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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
278/421

◆◆◆◆ 8-47 野望 ◆◆◆◆

【 ヤクモ 】

「七年ぶり、ということになるか?」


 腰を下ろしたグンムに、茶を勧める。


【 グンム 】

「左様ですな。峰東ほうとうの戦い以来かと。……おお、いい茶葉を使われている」


【 ヤクモ 】

「そうなるか……」


 七年前、峰東で勃発した〈五妖の乱〉。

 この戦いに、ヤクモとグンムは将軍としてともに参戦している。

 それ以降、ふたりが駒を並べて戦う機会はなく……

 今こうして、敵同士として再会を果たしたのだった。


【 ヤクモ 】

「娘が、とんだ無礼を働いたそうだな。失礼した」


【 グンム 】

「いえ、あの程度は、戯れにすぎません。昔、よく玩具の矢のまとにされたのを思い出しましたよ」


 陣中で育ったミナモだけに、グンムも幼い頃からよく知っている。


【 ヤクモ 】

「恥ずかしい話だが、あのとおりの、じゃじゃ馬でな」


【 グンム 】

「なに、元気に育つのが一番でありましょう。それに勝るものはありますまい」


【 ヤクモ 】

「まったく、な」


 ヤクモには他に何人か子があったが、みな早世そうせいしており、成人したのはミナモだけである。


【 ヤクモ 】

「貴公は引退して、悠悠自適ゆうゆうじてきに暮らしていると聞いていたが……またこうして相まみえる日が来るとはな」


【 グンム 】

「まこと、すまじきものは宮仕みやづかえ――というものです」

 *すまじきものは宮仕え……人に仕えるのは苦労が多いの意。ここでは朝廷に仕えることを指す。


【 グンム 】

「私は、ただただ、誰にも邪魔されず、のんびりと過ごしたいのですが……なかなか、そうもいかず」


【 ヤクモ 】

「フム。……こうして乗り込んできたからには、なにか、思案があるのだろう?」


【 グンム 】

「もちろんありますとも。表向きの用事と、本当の用事、とでも言いましょうか」


【 ヤクモ 】

「ほう。……まず、表向きとは?」


【 グンム 】

「ありていに申しますが、ラク宰相と講和の話を進めているとか……これは、まことでしょうか?」


【 ヤクモ 】

「……それは、宰相閣下より聞いたのか?」


【 グンム 】

「その通りです。ま、建前上、降伏を受け入れる……という形になるようですが」


【 ヤクモ 】

「さもあろう。……建前上はな」


【 グンム 】

「まあ、詳しいいきさつについてはさておき……」


【 グンム 】

「将軍は、まことに和睦されるおつもりで?」


【 ヤクモ 】

「フム。……そちらがやるというなら、こちらも受けて立つが、そうでないなら、続ける意味もあるまい」


【 グンム 】

「それは、まあ、その通りですが……この和睦、果たして和睦で終わるでしょうか?」


【 ヤクモ 】

「と、いうと?」


【 グンム 】

「……ラク宰相閣下は、野心のある御仁です」


【 グンム 】

「その御方が、形だけの勝利で満足するとは、とても思えません」


【 ヤクモ 】

「フム……」


【 ヤクモ 】

「言いたいことがあるなら、はっきり言ってはどうだ? 持って回った物言いは、貴公らしくもない」


【 グンム 】

「これは失礼……では、はっきり申しましょう」


 グンムは茶を飲みほすと、姿勢を正す。


【 グンム 】

「――ラク宰相にせよ、朝廷のお歴歴れきれきにせよ、考えているのは、己の懐を肥やすことのみ……」

 *歴歴……身分の高い人々の意。


【 グンム 】

「我ら下々の者は、その命に従い、血と汗を流すばかり……ま、それが世のことわりというなら、そうなのでしょうが」


【 ヤクモ 】

「…………」


【 グンム 】

「放っておいても、この乱れた世、いずれ終わりが来るのかもしれませんが……それを待つだけというのも、芸がない」


【 ヤクモ 】

「――つまり?」


【 グンム 】

スイ将軍――」


【 グンム 】

「――俺と手を組んで、天下を取ってみませんか」

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