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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
293/421

◆◆◆◆ 8-62 思惑 ◆◆◆◆

 別の場所に、視線を転じれば。


【 グンロウ 】

「貴公は――おお、いつぞやの強者か!」


【 ドリュウ 】

「お前は……お前は、おお、あの時の!」


 かつて両軍の緒戦において一騎討ちを演じ、火花を散らした〈突先鋒とつせんぽう〉こと〈(レイ・グンロウ〉と、〈金髭龍きんひげりゅう〉の異名を持つ〈スイ・ドリュウ〉が顔を合わせていた。

 あわや、あの戦いの続きが……と思われたが、


【 グンロウ 】

「……ほほう、なかなかやるっ!」


【 ドリュウ 】

「お前こそ、ちゅう人に、宙人にしては、なかなかのものっ……!」


 腕比べならぬ飲み比べとなり、たちまち互いを認め、意気投合した……などといった光景は、まさに武人は武人を知る――というべきものだった。


 とはいえ、当然ながら。

 このような友好的な邂逅であいばかりがあったわけではない。

 戦場にも劣らぬ駆け引きが火花を散らす一幕もまた、演じられていた。




【 シュレイ 】

「…………」


【 ウツセ 】

「…………」


 グンムの参謀格である〈神算朧師しんざんぼうし〉こと〈ガク・シュレイ〉。

 ヤクモの副官たる〈辰康寧しんこうねい〉こと〈シン・ウツセ〉。

 いわば、両陣営のナンバー2同士が、向かい合っている。


【 シュレイ 】

「――されば、このような手はずで……」


【 ウツセ 】

「……なるほど。異存ありません」


 後ほど開催される会盟そのものは、いわば儀式としての側面が強く、大筋の打ち合わせはこうして水面下で詰められている。

 一見すればただの事務的な手続きのようだが、お互い、内心では別の思惑があった。




【 ウツセ 】

(――いけ好かない男だ)


 シュレイに対して、ウツセはそう思った。

 仮面をつけていて表情がさだかでない……というのは、方士の類だと思えば、さして気にはならない。

 しかし……


【 ウツセ 】

(いちいち、物言いが大仰だし、かんに障るな)


 懇切こんせつ丁寧に説明してくる、といえば聞こえはいいが、どうも、教えてやっている――といった感じで、鼻につく。

 ものごとを語るのに、くどくどと蘊蓄うんちくを重ね、知識をひけらかすようなところもあり、はっきりいえば、


【 ウツセ 】

(感じの悪い男だ)


 と、いうことになる。

 だが、その一方で……

 言葉の端々から、生来の育ちの良さ、品の良さがにじみ出ている面もあり、こうした態度自体が、ある種のハッタリである可能性もある。


【 ウツセ 】

(あるいは……)


 主君であるグンム――厳密に言えばシュレイはグンムの家臣ではないのだが――のため、あえて憎まれ役を買って出ているのかもしれない。

 ウツセが見たシュレイとは、そういう人物であった。




 その、一方で。


【 シュレイ 】

(――特徴のない男だ)


 ウツセのことを、シュレイはそう思った。

 かの南寇王・ヤクモの右腕――と聞いていたので、さぞや切れ者であろうと予想していたのだが、あにはからんや、いたって地味な、凡庸な男である。

 *あにはからんや……意外にも、思いがけず、の意。


【 シュレイ 】

(まあ、無能ではないようだが……さりとて、才気煥発さいきかんぱつとは程遠いな)

 *才気煥発……頭がよく、活発な様子の意。


 こうして打ち合わせをしていても、みずから積極的に発信することは少なく、才覚の片鱗とて感じられない。


【 シュレイ 】

(辺境には、人がいないとみえる)


 などと、つい、侮ってしまいそうになるが……

 しかし、本当に平凡な男なら、ヤクモが己の補佐として大事を任せるはずもない。

 こちらがやや挑発的な言葉を発しても、眉ひとつ動かさず、感情を表に出そうとしない。

 最初は鈍いだけかと思ったが、次第に、


【 シュレイ 】

(――重みがあるな)


 という印象に変わっていった。

 ヤクモに従い、数々の戦場を駆け回ってきた軍人ならではのどっしりとした腰の重さ、というべきか。

 くみやすし――などと油断していたら、あっさりと足元をすくわれそうだ。

 *与し易い……恐れるに足りない、扱いやすい、の意。


【 シュレイ 】

(人の強みは、見えないところにある――と、天書にあったが……)


 この男もそうであるのかもしれない、とシュレイは思った。




【 ウツセ 】

(どうあれ――)



【 シュレイ 】

(――油断できぬ相手だ)



 とは、内心、お互いの意見の一致するところであった。

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