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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
285/421

◆◆◆◆ 8-54 大志 ◆◆◆◆

【 レツドウ 】

「なっ、何者だ……!?」


【 黒い影 】

『余の声を忘れたか? 孺子こぞう――』


【 レツドウ 】

「!? も、もしや、あなたはっ……」


 薄暗がりの中、見覚えのある顔が浮かび上がる。


【 レツドウ 】

「まさかっ……キョ丞相じょうしょう……!?」


【 ミンガイ? 】

『ほう、忘れるのが得意なそなたでも、憶えていたか――』


 キョ・ミンガイ――

 かつて朝廷において専権を振るい、〈跳梁ちょうりょう丞相〉と恐れられた政治家である。

 レツドウにとっては、若き日から世話になった恩人であった。

 しかし……


【 レツドウ 】

「うぬっ……これも森羅しんらの幻術かっ? 丞相閣下は、とうに亡くなっておるわ……!」


 十五年前の〈三氏さんしの乱〉の際、ミンガイは不慮ふりょの死を遂げていた。

 *不慮……思いがけない、予測できない不幸の意。


【 ミンガイ? 】

『むろんだ――余は、冥府あのよから舞い戻ってきたのだからな』


【 レツドウ 】

「! ま、まさか、そんなことがっ……」


【 ミンガイ? 】

『…………』


【 レツドウ 】

「ぐっ……」


 とうてい、信じがたいことではあったが……

 しかし、目の前にいる男から発される圧力に、レツドウは冷や汗を流すことしかできない。


【 レツドウ 】

「……っ、仮に、本物の閣下だとして……なぜ、私の前にっ?」


 今は、話を合わせるしかない――と、言葉を発する。


【 ミンガイ? 】

『――心当たりがない、とでも言うのか?』


【 レツドウ 】

「…………っ」


【 レツドウ 】

「……閣下が亡くなった後のこと、でしょうかっ……?」


【 ミンガイ? 】

『当然であろう――』


【 レツドウ 】

「……っ、ご遺族が没落し、あのようなことになったのが、私のとがだとでも……?」


【 ミンガイ? 】

『…………』


【 レツドウ 】

「あ、あれは……仕方なかったのですっ……! 私とて、一族郎党を失いっ……すべてを失ったのですから……!」


【 ミンガイ? 】

『――だが、ほどなく政界に返り咲いたではないか。あのとき、窮地にあった我が一族に手を差し伸べることもできたであろう?』


【 レツドウ 】

「そ、それはっ……」


【 ミンガイ? 】

『しかし、そなたは何もしなかった。我が一族が無惨に根絶やしにされるのを、傍観していた――』


【 レツドウ 】

「……っ、あ、あれはっ、コウ氏や、十二賊どもの手によるものでっ……」


【 ミンガイ? 】

『そう、下手人は彼奴きゃつらであろうな。だが、ただ傍観していただけのそなたに、罪がないとでも?』


【 レツドウ 】

「――――っ」


 ミンガイの急死のあと、キョ一族は没落した。

 のみならず、新たに政権を握ったコウ皇后(当時)や十二佳仙らによって、一族はむごたらしい目に遭わされ、ついには滅び尽くしたという。


【 レツドウ 】

「そ――その罪を、問おうというのですか……!」


【 ミンガイ? 】

『…………』


 ――シャリン……


 ミンガイらしき男が剣を抜く。


【 レツドウ 】

「お、お待ちください……! 今、私は天下を動かす大事業に取りかかったばかりっ……!」


【 レツドウ 】

「これは、丞相閣下の無念を晴らすことでもあり、なおかつ、中途に終わった大望を受け継ぐことでもあるのです……!」


【 ミンガイ? 】

『ほう……? 言い逃れにしては、大きく出たものだ』


【 レツドウ 】

「い、言い逃れにあらず……! 私は今、スイ・ヤクモを説き、味方に引き入れんとしておりますっ」


【 レツドウ 】

「そして、我が軍とあわせ、大軍をもって帝都を衝き、まつりごとを一新する所存……!」


【 ミンガイ? 】

『…………』


【 レツドウ 】

「閣下の仇たる十二賊どもを打倒してご無念を晴らし、そして、閣下がなしえなかった大願を成就させてみせまする……!」


【 ミンガイ? 】

『――そなたに、余のこころざしがわかる、と?』


【 レツドウ 】

「はっ……閣下の目的は、ただちゅう帝国を立て直すということだけにあらず――」


【 レツドウ 】

「北は〈銀劔関ぎんけんかん〉を超えて深牙しんがの国を征し、さらには西方諸国、あるいは東の海、南の凍土すらもことごとく手中におさめる……それこそが、閣下の夢――」


【 ミンガイ? 】

『…………』


【 レツドウ 】

「閣下の大望を果たすことができるのは、ただ、この私のみ……! どうか、今は――」


【 ミンガイ? 】

『…………』


 黒き影は、手にした剣を握り直し、切っ先をレツドウに向ける――


【 レツドウ 】

「…………!」

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