◆◆◆◆ 8-25 侠気 ◆◆◆◆
――怒号と混乱の巷を抜けて。
【 カイリン 】
「……ハァ、ハァッ……」
【 ヤクモ 】
「……ふぅ……」
【 ゾダイ 】
「ぜぇ、ぜぇっ……九死に一生っ……た、助かった……よう、ですね……?」
三人の姿は、例の仮小屋群から離れた森の中にあった。
もはや追っ手の姿も見えない。
【 ヤクモ 】
「…………」
ひとまず難を逃れたものの、ヤクモは片時も油断してはいなかった。
【 カイリン 】
「さア、これで邪魔者はいなイ……今度こそ、勝負ダッ!」
と、刃の切っ先をヤクモに向けるカイリン。
【 ヤクモ 】
(……どういうつもりだ?)
解せなかった。
カイリンの意図……ではなく、その協力者の意図が、である。
【 ヤクモ 】
(仕掛ける機会は、十分にあったはずだが……)
官軍の兵たちに囲まれた時点で、手練れの刺客に襲われていたら、かなり難儀だっただろう。
ゾダイを守りつつ、しのぐのは容易ではなかったはずだ。
同じことが、その後の脱出劇の際にも言える。
煙幕で視界を奪われた状態で、腕利きの者に襲われれば、さしものヤクモも無事で済んだかどうか?
刺客は、そんな絶好の機会を、みすみす逃した……ということになる。
【 ヤクモ 】
(よほどに無能なのか? いや……)
そうであれば、このような仕掛けを施せるはずもない。
と、すれば。
ひとつの推測が、ヤクモの脳裏に浮かんでいた。
【 ヤクモ 】
「そうか……そういう、ことか」
【 カイリン 】
「はア? なにがそういうことダと?」
【 ヤクモ 】
「なに、そなたの背後に誰がいるのか、判断がつかなかったが……おおかた、読めた気がしてな」
【 カイリン 】
「は、はアア? そ、そんなもの、誰もおりはせンッ……!」
あからさまに動揺している。
【 ヤクモ 】
「私を討つだけならば、先ほども機会はあった……だが、あえて手を出してこなかったのは、ゾダイ殿を巻き込む恐れがあったからであろう」
【 ゾダイ 】
「…………っ」
【 ヤクモ 】
「これほど手の込んだ……あえていえば無駄な真似をしてまで筋道にこだわるのは、およそ刺客の手口ではない」
【 ヤクモ 】
「これは――侠客のやり方だ」
【 ヤクモ 】
「違うかな? 風雲忍侠」
【 ユイ 】
「――お察しの通りです」
虎王・ユイは、そう答えた。
【 カイリン 】
「朽縄ドノ……!」
【 ゾダイ 】
「!? 侠士殿っ!?」
【 ユイ 】
「ゾダイ殿、危ない思いをさせてしまい、申し訳ない」
いずこからか姿を見せたユイが、ゾダイに頭を下げる。
【 ヤクモ 】
「ふむ……やはり、お主の独断とみえる」
【 ユイ 】
「ええ。これは焦家とも、烙宰相とも無関係です。すべては俺の判断ですので、そのことはご理解願いたい」
【 ヤクモ 】
「理由は聞かせてもらえような?」
【 ユイ 】
「むろん……と申しましても、さしたる理由はございません」
【 ユイ 】
「それなるカイリン殿に助太刀を求められたゆえ、請けたまでのこと」
【 ヤクモ 】
「ずいぶんと思いきりがよいことだ。侠客とは、そういうものか?」
【 ユイ 】
「父の仇を討ちたいので手を貸して欲しい……と言われて断るような者は、およそ、任侠の徒とは言えぬでしょう」
【 ヤクモ 】
「――さもあろうな」
【 ヤクモ 】
「それで、これからどうする?」
【 ユイ 】
「もとより、ここにて――」
音もなく刀を抜く。
【 ユイ 】
「――そのお命、頂戴する所存」
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