◆◆◆◆ 8-51 逡巡 ◆◆◆◆
【 ダンテツ 】
「あいにく、我らは武骨なる戦士……交渉事は得手ではございません」
【 ダンテツ 】
「まして、森羅は将も兵も女しかいないとか……よほどの人物でなければ、交渉の席にはつけますまい」
【 レツドウ 】
「…………」
【 ダンテツ 】
「その点、この陣にあって、もっとも弁舌に長けた御仁といえば――」
ダンテツは、じっと正面を見つめる。
【 レツドウ 】
「……っ! まさか、この私に行けというのかっ!? そのような役目を、宰相たる私に……!」
【 ダンテツ 】
「いえ、適任の者となれば……というだけのことです」
レツドウの剣幕にもダンテツは顔色ひとつ変えず、
【 ダンテツ 】
「そもそも、総司令たる閣下にご出馬いただくなど、無理な話……やはりここは一戦して打ち破り、しかるのちに話をつけるのが得策かと」
【 グンロウ 】
「おおっ、それが一番よいっ! 楽軍師の仇討ち合戦だっ!」
【 ダンテツ 】
「……まだ、討ち死にと決まったわけではないがな」
【 レツドウ 】
「む、む、む……」
レツドウは唸り声を漏らす。
【 レツドウ 】
(よもや、こんな事態に陥るとはっ……)
ほとんど合戦に参加したことがないレツドウには、戦場の機微はわからない。
ゆえにこれまでは、すべてグンムらに任せてきたわけだが……
【 ダンテツ 】
「いかがなさいます、閣下?」
【 レツドウ 】
「……少し、考えてみよう。敵も、そうすぐには来ないであろう?」
【 ダンテツ 】
「さよう、数日はかかりましょうが……しかし、背後を取られたとわかれば、兵たちも動揺いたします。お急ぎになられますよう」
【 レツドウ 】
「わかっておるっ……!」
【 ダンテツ 】
「…………」
ダンテツは、無言で一礼した。
【 レツドウ 】
「……くっ……」
将たちを下がらせ、ひとりになったところで、レツドウはつい呻き声を漏らす。
【 レツドウ 】
(もう少しで、すべてうまくいくはずがっ……なぜ、こうなるっ?)
【 レツドウ 】
(よもや……ヤクモめ、私をたばかったのか……!?)
そんな考えすらも頭に浮かぶ。
和睦を申し込んだ時点から、すでに動き出していたというのか……?
【 レツドウ 】
「ぬううっ……」
彼の不安と連動するかのように、風が強くなり、幕舎をがたがたと揺らす。
【 レツドウ 】
(……いや、逸ってはならぬ。落ち着け。冷静になるのだ)
深呼吸する。
思えば、レツドウがこのような難しい状況に陥るのは、これが初めてのことではない。
古くは十五年前の〈三氏の乱〉、最近では二年前の〈皇叔の変〉……
いずれもレツドウにとっては、一手でも選択を間違えればすべてを失う窮地だったが、かろうじて切り抜けた。
【 レツドウ 】
(そうだ……当時に比べれば、なにほどのことはない)
【 レツドウ 】
(ここは、下手に動くべきではなかろう。そうだ、森羅の軍が来るというなら、迎え撃てばよい)
決戦を避け、衝突を引き延ばしているあいだに、ヤクモと話をつけ、停戦に持ち込めばよい。
それだけのことだ。
難しく考えたあげく、無謀な行動を取ったりするのは得策ではない。
【 レツドウ 】
(うむ……そうだ、それがよい)
完全なる結果は得られなくとも、ほどほどの結果で良しとすべし、だ。
そう心に決めて、床につこうとした矢先……
【 喊声 】
『…………!!!』
【 レツドウ 】
「……っ?」
幕舎の外が、騒がしい。
一瞬、風の音かと思ったが……それだけではない。
【 レツドウ 】
「なにごとかっ……?」
幕舎の外に飛び出す。
【 兵士 】
「あっ……閣下っ! い、一大事です!」
【 レツドウ 】
「なんだ、この騒ぎは……!?」
【 兵士 】
「敵襲ですっ! 恐らくは森羅……いや、あるいは叛乱かと……!」
【 レツドウ 】
「――――っ」
風に煽られ、火の粉が舞い上がっている。
そこは、すでに戦場と化していた――
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