◆◆◆◆ 8-47 野望 ◆◆◆◆
【 ヤクモ 】
「七年ぶり、ということになるか?」
腰を下ろしたグンムに、茶を勧める。
【 グンム 】
「左様ですな。峰東の戦い以来かと。……おお、いい茶葉を使われている」
【 ヤクモ 】
「そうなるか……」
七年前、峰東で勃発した〈五妖の乱〉。
この戦いに、ヤクモとグンムは将軍としてともに参戦している。
それ以降、ふたりが駒を並べて戦う機会はなく……
今こうして、敵同士として再会を果たしたのだった。
【 ヤクモ 】
「娘が、とんだ無礼を働いたそうだな。失礼した」
【 グンム 】
「いえ、あの程度は、戯れにすぎません。昔、よく玩具の矢の的にされたのを思い出しましたよ」
陣中で育ったミナモだけに、グンムも幼い頃からよく知っている。
【 ヤクモ 】
「恥ずかしい話だが、あのとおりの、じゃじゃ馬でな」
【 グンム 】
「なに、元気に育つのが一番でありましょう。それに勝るものはありますまい」
【 ヤクモ 】
「まったく、な」
ヤクモには他に何人か子があったが、みな早世しており、成人したのはミナモだけである。
【 ヤクモ 】
「貴公は引退して、悠悠自適に暮らしていると聞いていたが……またこうして相まみえる日が来るとはな」
【 グンム 】
「まこと、すまじきものは宮仕え――というものです」
*すまじきものは宮仕え……人に仕えるのは苦労が多いの意。ここでは朝廷に仕えることを指す。
【 グンム 】
「私は、ただただ、誰にも邪魔されず、のんびりと過ごしたいのですが……なかなか、そうもいかず」
【 ヤクモ 】
「フム。……こうして乗り込んできたからには、なにか、思案があるのだろう?」
【 グンム 】
「もちろんありますとも。表向きの用事と、本当の用事、とでも言いましょうか」
【 ヤクモ 】
「ほう。……まず、表向きとは?」
【 グンム 】
「ありていに申しますが、烙宰相と講和の話を進めているとか……これは、まことでしょうか?」
【 ヤクモ 】
「……それは、宰相閣下より聞いたのか?」
【 グンム 】
「その通りです。ま、建前上、降伏を受け入れる……という形になるようですが」
【 ヤクモ 】
「さもあろう。……建前上はな」
【 グンム 】
「まあ、詳しいいきさつについてはさておき……」
【 グンム 】
「将軍は、まことに和睦されるおつもりで?」
【 ヤクモ 】
「フム。……そちらがやるというなら、こちらも受けて立つが、そうでないなら、続ける意味もあるまい」
【 グンム 】
「それは、まあ、その通りですが……この和睦、果たして和睦で終わるでしょうか?」
【 ヤクモ 】
「と、いうと?」
【 グンム 】
「……烙宰相閣下は、野心のある御仁です」
【 グンム 】
「その御方が、形だけの勝利で満足するとは、とても思えません」
【 ヤクモ 】
「フム……」
【 ヤクモ 】
「言いたいことがあるなら、はっきり言ってはどうだ? 持って回った物言いは、貴公らしくもない」
【 グンム 】
「これは失礼……では、はっきり申しましょう」
グンムは茶を飲みほすと、姿勢を正す。
【 グンム 】
「――烙宰相にせよ、朝廷のお歴歴にせよ、考えているのは、己の懐を肥やすことのみ……」
*歴歴……身分の高い人々の意。
【 グンム 】
「我ら下々の者は、その命に従い、血と汗を流すばかり……ま、それが世の理というなら、そうなのでしょうが」
【 ヤクモ 】
「…………」
【 グンム 】
「放っておいても、この乱れた世、いずれ終わりが来るのかもしれませんが……それを待つだけというのも、芸がない」
【 ヤクモ 】
「――つまり?」
【 グンム 】
「翠将軍――」
【 グンム 】
「――俺と手を組んで、天下を取ってみませんか」
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