◆◆◆◆ 8-33 天地に誓う ◆◆◆◆
【 カイリン 】
「ソナタにハ、とても世話になッタが……アタシにハ、なにも報いることができヌ」
【 ユイ 】
「それは別にいいって言ってるだろう?」
【 カイリン 】
「ソナタはよくても、アタシの気がすまヌ……!」
【 ユイ 】
「お、おお……それで?」
【 カイリン 】
「あいにく、今のアタシにハ、馬も財もナイ……あるのは、この身ただひとつ。それゆえ――」
【 ユイ 】
「――――っ? おい、ちょっと待てっ……」
嫌な予感を覚えて、遮ろうとするユイ。
しかし、カイリンは言葉を止めず――
【 カイリン 】
「――アタシを、ソナタの姉妹分にしてもらいたイ!」
【 ユイ 】
「…………っ」
カイリンの言にユイは面食らい、かつまた安堵した。
面食らったのは、もとより姉妹分にしてくれという頼みに対してである。
そして安堵したのは、
【 ユイ 】
(妙なことを言い出すのかと思って、ヒヤヒヤしたな……)
自分の身体を捧げたい――などと言い出されたら、どう断ろうかと悩むところだった。
なるほどユイはカイリンに好感は抱いているが、それは男女の契りにつながるようなそれではない。
【 カイリン 】
「ム……ダメか? 姉妹分でハなく、むしろ――」
【 ユイ 】
「あ――い、いや、かまわんさ」
妙なことを言い出される前に、肯定する。
【 ユイ 】
「ゾダイ殿風に言うなら、これも『袖振り合うも他生の縁』というやつだ。喜んで、誓おうじゃないか」
*他生……前世や来世などの意。
【 カイリン 】
「うム……!」
かくして。
ふたりは天地神明に誓い――かつてヨスガとホノカナが誓ったかのごとく――契りを交わした。
ユイの方が年長であったので(もっとも、正確な歳は定かではないのだが)、ユイが兄貴分となり、カイリンが妹分となった。
【 カイリン 】
「よろしく頼ム、兄者人!」
*兄者人……兄を敬って呼ぶ言い方。
【 ユイ 】
「ああ――」
なんだかくすぐったいような心持ちであった。
【 ユイ 】
「そうだな、せっかくだから、これからは虎王と名乗った方がいいんじゃないか?」
【 ユイ 】
「岳南を離れるなら、飛鷹の民であることは隠した方がいいだろうしな」
【 カイリン 】
「ムム……そういうものカ?」
【 ユイ 】
「まあ、余計な悶着は避けられるだろうよ」
飛鷹の民は勇敢なる戦士として知られるが、とかく宙帝国には反抗的であり、ことに官憲からは目の敵にされている。
【 ユイ 】
「他の土地を旅するのなら、宙人に成りすました方が無難だろうな」
【 カイリン 】
「心得タ――ならバ、アタシはこれかラ〈虎王・カイリン〉だナ!」
そして……
【 ユイ 】
「じゃあ、達者でな」
いくばくかの路銀を手渡し、カイリンを見送る。
【 カイリン 】
「うム――また会おウ、兄者人!」
【 ユイ 】
「ああ。短気を起こして面倒事を起こすんじゃないぞ?」
【 カイリン 】
「わ、わかっていル……! ――では、さらば!」
かくして、虎王・カイリンは見知らぬ空の下へと旅立っていったのである。
【 ユイ 】
「…………」
しばし彼女の姿を見送った後、ユイはその場を離れた。
【 ユイ 】
(……妙なことになったもんだ)
タイシンから貰った姓を、今度は自分が贈ることになろうとは。
これも定めというやつかもしれない、と思いつつ、ユイは足を速めた。
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