
「――どうぞご心配なく。これも、将来の森羅のため……恨みを捨てて、嶺将軍のお力となりましょう」
と、深々と一礼する。
【 グンム 】
「かたじけなく……」
【 ウツセ 】
「(……本当に、よろしいのですか?)」
隣に座るウツセが、アグラニカに小声で尋ねる。
【 アグラニカ 】
「(構いませんとも! どうせ恩を売るなら、とことん高値で売りたいですし……ここまで来たら、噂にきく帝都も見てみたいですし!)」
【 ウツセ 】
「(しかし……)」
【 アグラニカ 】
「(――なによりも)」
【 アグラニカ 】
「(貴方が行くのだから、当然、私も行きます。他に理由が必要ですか?)」
【 ウツセ 】
「(…………っ)」
ウツセは絶句し、返す言葉もなかった。
――かくして、南軍、森羅軍の一部が官軍と合力し、帝都を目指すこととなったのである。
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