◆◆◆◆ 8-45 一矢 ◆◆◆◆
明朝――
濃い霧のなか、翠・ヤクモの兵たちが河岸を巡回している。
【 南軍の隊長 】
「異状はないか?」
【 南軍の兵士 】
「はっ……!」
【 南軍の隊長 】
「怪しい者がいれば、即、斬ってもかまわん! 先日は、巡回中に突然襲われた者もいたゆえな……」
これは、虎王・ユイに不意打ちされ、縛り上げられた哀れな兵たちの話である。
【 南軍の兵士 】
「ははっ……!」
と、兵たちがより一層、気を引き締める中……
【 南軍の兵士 】
「む――あれは?」
一艘の舟が、岸に向かって近づいている。
【 南軍の兵士 】
「あれはっ……敵かっ!」
【 南軍の隊長 】
「いや、待てっ……あの旗はっ?」
舟が掲げている白虎の旗は、軍使を示すものであった。
*軍使……軍隊を往来する使者の意。
乗っているは軽装の男女と、漕ぎ手の従者のみ。
兵たちが警戒する中、小舟は岸に到着した。
【 南軍の隊長 】
「何者だ……!」
武器を構えた兵士たちが、舟を取り囲む。
【 男 】
「おやおや、そういきり立つことはなかろう? こっちは、たった三人だ」
数多の刃を向けられていることも気にせず、男が降りてきた。
【 女 】
「フン……大勢で取り囲まなきゃ、安心できないってワケ? こっちの軍は小心者ぞろいだな!」
続いて、若い女が降り立ち、毒を吐く。
【 南軍の兵士 】
「おのれッ……!」
【 男 】
「まぁまぁ、落ち着けよ。このとおり、俺たちは使者だ」
と、従者の掲げる白虎の旗を示す。
【 男 】
「翠将軍に、お取次ぎ願おう――」
【 男 】
「――宙の征南将軍、嶺・グンムが、将軍と旧交を温めにきた、とな」
【 南軍の兵たち 】
「…………っ!?」
兵たちに、驚愕が広がった――
【 タシギ 】
「…………っ」
自分たちを取り囲む兵たちを睨みながら、タシギはさすがに落ち着かない様子だった。
【 グンム 】
「そう殺気立つな。いきなり襲ってきたりはせんさ」
【 タシギ 】
「フン、どうだかっ……」
【 グンム 】
「もしもの時は、貴公だけ逃げても構わんぞ」
【 タシギ 】
「フン……言われなくたって、そうさせてもらうよ」
【 グンム 】
(さて……)
すでに、何人かの兵が注進に向かったようだが……まだ油断はできない。
殺気の満ちたこの状況では、ちょっとしたことで、いきなり血の雨が降ることもありうるのだ。
【 グンム 】
(やっかいなことになる前に、翠将軍と対面したいところだが……)
と、思っていた矢先。
【 タシギ 】
「――ちいッ!」
――ドカッ!
【 グンム 】
「うおッ!?」
突然、タシギがグンムを突き飛ばす。
その直後、
【 タシギ 】
「――クソがッ!」
バキィッ!
飛来してきた矢を、タシギが切り払っていた――
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