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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
270/421

◆◆◆◆ 8-39 人の生きる道 ◆◆◆◆

【 シュレイ 】

「――ぜひ、〈人の巻〉を賜りたく存じます」


【 流渦深仙 】

「ほう……本当に、それでいいンだな?」


【 シュレイ 】

「はい。そもそも、天を操り、地を動かす……などといった術は、私のような半端者にはとうてい使いこなせるものではありません」


【 流渦深仙 】

「ふン……消去法ってワケか?」


【 シュレイ 】

「いえ、人の世を動かすのは、すなわち人の心……これを自在に操れるならば、いかなる大業も為せましょう」


【 流渦深仙 】

「……そうか。まあ、せいぜい熟読して、ものにするンだな」


【 シュレイ 】

「ははっ……」


 伏し拝みつつ、シュレイは師より天書を授かった。


【 流渦深仙 】

「――さて、弟子よ」


 と、神仙は改まって。


【 流渦深仙 】

「これが今生の別れかもしれぬゆえ、言っておきたいことがある」


【 シュレイ 】

「ははっ……」


【 流渦深仙 】

「てめェには才覚がある――仙才はさほどないが、別の才がな。そして、ギラギラと燃え立つような野心も持ち合わせてる」


【 シュレイ 】

「…………」


【 流渦深仙 】

「その二つがあれば、きっと名を挙げることができるだろうさ。だが……」


【 シュレイ 】

「…………」


【 流渦深仙 】

「……いや、言うまい。てめェの人生は、てめェのものだからな」


【 シュレイ 】

「師父、そこまで仰ってくださるならば、どうか最後までお聞かせくださいますよう」


【 流渦深仙 】

「フン……だったらまあ、せっかくだし、言っておくか」


 流渦深仙は、咳ばらいをひとつして。


【 流渦深仙 】

「――つまらん野心だの復讐心なンぞ、まとめて畳んで捨てちまえ」


【 流渦深仙 】

「慕ってくれる女と一緒になって、人里離れた山の中にいおりでも建てて、毎日釣りでもしながら、ささやかに楽しく暮らしな」


【 流渦深仙 】

「俗世で人として生きるっていうなら、そいつが一番の幸せってもンだろうよ」


【 シュレイ 】

「…………っ」


【 流渦深仙 】

「……と、あたしが言いたいのはそういうこった。だが……」


【 流渦深仙 】

「てめェは、きっとそんな人生は選べねェだろうな」


【 シュレイ 】

「は……まことに、かたじけないご助言ではございますが……」


【 シュレイ 】

「……私には、我が身に代えても果たさねばならぬことがあります。そのためには、己や己の周りの者だけ良ければそれで良し……といった道を選ぶことは、できないのです」


【 流渦深仙 】

「ふン……ま、そうだろうな」


 はじめからわかっていた、と言いたげに。


【 流渦深仙 】

「そういう意味でもてめェは、そもそも神仙の道には向いてないってワケだ。俗世へのこだわりを捨てて、不老不死を目指す……ってのが、こっちの世界だからな」


【 流渦深仙 】

「無駄な話をしちまった。とっとと忘れろ。じゃあな、不肖の弟子! せいぜい長生きしなよ」


【 シュレイ 】

「ははっ……このご恩は、終生、忘れませぬ」


 シュレイは深々と一礼し、師の前を辞したのだった――

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