◆◆◆◆ 8-57 落馬 ◆◆◆◆
【 タシギ 】
「さて……宰相閣下。思えば、アンタとの付き合いも長いけど……」
【 タシギ 】
「もし助かりたいなら、アタシに命乞いしてみなよ。上手にお願いできたら、助けてやるかもしれないよぉ~~?」
【 レツドウ 】
「…………っ」
【 シュレイ 】
「銀司馬、戯れは……」
【 タシギ 】
「はァ? 戯れじゃねーし。本気で、恥も外聞もなく命乞いしてきたら、助太刀してやるさ。閣下には、結構、恩もあるからさぁ~」
【 レツドウ 】
「…………」
【 タシギ 】
「ほら、言ってみなよ。馬から降りて、地べたに額すりつけて、お願いしてみなよっ。そうしたら、助かるかもよぉ~~?」
【 レツドウ 】
「…………っ」
【 レツドウ 】
「――楽なにがしとやら。なぜ、わざわざこの者を呼んだ?」
【 タシギ 】
「はァ? なに無視してんだよッ……!」
【 レツドウ 】
「お前は黙っておれッ!」
【 タシギ 】
「――――っ」
【 シュレイ 】
「それは、先ほど言ったとおり、宰相に敬意を――」
【 レツドウ 】
「フン、欺瞞だな」
*欺瞞……あざむき、だますの意。
【 レツドウ 】
「そなたは、ただ恐れただけだ。一国の宰相を手にかけるという大罪を犯し、それを背負うことをな」
【 レツドウ 】
「ゆえに、殺しに慣れたこやつに任せ、少しでも重荷を軽くしようというのだ。つまらぬ魂胆よ」
【 シュレイ 】
「…………っ」
【 レツドウ 】
「そなたの覚悟など、そんなものだ。それしきの胆力で、天下を牛耳ろうなど、笑止千万――」
【 レツドウ 】
「私を排除すれば、楽になれるとでも? さにあらず。そなたたちは、私が負っていたものも引き受けねばならぬ。むしろ、苦しくなるばかりと知れ……!」
【 レツドウ 】
「グンムに伝えておけ。この私を討つことで、そなたは、天下の責をその肩に負うことになるのだ、とな……!」
【 シュレイ 】
「――――っ」
【 タシギ 】
「……っ、てめェッ……!」
怒気をまとったタシギが、レツドウに迫る――
――ドシュッ!
【 タシギ 】
「なッ……!?」
足元に矢が突き立ち、思わず歩を止めるタシギ。
【 聡きヴァンドーラ 】
「天下の宰相たる御仁の、末期の言である! しかと聞き届けるがいい」
【 レツドウ 】
「ふん、森羅の者のほうが、よほど心得があるとみえる――」
と、苦笑いして。
【 レツドウ 】
「せいぜい、我が死を利用するがいい、小童ども。冥府で、そなたたちの所業、しかと見届けてくれようぞ……!」
レツドウは懐から白い筒を出すと、そこから丸薬を取り出し、そのまま呑み込む。
【 レツドウ 】
「――――っ」
ややあって、レツドウは落馬した。
それを見届けて、ヴァンドーラが任務完了の合図となる鏑矢を放つ。
空を裂く矢音は、どこか哭いているかのように響いた――
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