◆◆◆◆ 8-39 人の生きる道 ◆◆◆◆
【 シュレイ 】
「――ぜひ、〈人の巻〉を賜りたく存じます」
【 流渦深仙 】
「ほう……本当に、それでいいンだな?」
【 シュレイ 】
「はい。そもそも、天を操り、地を動かす……などといった術は、私のような半端者にはとうてい使いこなせるものではありません」
【 流渦深仙 】
「ふン……消去法ってワケか?」
【 シュレイ 】
「いえ、人の世を動かすのは、すなわち人の心……これを自在に操れるならば、いかなる大業も為せましょう」
【 流渦深仙 】
「……そうか。まあ、せいぜい熟読して、ものにするンだな」
【 シュレイ 】
「ははっ……」
伏し拝みつつ、シュレイは師より天書を授かった。
【 流渦深仙 】
「――さて、弟子よ」
と、神仙は改まって。
【 流渦深仙 】
「これが今生の別れかもしれぬゆえ、言っておきたいことがある」
【 シュレイ 】
「ははっ……」
【 流渦深仙 】
「てめェには才覚がある――仙才はさほどないが、別の才がな。そして、ギラギラと燃え立つような野心も持ち合わせてる」
【 シュレイ 】
「…………」
【 流渦深仙 】
「その二つがあれば、きっと名を挙げることができるだろうさ。だが……」
【 シュレイ 】
「…………」
【 流渦深仙 】
「……いや、言うまい。てめェの人生は、てめェのものだからな」
【 シュレイ 】
「師父、そこまで仰ってくださるならば、どうか最後までお聞かせくださいますよう」
【 流渦深仙 】
「フン……だったらまあ、せっかくだし、言っておくか」
流渦深仙は、咳ばらいをひとつして。
【 流渦深仙 】
「――つまらん野心だの復讐心なンぞ、まとめて畳んで捨てちまえ」
【 流渦深仙 】
「慕ってくれる女と一緒になって、人里離れた山の中に庵でも建てて、毎日釣りでもしながら、ささやかに楽しく暮らしな」
【 流渦深仙 】
「俗世で人として生きるっていうなら、そいつが一番の幸せってもンだろうよ」
【 シュレイ 】
「…………っ」
【 流渦深仙 】
「……と、あたしが言いたいのはそういうこった。だが……」
【 流渦深仙 】
「てめェは、きっとそんな人生は選べねェだろうな」
【 シュレイ 】
「は……まことに、かたじけないご助言ではございますが……」
【 シュレイ 】
「……私には、我が身に代えても果たさねばならぬことがあります。そのためには、己や己の周りの者だけ良ければそれで良し……といった道を選ぶことは、できないのです」
【 流渦深仙 】
「ふン……ま、そうだろうな」
はじめからわかっていた、と言いたげに。
【 流渦深仙 】
「そういう意味でもてめェは、そもそも神仙の道には向いてないってワケだ。俗世へのこだわりを捨てて、不老不死を目指す……ってのが、こっちの世界だからな」
【 流渦深仙 】
「無駄な話をしちまった。とっとと忘れろ。じゃあな、不肖の弟子! せいぜい長生きしなよ」
【 シュレイ 】
「ははっ……このご恩は、終生、忘れませぬ」
シュレイは深々と一礼し、師の前を辞したのだった――
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