◆◆◆◆ 8-46 旧知 ◆◆◆◆
【 南軍の兵たち 】
「今の矢は――うわっ!?」
騒然となる兵たちを押しのけて、一頭の白馬が駆けてきた。
その背には、弓を構えた若い娘の姿がある。
【 うら若い娘 】
「どこにいますのっ、嶺将軍を名乗る不遜な輩はっ! この翠・ミナモがっ! 成敗してさしあげますわっ!!」
この女将軍こそ、ヤクモの娘、神弓姫こと翠・ミナモに他ならない。
【 タシギ 】
「てめェ――あの時のアバズレかっ……! いきなり、とんだ歓迎をしてくれるッ!」
【 ミナモ 】
「はぁっ? ……むむっ、貴方は、いつぞやのッ……!」
タシギとミナモは、こたびの戦いの緒戦において、一騎討ちで刃を交えたことがある。
あの時は、勝負なしに終わったのだったが……
【 タシギ 】
「この前の決着、つけてやろうかッ!」
【 ミナモ 】
「笑止ですわっ! このわたくしの相手をつとめるなど、百年早いというものッ!」
と、両者が身構える中――
【 グンム 】
「――やれやれ、それくらいにしておいてくれ。久しぶりだな、ミナモお嬢様」
埃を払って立ち上がったグンムが、声をかける。
【 ミナモ 】
「グンムさん!? ――い、いえっ、嶺将軍っ!? まさかっ……本物ですのっ……!?」
【 グンム 】
「この通り、正真正銘の本物だよ。先の戦場でも拝見したが……しばらく見ないあいだに、ずいぶん美しくなったものだ」
【 ミナモ 】
「まあ、そのような――本当のことをいくら言ったところで、お世辞にはなりませんわよ!」
【 グンム 】
「……そういうところは、変わってないな」
【 タシギ 】
「なんなんだ? この女っ……」
【 ミナモ 】
「――それにしても、かつてはともかく、今は敵同士っ……なぜ、こんなところにっ?」
【 グンム 】
「なに、いろいろと事情があってな。……まずは、御父上に取り次いでもらえぬか?」
【 ミナモ 】
「ええっ……承知いたしましたわ! 先ほどは、つい、ご無礼を……」
【 タシギ 】
「つい、で矢を打ち込んでくるんじゃねェよ……!」
【 グンム 】
「なに、木の矢尻だっただろう? まあ、当たったら死ぬほど痛かっただろうが……助かったよ、タシギ卿」
【 タシギ 】
「フン……」
【 ミナモ 】
「先導いたしますわ――誰か、嶺将軍に馬を! ……ついでに、そちらの下僕たちにも!」
【 タシギ 】
「はァ!? 誰が下僕だッ……!」
【 グンム 】
「……やれやれだな」
一方その頃、ヤクモの本陣では……
【 ヤクモ 】
「――なに? 嶺将軍が直々に、だと?」
知らせを受けて、さしものヤクモも驚きの声を漏らした。
【 ドリュウ 】
「は、ははっ! ただいま、神弓姫殿がお相手を、お相手をしておりますが……」
翠・ドリュウが告げる。
【 ヤクモ 】
「ふむ……」
【 タイザン 】
「いかがなさいます? いかなる魂胆か、計りかねますが……」
三ツ羽のタイザンが懸念を口にする。
【 ヤクモ 】
「――ともかく、会うとしよう」
【 ドリュウ 】
「本当に……本当に、よろしいのでっ?」
【 ヤクモ 】
「果敢にも敵陣に乗り込んできたのだ、向き合わぬ法はあるまい?」
それから、しばしの後。
【 ヤクモ 】
「久しいな、嶺将軍」
【 グンム 】
「は――こちらこそ、ご無沙汰しておりました」
翠・ヤクモと、嶺・グンム。
両雄は、対面を果たしていた――
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