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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
257/421

◆◆◆◆ 8-26 作戦 ◆◆◆◆

 ――〈南寇王なんこうおう〉の異名を取るスイヤクモを討つにあたり、虎王コオウ・ユイと三ツ羽のカイリンが企てた計画とは、こうである。


【 ユイ 】

生半可なまはんかな手じゃあ、あの豪傑を討つのはとても無理だ」


 ――ガッ! ゴッ……


 決行直前、カイリンの隠れ家にて。

 棒切れを手に撃ち合いつつ、そう告げる。


【 ユイ 】

「そもそも、陣中じゃめったに一人になってくれないからな。工夫が必要だ」


【 カイリン 】

「ならバ……どう、スルッ?」


 ユイの突きをかわしながら、問い返す。


【 ユイ 】

「幸い、あの御仁の周囲が手薄になる機会があるから、そいつを活かす」


【 ユイ 】

「まずあんたは、こっちの用件が終わった後、帰り際の将軍に、正面から勝負を挑んでくれ」


【 カイリン 】

「はアッ!? それでは無理だという話でハ――おっと!」


 ――ガキッ!


 ユイの変幻自在の打ち込みを、かろうじて受け止めるカイリン。


【 ユイ 】

「ほう、少しは見切れるようになってきたか? まあ、もう少し聞いてくれ」


【 ユイ 】

「しばらくやり合ったところで、俺が周りの兵に混じって『あの男、スイ・ヤクモじゃないか?』と声をあげる。――すると、どうなる?」


【 カイリン 】

「それは――周りの者たちも、気づくのでハッ?」


【 ユイ 】

「その通り。しかもそのほとんどが、官軍の兵士だ」


【 ユイ 】

「相手がスイ将軍とわかれば、手柄を立てる一世一代の機会とばかりに、我先に襲いかかるだろうな。――よっと」


【 カイリン 】

「んぐッ!? ま、まさか、その者たちに討たせロというのでハッ……?」


 足払いを仕掛けられ、体勢を崩しつつもどうにか避けるカイリン。


【 ユイ 】

「いや、それじゃあ仇討ちになるまい。第一、そんな有象無象うぞうむぞうがいくら束になってかかったところで、簡単に討てるような相手じゃない」


【 ユイ 】

「それはあんたが一番、わかってるだろ?」


【 カイリン 】

「うム……」


【 ユイ 】

「とはいえ、連れの尼さんもいるし、そう易々と切り抜けるってわけにもいかないはずだ」


【 カイリン 】

「ムム……それなら、どうスル?」


【 ユイ 】

「こいつを、使え」


【 カイリン 】

「オッと……!?」


 ユイが放ってきた、拳よりは二回りほど小さい玉を受け取る。


【 ユイ 】

煙玉けむりだまだ。そいつで煙幕えんまくを張って、周りの視界をさえぎり……その間に、あんたは将軍たちと一緒に脱出しろ」


【 カイリン 】

「はア!? 逃がしてどうスル……!」


【 ユイ 】

「そう焦るなよ。そのまま、邪魔の入らない場所まで誘導して……」


【 ユイ 】

「――そこからが、本番ってわけだ」




 かくして、今。

 計画通り、ユイとカイリンはヤクモと対峙している。


【 ヤクモ 】

「……わからぬな、侠の心というものは」


【 ヤクモ 】

「さして縁もない者のために、なにゆえ命を懸ける?」


【 ユイ 】

「そうでもありますまい」


【 ユイ 】

「将軍とて、名も知らぬ領民たちのため、つねに己の心身を削っているのでは? それと似たようなものです」


【 ヤクモ 】

「ふむ……言われてみればそうかもしれぬな。だが少なくとも、私と民の間には、浅からぬ縁がある」


【 ヤクモ 】

「ただ助太刀を頼まれた……というだけで、ひとつしかない命を危険に晒すというのは、賢明とはいえぬな」


【 ユイ 】

「ごもっともです。……侠というのは、およそ、不合理なものなれば」


【 ヤクモ 】

「……まあ、今さらあれこれ問答も無用であろう」


【 ユイ 】

「ええ。……やれるな? カイリン殿」


【 カイリン 】

「む、ムム……どうやら、そちらにはそちらの事情が、あるようダガ……」


 やや、戸惑いの色を見せつつも、


【 カイリン 】

「しかし、今こそまたとない機会ッ! ここで、父の仇、取ってみせル……!」


 と、身構える。


【 ユイ 】

「結構だ」


【 ヤクモ 】

「――――」


 老将を前後から挟撃の体勢にある、女戦士と侠客。


【 ヤクモ 】

「これまでのようには――ゆかぬぞ」


【 カイリン 】

「…………!」


 ヤクモの語調は静かだったが、その身から放たれる殺気は、ただならぬものがある。


【 ユイ 】

(……こりゃあ、とんでもないな)


 本能的な恐怖を覚え、ユイの肌が粟立あわだつ。

 それは思わず、恥も外聞もなく、この場を逃げ出したくなるほどだった。


【 ユイ 】

(――だが、だからこそ)


 命を懸ける意味がある――と、いうものだった。

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