◆◆◆◆ 8-41 使節 ◆◆◆◆
【 グンム 】
「翠将軍が降伏――ですと?」
征南将軍たる嶺・グンムは、当惑の声をあげた。
【 レツドウ 】
「うむ」
グンムとシュレイが密談を交わした、翌日のこと。
宙帝国宰相、烙・レツドウの幕舎にて。
【 レツドウ 】
「つい先ほど、ヤクモめがこちらに申し出てきたのだ。これ以上、戦いを続けてもお互いに利はなし……ゆえに和を結びたい、とな」
と、レツドウは書状を開き、グンムに見せた。
【 グンム 】
「ははぁ……なるほど」
受け取った書状に目を通し、グンムは唸り声をこぼす。
確かにそこには、和平を求める文面が記されているが、“降伏する”などとは一言一句も記されてはいない。
しかし、官軍としては、賊と和睦という形を取るわけにはいかないので、建前上、降伏という表現が用いられるのだ。
【 レツドウ 】
「信じられぬか?」
【 グンム 】
「は――いえ、翠将軍は、無用な血を流すのを好まぬ御仁。であれば、和平を望むこと自体は、驚くには値しませんが……」
【 レツドウ 】
「向こうから持ちかけてきたのが不審だ、と?」
【 グンム 】
「いえ……あちらにも事情はございましょうから」
【 レツドウ 】
「それで――だ。貴公はこの件、どう思う?」
【 グンム 】
「さて……あまりに予想外のことゆえ、即答もいたしかねますが」
とっくに承知のことながら、知らぬ顔で困惑してみせるグンム。
すでにレツドウとヤクモの間で話はついているのだろうが、あくまで『先方から降伏してきた』という建前を欲して、先ほどの書状を用意したのだろう。
【 グンム 】
「とはいえ、無用ないくさを避けられるならば、それに越したことはないかと」
【 レツドウ 】
「ふむ。賛同する、ということだな?」
【 グンム 】
「は……閣下のお考えは?」
【 レツドウ 】
「私とて、天子さまより預かった兵を、無為に損なうのは心苦しい。労少なくして功を得られるなら、それが最善であろう」
【 グンム 】
「なるほど。……では、今後はどのように?」
【 レツドウ 】
「うむ、まずは条件を詰めねばなるまい。ヤクモめにも顔が立つような形にせねばならぬからな」
【 グンム 】
「それもありましょうが……まずもって、この和議の件、信じてもよいものでしょうか?」
【 レツドウ 】
「ほう……偽りかもしれぬ、ということか?」
【 グンム 】
「翠将軍は、小細工を弄するような御仁ではありません。しかし、その周囲の者がよからぬことを企む可能性はあろうかと」
【 レツドウ 】
「では、どうせよと?」
【 グンム 】
「信の置ける者を使者として送り、翠将軍の真意を計る……というのはいかがでしょうか」
【 レツドウ 】
「ふむ……それも一手だが、いったい、誰を遣わすというのだ?」
【 グンム 】
「ちょうど、翠将軍とは昔馴染みで、それなりの地位にある者が陣中におります」
【 レツドウ 】
「と、いうと?」
【 グンム 】
「――不肖、この嶺・グンム、使者の任、つかまつりましょう」
と、グンムは一礼した。
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