◆◆◆◆ 8-36 手土産 ◆◆◆◆
楽・シュレイが、嶺・グンムに策を説く。
【 シュレイ 】
「まず、このまま手をこまねいて、何もしない……というのも一策です」
【 シュレイ 】
「成り行きに任せ、ことが起きてから臨機応変に対処する……というわけです」
【 グンム 】
「ふむ、無策の策、とでもいうべきか。いささか受け身に過ぎるようだが……他には?」
【 シュレイ 】
「第二策としては、いささか“強硬的な手段”をもって、宰相に“退場”いただく、という手もあります」
【 シュレイ 】
「しかるのちに、宰相は裏切り者であった――と非を鳴らし、ことの正当化を図ります。これもまた一手です」
やや婉曲な物言いだが、要するに、
――宰相レツドウを斬るべし。
と、いうことである。
【 グンム 】
「ほほう……それはまた、思い切った手ではあるな」
さすがにグンムも言葉を濁す。
【 グンム 】
「他には?」
【 シュレイ 】
「三つ目の策としては、今はなにも知らぬフリをして宰相に従いつつ……」
【 シュレイ 】
「――その一方で、こちらはこちらで別の策を仕掛け、出し抜く、という手です」
【 グンム 】
「なるほど、一番難しそうだが……うまくいけば、上々だな」
【 グンム 】
「――それで、老師のお薦めはどの策かな?」
【 シュレイ 】
「それはむろん、第三策です」
シュレイは即答した。
【 シュレイ 】
「一策目は無策に過ぎ、二策目は一か八かの暴挙というべきものです。それでも、他に手がなければ、仕方ありませんが……」
【 シュレイ 】
「まだ若干なりとも猶予があるならば、知恵を用いるに越したことはありますまい」
【 グンム 】
「ふむ、そうだな。俺も同意見だ」
グンムは頷いた。
第三策が本命なら、一策目やニ策目は必要あるまい――などと指摘したりはしない。
いくつかの案を出すことで、ものごとをより多面的に見ることができるからである。
【 グンム 】
「しかし、あちらの上を行くというが……そう簡単にいくかね」
【 シュレイ 】
「もとより、容易なことではありません」
シュレイも認める。
【 シュレイ 】
「烙宰相は傲慢な人物ですが、愚劣ではありません。将軍のことも、決して軽くみてはいないでしょう。それを踏まえて策を講じる必要がありますが……」
【 シュレイ 】
「将軍は、翠将軍と面識がおありでしたね?」
【 グンム 】
「そりゃあな。だが、そう簡単に会えもすまい」
【 グンム 】
「よしんば会えたとて、手ぶらでは交渉にもなるまいよ」
【 シュレイ 】
「それは確かに。ただ会ったところで、こちらの陣営の足並みが揃っていないことを見透かされるだけでしょう」
【 シュレイ 】
「――とはいえ、このまま手をこまねいてはいられますまい」
【 グンム 】
「それはそうだ。和睦と聞けば、結構な話のようだが……」
【 シュレイ 】
「貴方の身がどうなるかは、わかりかねます」
【 グンム 】
「まあな。俺が宰相閣下の立場なら、いくら昼行灯でも、兵に慕われてる将軍は厄介だ」
【 グンム 】
「よくて兵権の剥奪、悪けりゃ罪を着せられて斬られるな」
【 シュレイ 】
「そうなるでしょうね。なまじ、将軍は名声もありますので」
【 シュレイ 】
「そのくせ、たやすく利に釣られて動くような人柄でもない。上からすれば、扱いにくいこと、実にはなはだしいものがあります」
【 グンム 】
「やれやれだな。今からでも賄賂をむさぼって、悪名を流しておくか?」
【 シュレイ 】
「悪くない手ですが、もはや手遅れでしょう。こういうことは、日ごろの積み重ねが肝要ですので」
【 グンム 】
「いやはやだ。……これだから、宮仕えは嫌なんだよ」
グンムは嘆息した。
【 グンム 】
「――それで? 老師はどんな手土産を持参してきてくれたんだ」
【 シュレイ 】
「おや……お気づきでしたか」
【 グンム 】
「そりゃな。あんたは、手ぶらで来るほど無粋じゃあるまい。わざわざ戦場をほっぽり出して来るくらいだ、なにかあるんだろう?」
【 シュレイ 】
「ご明察――」
シュレイは一礼して、説明をはじめる。
【 シュレイ 】
「現在、我が軍と対陣中の森羅軍ですが、疫病に苦しめられておりまして――」
こうしてシュレイが“手土産”についてグンムに語りはじめたことで、戦場の膠着は崩れ、暗夜に剣が閃き、素首は天に舞う、という始末となるのだが、その内容とは――?
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