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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
282/421

◆◆◆◆ 8-51 逡巡 ◆◆◆◆

【 ダンテツ 】

「あいにく、我らは武骨なる戦士……交渉事は得手ではございません」


【 ダンテツ 】

「まして、森羅は将も兵も女しかいないとか……よほどの人物でなければ、交渉の席にはつけますまい」


【 レツドウ 】

「…………」


【 ダンテツ 】

「その点、この陣にあって、もっとも弁舌に長けた御仁といえば――」


 ダンテツは、じっと正面を見つめる。


【 レツドウ 】

「……っ! まさか、この私に行けというのかっ!? そのような役目を、宰相たる私に……!」


【 ダンテツ 】

「いえ、適任の者となれば……というだけのことです」


 レツドウの剣幕にもダンテツは顔色ひとつ変えず、


【 ダンテツ 】

「そもそも、総司令たる閣下にご出馬いただくなど、無理な話……やはりここは一戦して打ち破り、しかるのちに話をつけるのが得策かと」


【 グンロウ 】

「おおっ、それが一番よいっ! ガク軍師の仇討ち合戦だっ!」


【 ダンテツ 】

「……まだ、討ち死にと決まったわけではないがな」


【 レツドウ 】

「む、む、む……」


 レツドウは唸り声を漏らす。


【 レツドウ 】

(よもや、こんな事態に陥るとはっ……)


 ほとんど合戦に参加したことがないレツドウには、戦場の機微きびはわからない。

 ゆえにこれまでは、すべてグンムらに任せてきたわけだが……


【 ダンテツ 】

「いかがなさいます、閣下?」


【 レツドウ 】

「……少し、考えてみよう。敵も、そうすぐには来ないであろう?」


【 ダンテツ 】

「さよう、数日はかかりましょうが……しかし、背後を取られたとわかれば、兵たちも動揺いたします。お急ぎになられますよう」


【 レツドウ 】

「わかっておるっ……!」


【 ダンテツ 】

「…………」


 ダンテツは、無言で一礼した。




【 レツドウ 】

「……くっ……」


 将たちを下がらせ、ひとりになったところで、レツドウはつい呻き声を漏らす。


【 レツドウ 】

(もう少しで、すべてうまくいくはずがっ……なぜ、こうなるっ?)


【 レツドウ 】

(よもや……ヤクモめ、私をたばかったのか……!?)


 そんな考えすらも頭に浮かぶ。

 和睦を申し込んだ時点から、すでに動き出していたというのか……?


【 レツドウ 】

「ぬううっ……」


 彼の不安と連動するかのように、風が強くなり、幕舎をがたがたと揺らす。


【 レツドウ 】

(……いや、逸ってはならぬ。落ち着け。冷静になるのだ)


 深呼吸する。

 思えば、レツドウがこのような難しい状況に陥るのは、これが初めてのことではない。


 古くは十五年前の〈三氏さんしの乱〉、最近では二年前の〈皇叔こうしゅくの変〉……


 いずれもレツドウにとっては、一手でも選択を間違えればすべてを失う窮地きゅうちだったが、かろうじて切り抜けた。


【 レツドウ 】

(そうだ……当時に比べれば、なにほどのことはない)


【 レツドウ 】

(ここは、下手に動くべきではなかろう。そうだ、森羅の軍が来るというなら、迎え撃てばよい)


 決戦を避け、衝突を引き延ばしているあいだに、ヤクモと話をつけ、停戦に持ち込めばよい。

 それだけのことだ。

 難しく考えたあげく、無謀な行動を取ったりするのは得策ではない。


【 レツドウ 】

(うむ……そうだ、それがよい)


 完全なる結果は得られなくとも、ほどほどの結果で良しとすべし、だ。

 そう心に決めて、床につこうとした矢先……


【 喊声かんせい 】

『…………!!!』


【 レツドウ 】

「……っ?」


 幕舎の外が、騒がしい。

 一瞬、風の音かと思ったが……それだけではない。


【 レツドウ 】

「なにごとかっ……?」


 幕舎の外に飛び出す。


【 兵士 】

「あっ……閣下っ! い、一大事です!」


【 レツドウ 】

「なんだ、この騒ぎは……!?」


【 兵士 】

「敵襲ですっ! 恐らくは森羅……いや、あるいは叛乱かと……!」


【 レツドウ 】

「――――っ」


 風に煽られ、火の粉が舞い上がっている。

 そこは、すでに戦場と化していた――

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