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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
290/421

◆◆◆◆ 8-59 矛盾 ◆◆◆◆

【 ユイ 】

「――ラク宰相は、どうにもソリの合わない御仁ではありましたが……俺を頼みとしてくれたことについては、意気に感じています」


【 ユイ 】

「……ですが、人と人、男と男の付き合いってわけじゃあなかった。冥福は祈りますが、仇を討とうとまでは思いません」


【 グンム 】

「なるほどな。……で、これからどうするね」


【 ユイ 】

「……むしろ貴方こそ、これからどうされるおつもりで?」


【 グンム 】

「ほう、すべては俺の行動次第……ってわけか。妥当な判断だ」


【 ユイ 】

「…………」


【 グンム 】

「ちょうどいい。これからスイ将軍と会うが、その席で今後のことを話すつもりだ。貴公も来てくれ。そこで聞き耳を立ててれば、おのずとわかるさ」


【 ユイ 】

「……わかりました」




【 ヤクモ 】

「なるほど、な。……」


 歓迎の宴の後、主客ふたりきりになったところで。

 宰相卒す――の仔細をグンムから聞かされたヤクモは、そう言ってため息をこぼし、しばし瞑目めいもくした。

 *瞑目……目を閉じ、思いを馳せるの意。


【 ヤクモ 】

(はかないものだ、あれほどの御仁でも)


 ヤクモはレツドウとそこまで縁が深かったわけではないが、それでも、やはりいささか感慨はあった。


【 グンム 】

「私の言を、疑われぬので?」


【 ヤクモ 】

「この期に及んで、虚言を弄するような男でもなかろう」


【 グンム 】

「恐縮です」


【 ヤクモ 】

「それで? この先、いったいどんな陰謀を巡らしているのだ」


【 グンム 】

「人聞きが悪いですな。……せめて、はかりごとと言っていただきたい」


 皮肉めいたヤクモの問いに、つい苦笑するグンム。


【 ヤクモ 】

「同じようなものだ。勝てば策士と称賛されるし、負ければ陰謀家と罵られるだけのこと。……もっとも貴公は、死後の名声になど興味はなさそうだが」


【 グンム 】

「そんなことはありません――と言いたいところですが、まあ、あまり関心はありませんね。別に、代々の名門でもなし……スイ将軍は、お気になさるので?」


【 ヤクモ 】

「いささかは、な。晩節ばんせつを汚した……と史書に記されたくはない。もっとも、このようなものは、おおかた時の運だ」

 *晩節……人生の終わりの意。


【 グンム 】

「さよう、何事にも運はありますが……それまでに、打てる手はすべて打っておかねばなりますまい」


【 ヤクモ 】

「それはそうだ。……では、その手とやらを聞こう」


【 グンム 】

「――といっても、べつだん、目新しい話はありません」


【 グンム 】

「私が考えているのは、宰相閣下の策を、そのまま受け継ぐことですので」


【 ヤクモ 】

「ふむ、つまり……我が軍と和睦し、兵を返して帝都を制圧し、新帝を立てる――ということか」


【 グンム 】

「その通りです」


【 ヤクモ 】

「仮に、万事、首尾よくいったとしよう。その先はどうする?」


【 グンム 】

「その先は――」


【 グンム 】

「――正直なところ、考えてはおりません。私にとって、これはあくまで保身のための行動です」


【 ヤクモ 】

「己を害する可能性のある者を排除できれば、それで良し、と?」


【 グンム 】

「自分では、そう思っておりますが……」


【 グンム 】

「……しかし、人の群れというものは、とかく御しがたいもの。将軍も、それはお分かりかと存じますが」


【 ヤクモ 】

「……否定はできぬな。我が民も一枚岩ではないし……彼らの求めに応じ続けていったら、さて、どうなることか」


【 グンム 】

「さもありましょう。ゆえに、私もどこで身を引くかが考えどころなのですが……これはもう、臨機応変に行くしかありますまいな」


【 ヤクモ 】

「ふむ。現時点では、あまりにも不確定な要素が多過ぎるゆえな」


【 グンム 】

「……俺はね、将軍、たいしたものはいらないんです。贅沢三昧したいわけじゃあないし、皆を平伏させて偉そうにふんぞり返りたい、ってわけでもない」


 ざっくばらんな態度で、ヤクモを見つめるグンム。


【 グンム 】

「それでも、奪われる恐れがあるなら、防ぐしかない。たったそれだけの、単純な話なんですがね」


【 ヤクモ 】

「…………」


 スイ・ヤクモは、眼前の男をじっと見つめる。


【 ヤクモ 】

(嘘は、言っていないようだが……)


 己の身を愛する保身の思いと、一国を牛耳ろうという野心――それは一見すると遠いもののようだが、グンムの中では矛盾なく同居しているのかもしれない。


【 ヤクモ 】

(どうあれ――)


 すでに事態は動き始めている。

 もはや、静観するのは得策ではない。


【 グンム 】

「さて――いかがです、スイ巡察使。我らと手を組み、大業を果たしていただけましょうか」


【 ヤクモ 】

「…………」


 ヤクモはしばしの沈黙の末、ゆっくりと口を開いた――

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