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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
256/421

◆◆◆◆ 8-25 侠気 ◆◆◆◆

 ――怒号と混乱のちまたを抜けて。


【 カイリン 】

「……ハァ、ハァッ……」


【 ヤクモ 】

「……ふぅ……」


【 ゾダイ 】

「ぜぇ、ぜぇっ……九死に一生っ……た、助かった……よう、ですね……?」


 三人の姿は、例の仮小屋群から離れた森の中にあった。

 もはや追っ手の姿も見えない。


【 ヤクモ 】

「…………」


 ひとまず難を逃れたものの、ヤクモは片時も油断してはいなかった。


【 カイリン 】

「さア、これで邪魔者はいなイ……今度こそ、勝負ダッ!」


 と、刃の切っ先をヤクモに向けるカイリン。


【 ヤクモ 】

(……どういうつもりだ?)


 せなかった。

 カイリンの意図……ではなく、その協力者の意図が、である。


【 ヤクモ 】

(仕掛ける機会は、十分にあったはずだが……)


 官軍の兵たちに囲まれた時点で、手練れの刺客に襲われていたら、かなり難儀だっただろう。

 ゾダイを守りつつ、しのぐのは容易ではなかったはずだ。


 同じことが、その後の脱出劇の際にも言える。

 煙幕で視界を奪われた状態で、腕利きの者に襲われれば、さしものヤクモも無事で済んだかどうか?


 刺客は、そんな絶好の機会を、みすみす逃した……ということになる。


【 ヤクモ 】

(よほどに無能なのか? いや……)


 そうであれば、このような仕掛けを施せるはずもない。

 と、すれば。

 ひとつの推測が、ヤクモの脳裏に浮かんでいた。


【 ヤクモ 】

「そうか……そういう、ことか」


【 カイリン 】

「はア? なにがそういうことダと?」


【 ヤクモ 】

「なに、そなたの背後に誰がいるのか、判断がつかなかったが……おおかた、読めた気がしてな」


【 カイリン 】

「は、はアア? そ、そんなもの、誰もおりはせンッ……!」


 あからさまに動揺している。


【 ヤクモ 】

「私を討つだけならば、先ほども機会はあった……だが、あえて手を出してこなかったのは、ゾダイ殿を巻き込む恐れがあったからであろう」


【 ゾダイ 】

「…………っ」


【 ヤクモ 】

「これほど手の込んだ……あえていえば無駄な真似をしてまで筋道にこだわるのは、およそ刺客の手口ではない」


【 ヤクモ 】

「これは――侠客きょうかくのやり方だ」


【 ヤクモ 】

「違うかな? 風雲忍侠ふううんにんきょう


【 ユイ 】

「――お察しの通りです」


 虎王コオウ・ユイは、そう答えた。




【 カイリン 】

朽縄くちなわドノ……!」


【 ゾダイ 】

「!? 侠士殿っ!?」


【 ユイ 】

「ゾダイ殿、危ない思いをさせてしまい、申し訳ない」


 いずこからか姿を見せたユイが、ゾダイに頭を下げる。


【 ヤクモ 】

「ふむ……やはり、お主の独断とみえる」


【 ユイ 】

「ええ。これはショウ家とも、ラク宰相とも無関係です。すべては俺の判断ですので、そのことはご理解願いたい」


【 ヤクモ 】

理由わけは聞かせてもらえような?」


【 ユイ 】

「むろん……と申しましても、さしたる理由はございません」


【 ユイ 】

「それなるカイリン殿に助太刀を求められたゆえ、請けたまでのこと」


【 ヤクモ 】

「ずいぶんと思いきりがよいことだ。侠客とは、そういうものか?」


【 ユイ 】

「父の仇を討ちたいので手を貸して欲しい……と言われて断るような者は、およそ、任侠の徒とは言えぬでしょう」


【 ヤクモ 】

「――さもあろうな」


【 ヤクモ 】

「それで、これからどうする?」


【 ユイ 】

「もとより、ここにて――」


 音もなく刀を抜く。


【 ユイ 】

「――そのお命、頂戴する所存」

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