◆◆◆◆ 8-14 仇討ち問答 ◆◆◆◆
【 ユイ 】
「――知り合いが、いろいろあって、ある女の仇討ちを手伝うことになったんです」
【 ゾダイ 】
「ほほう、知り合いが……? その女性は、誰の仇を討つのデス?」
【 ユイ 】
「親――父親の仇を討つ、ってことになるようで」
【 ゾダイ 】
「ほほう……ナルホド」
【 ユイ 】
「それで……あなたなら、どうするかと思いましてね」
【 ゾダイ 】
「どう――とは?」
【 ユイ 】
「仇討ちなんてやめるべきだ、と思いますか?」
【 ゾダイ 】
「フーム……宙の道徳においては、子が親の仇討ちをするのは、認められているのデショウ?」
【 ユイ 】
「まあ、そうですね。そりゃ、おおっぴらには認められちゃいませんが、心情としちゃあ、そうです」
【 ゾダイ 】
「デショウね。この軍に参加している騎馬の民たちも、おおむねそんな感じデス!」
【 ユイ 】
「あなたたちのところは、どうなんです?」
【 ゾダイ 】
「そうデスね……深牙の国においても、仇討ちは権利として認められていマス」
【 ゾダイ 】
「……デスが、我々、三貴の教えを説く者は、仇討ちに対しては否定的デス。そもそも、殺人を肯定してはおりマセンので」
【 ユイ 】
「つまり、恨みは晴らすなと?」
【 ゾダイ 】
「いえ、そうは申しマセン。ただ、なるべく賠償金など、命以外のもので償うべし――と説いておりマス」
【 ユイ 】
「ははぁ……慈悲の心で許してやれ、なんてことは言わない、と?」
【 ゾダイ 】
「もちろん、慈悲は大事デス! 慈悲の心で許しつつ、それはそれとして、代償は支払わせるのデス!」
【 ユイ 】
「……なるほど。理想を語りながら、現実も踏まえてるってわけですか」
【 ゾダイ 】
「そういうことデス! なにせ深牙の者は血気盛んなので、ちょっとした争いから一族皆殺しの惨事に至ることもしょっちゅうデシテ……」
【 ゾダイ 】
「教えのおかげで、多少は理性というものを身につけつつあるという次第デス!」
【 ユイ 】
「へえ、今じゃ穏やかになってきたんですか?」
【 ゾダイ 】
「……それは、まア、昔に比べると……マシになってきたようデス……ね」
【 ユイ 】
「…………」
どこの世の中も、一朝一夕には変わらないようだ。
【 ユイ 】
「――変な話をしちまいましたね。忘れてください」
【 ゾダイ 】
「いえいえ、迷える者を導くのが、我らの務めデスので! なんなら、試しに入信してみマスか?」
【 ユイ 】
「そんな気軽に勧誘しないでくださいよ。一度入ったら、なかなか抜けられなかったりするんでしょう?」
【 ゾダイ 】
「とんでもナイ! その点、我らが教えは懐が深いのデ、出るも入るも自由自在、融通無碍デス!」
*融通無碍……自由で何物にもとらわれないの意。
【 ユイ 】
「……まあ、考えておきますよ。そろそろ、お暇します」
【 ゾダイ 】
「では、その仇討ちに挑まれる女性にも、よしなに!」
【 ユイ 】
「……知り合いの話だって言ったはずですけど?」
【 ゾダイ 】
「オット、そうデシタね! 失敬、失敬! アハハハ!」
【 ユイ 】
「…………」
高笑いする尼僧に、やはりつかみどころのない御仁だ、と思うユイなのだった。
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