◆◆◆◆ 8-40 謀議 ◆◆◆◆
【 グンム 】
「ほう……そういういきさつがあったとはな」
【 シュレイ 】
「はい。まだまだ到底、使いこなせているとはいえませんが……」
【 グンム 】
「それで、その書をどう使うんだ?」
【 シュレイ 】
「もちろん、さまざまな術や、兵法の極意が記されているのですが……それだけではありません」
と、シュレイは小刀を取り出すと、おもむろに天書の頁を切り取った。
【 グンム 】
「――!? おいおい、いいのか? そんな……」
思いもよらないシュレイの行為に、面食らう。
【 シュレイ 】
「ご安心を。切り取ったのは白紙の頁ですので」
なんでもない風に答えて、シュレイは紙に念を込める。
【 シュレイ 】
「――“律”!」
すると、頁は細々とした破片となり、いずこかへと飛び去っていった。
【 グンム 】
「おお……今のは、どういう術だ?」
【 シュレイ 】
「〈落穂蒐集〉の術――念を込めた紙片を各地に飛び散らせて、人の口から零れ落ちた言の葉を掻き集めさせます」
【 シュレイ 】
「そして、最終的には――“令”!」
シュレイが再び念を込めると、今度は逆回しのごとく、いずこかから飛来した紙片が、一枚の頁となった。
それを天書に戻すと、それまで白紙だったところに、無数の文字がびっしりと浮かび上がってくる。
【 シュレイ 】
「ふむ……やはり、翠将軍は和睦に前向きなようですね」
【 グンム 】
「ほほう、それが情報集めのタネってわけか」
【 シュレイ 】
「もとより、すべてではありません。あくまで、世に散らばる情報のかけらを拾ってくる、といったようなものですので」
さらりと答えるシュレイだが、この術をもって、レツドウとヤクモらの密談の内容すら把握したのは想像に難くない。
【 グンム 】
「ずいぶん便利なもんだ。道理で地獄耳だとは思っていたよ」
【 シュレイ 】
「あくまで、天書の力の一端ではありますが……」
【 グンム 】
「朝廷の様子もそれでわからないのか?」
【 シュレイ 】
「さて、そこまでは……距離に限界があるため、あまり遠くの事柄までは拾ってこれませんので」
【 グンム 】
「ほう、そういうものかね」
と頷いてみせつつ、
【 グンム 】
(――さて、どうだかな)
と、疑う気持ちもある。
シュレイが手の内をすべて明かしている……と思うほど、グンムはお人よしではない。
さりとて、疑心暗鬼に襲われることもなかった。
【 グンム 】
(お互い、利用価値はあるものな――今のところは)
グンムはシュレイの智を、シュレイはグンムの武や名声を利用して、己の目的を果たさんとしている。
ならば、現時点ではあれこれ思い悩むのは無駄というものだ。
シュレイの目的がどんなものか、グンムは詳しくは知らないし、さほど知りたいとも思わない。
【 グンム 】
(世の中はややこしいし、難しすぎる。……わからないことは、わからないままにしておくまでさ)
そう割り切り、思い切って他人を用いることができるのが、グンムの強みのひとつといえよう。
【 グンム 】
「それじゃあ、一芝居、打つとするか。台本は任せたぜ、楽老師」
【 シュレイ 】
「ははっ……」
楽・シュレイは一礼する。
今ここに、グンムたちによる一世一代の仕掛けが、幕を開けようとしていた――
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