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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
26/421

◆◆◆◆ 3-1 夜講 ◆◆◆◆

■第三幕:

宮中の姉妹は帝国の危難に触れること、いっぽう閑居を出でて戦塵にまみれる日和見(ひよりみ)主義者のこと



 ――大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、孟夏の月(4月)――



 初夏をむかえ、みやこの人々は衣替えを意識し始める。

 もっとも、それは身分のある者だけで、多くの者はろくすっぽ衣服など持っていないので、年中同じ格好でも珍しくはない。

 そんな夏のはじまりにあって、すでに世にはどこか不穏な気配がただよいつつあった……



【 ホノカナ 】

「ふぁ……ああ……」


 掃き掃除をしながら、ホノカナは大あくびをした。


【 シキ 】

「眠そうだね、ホノカナちゃん」


【 ホノカナ 】

「あ……うん、最近、夜、遅くて……」


【 シキ 】

「大変だね……毎晩、女官長さまからの指導だなんて」


【 ホノカナ 】

「う、うん、まぁ……でも、首を斬られるよりは、ずっといいよ!」


 気の毒そうなシキに、苦笑いで応じるホノカナ。


【 シキ 】

「そうだね……あのときは、もう戻ってこないんじゃないかって、みんなドキドキしたんだから」


【 ホノカナ 】

「あ、あはは……」


【 シキ 】

「でもあれ以来、すっかり陛下に目をつけられちゃって……きつくない? 大丈夫?」


【 ホノカナ 】

「う……うん、平気だよ!」


 案じてくれるシキに、ことさら笑顔でうなずいてみせる。


【 ホノカナ 】

(……もうちょっと、手加減してほしいのは確かだけど……)




 かの明け方の誓い以来、ホノカナの生活に大きな変化はない――そう、表向きは。

 せいぜい、毎夜のように女官長に呼び出されているていどである。

 ホノカナは詳しくは語らないが、シキをはじめ周囲からは、夜ごと折檻せっかんされているのでは……と案じられていた。

 さらにまた、彼女に対する日ごろの皇帝ヨスガの態度も……


【 ヨスガ 】

「――そなたの間抜け顔が気に食わぬ!」


 だの、


【 ヨスガ 】

「――そなたの大声を聞くと頭が痛くなる!」


 などと難癖をつけられ、いたぶられることがたびたびあった。

 おかげでホノカナは、皇帝の戯れで虐待される哀れな女官……という目で周囲から見られるようになっているのである。




【 ホノカナ 】

「……なんだか騙してるみたいで、気が引けるんですよね~……」


 夜、いつものごとくミズキの部屋に呼び出されたホノカナがそうこぼすと、


【 ヨスガ 】

「みたい、ではない。騙しておるのだ」


 そう訂正したのは、ヨスガであった。


【 ヨスガ 】

「我の悪名は高まる。そなたは哀れな犠牲者として同情を集める。これでこそ、仕掛けがうまくいくというものだ」


【 ホノカナ 】

「はぁ……」


 それにしたって、もう少しお手柔らかにお願いしたいものだけれど……とホノカナは思った。


【 ヨスガ 】

「なんだ、不満があるというのか?」


【 ホノカナ 】

「い、いえ、そういうわけではないですけど……」


【 ヨスガ 】

「ならば黙って従うがいい。これも我の深きはかりごとの一環ゆえな!」


【 ホノカナ 】

「は、はいぃ……」


【 セイレン 】

「――などと言いつつ、実際はホノカナ殿をもてあそぶのが楽しくてたまらぬのでしょう?」


【 ヨスガ 】

「それはある!」


【 ホノカナ 】

「あるんですか~~っ!?」


【 ミズキ 】

「――無駄話はそれくらいにしていただくとして」


【 三人 】

「――――っ」


 ミズキのぴしりと鞭打つような声に、一同、思わず居住まいを正す。


【 ミズキ 】

「他のふたりはさておき、陛下、いささか気が緩んでいるのではありませんか?」


【 ヨスガ 】

「い、いや、緩んでなどおらぬが?」


【 セイレン 】

「あれ? 私、もしかして緩んでいるように見えますでしょうか? 私、これが地金なのでございますが!」


【 ホノカナ 】

「それは、もっといけないのでは……?」


【 ミズキ 】

「――無駄話はやめるよう言ったはずですが」


【 三人 】

「……はい……」


 三人は、そろって口を閉じた。

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