◆◆◆◆ 8-26 作戦 ◆◆◆◆
――〈南寇王〉の異名を取る翠ヤクモを討つにあたり、虎王・ユイと三ツ羽のカイリンが企てた計画とは、こうである。
【 ユイ 】
「生半可な手じゃあ、あの豪傑を討つのはとても無理だ」
――ガッ! ゴッ……
決行直前、カイリンの隠れ家にて。
棒切れを手に撃ち合いつつ、そう告げる。
【 ユイ 】
「そもそも、陣中じゃめったに一人になってくれないからな。工夫が必要だ」
【 カイリン 】
「ならバ……どう、スルッ?」
ユイの突きを躱しながら、問い返す。
【 ユイ 】
「幸い、あの御仁の周囲が手薄になる機会があるから、そいつを活かす」
【 ユイ 】
「まずあんたは、こっちの用件が終わった後、帰り際の将軍に、正面から勝負を挑んでくれ」
【 カイリン 】
「はアッ!? それでは無理だという話でハ――おっと!」
――ガキッ!
ユイの変幻自在の打ち込みを、かろうじて受け止めるカイリン。
【 ユイ 】
「ほう、少しは見切れるようになってきたか? まあ、もう少し聞いてくれ」
【 ユイ 】
「しばらくやり合ったところで、俺が周りの兵に混じって『あの男、翠・ヤクモじゃないか?』と声をあげる。――すると、どうなる?」
【 カイリン 】
「それは――周りの者たちも、気づくのでハッ?」
【 ユイ 】
「その通り。しかもそのほとんどが、官軍の兵士だ」
【 ユイ 】
「相手が翠将軍とわかれば、手柄を立てる一世一代の機会とばかりに、我先に襲いかかるだろうな。――よっと」
【 カイリン 】
「んぐッ!? ま、まさか、その者たちに討たせロというのでハッ……?」
足払いを仕掛けられ、体勢を崩しつつもどうにか避けるカイリン。
【 ユイ 】
「いや、それじゃあ仇討ちになるまい。第一、そんな有象無象がいくら束になってかかったところで、簡単に討てるような相手じゃない」
【 ユイ 】
「それはあんたが一番、わかってるだろ?」
【 カイリン 】
「うム……」
【 ユイ 】
「とはいえ、連れの尼さんもいるし、そう易々と切り抜けるってわけにもいかないはずだ」
【 カイリン 】
「ムム……それなら、どうスル?」
【 ユイ 】
「こいつを、使え」
【 カイリン 】
「オッと……!?」
ユイが放ってきた、拳よりは二回りほど小さい玉を受け取る。
【 ユイ 】
「煙玉だ。そいつで煙幕を張って、周りの視界をさえぎり……その間に、あんたは将軍たちと一緒に脱出しろ」
【 カイリン 】
「はア!? 逃がしてどうスル……!」
【 ユイ 】
「そう焦るなよ。そのまま、邪魔の入らない場所まで誘導して……」
【 ユイ 】
「――そこからが、本番ってわけだ」
かくして、今。
計画通り、ユイとカイリンはヤクモと対峙している。
【 ヤクモ 】
「……わからぬな、侠の心というものは」
【 ヤクモ 】
「さして縁もない者のために、なにゆえ命を懸ける?」
【 ユイ 】
「そうでもありますまい」
【 ユイ 】
「将軍とて、名も知らぬ領民たちのため、つねに己の心身を削っているのでは? それと似たようなものです」
【 ヤクモ 】
「ふむ……言われてみればそうかもしれぬな。だが少なくとも、私と民の間には、浅からぬ縁がある」
【 ヤクモ 】
「ただ助太刀を頼まれた……というだけで、ひとつしかない命を危険に晒すというのは、賢明とはいえぬな」
【 ユイ 】
「ごもっともです。……侠というのは、およそ、不合理なものなれば」
【 ヤクモ 】
「……まあ、今さらあれこれ問答も無用であろう」
【 ユイ 】
「ええ。……やれるな? カイリン殿」
【 カイリン 】
「む、ムム……どうやら、そちらにはそちらの事情が、あるようダガ……」
やや、戸惑いの色を見せつつも、
【 カイリン 】
「しかし、今こそまたとない機会ッ! ここで、父の仇、取ってみせル……!」
と、身構える。
【 ユイ 】
「結構だ」
【 ヤクモ 】
「――――」
老将を前後から挟撃の体勢にある、女戦士と侠客。
【 ヤクモ 】
「これまでのようには――ゆかぬぞ」
【 カイリン 】
「…………!」
ヤクモの語調は静かだったが、その身から放たれる殺気は、ただならぬものがある。
【 ユイ 】
(……こりゃあ、とんでもないな)
本能的な恐怖を覚え、ユイの肌が粟立つ。
それは思わず、恥も外聞もなく、この場を逃げ出したくなるほどだった。
【 ユイ 】
(――だが、だからこそ)
命を懸ける意味がある――と、いうものだった。
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