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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
237/421

◆◆◆◆ 8-6 助太刀 ◆◆◆◆

【 ユイ 】

「――いいだろう。これもなにかの縁だ。あんたの仇討ち、手助けしようじゃないか」


 しばしの思案の末、ユイはそう告げた。


【 カイリン 】

「おお! そうか、恩に着ル! これも父の導きというものであろうカ……!」


 先ほどまでの殺意はどこへやら、ユイの手を取って、押しいただかんばかりのカイリン。

 そんな率直な態度を好ましく思う一方、


【 ユイ 】

(……これじゃあ、暗殺なんて無理に決まってるな)


 噂では、カイリンはたびたびヤクモの命を狙ったものの、そのたびにあえなく返り討ちに遭っているとか。

 ヤクモの器の大きさを語るための作り話かとも疑っていたが、どうやら本当のようだ。


【 カイリン 】

「でハ、さっそく――」


【 ユイ 】

「いや待て待て、そう焦るな……!」


 今にも歩み出そうとするカイリンを、ユイは慌てて押しとどめる。


【 ユイ 】

「やるからには、必勝の体勢を整えなきゃあなるまい?」


【 カイリン 】

「ムム……だが、兵は拙速せっそくたっとブ、というゾ!」

 *兵は拙速を尊ぶ……時間をかけるより、すばやく行動すべきであるという意。


【 ユイ 】

(妙な理屈は知ってるんだな……)


 と、感心している場合ではない。


【 ユイ 】

「それで今までうまくいかなかったんだろ? だったら、ちゃんと支度を整えてから仕掛けるべきだ。そう思わないか?」


【 カイリン 】

「む……ムムム……そうかもしれヌ……」


【 カイリン 】

「あの老いぼれめも、『もっと計画を練ってから出直してこい』と抜かしていタ……!」


【 ユイ 】

(……完全に子供扱いされてるじゃねえか)


 内心呆れつつも、


【 ユイ 】

「ともあれ、なにごとも作戦が肝心だ。正面から行かずにあえて捕まる、っていうのは悪くない手だが……」


【 カイリン 】

「フフン、であろウ?」


【 ユイ 】

「だが、あんたのめんは割れてるんだろ? だったら、将軍に会う前に顔を見られちまったら、そこまでだ」


【 カイリン 】

「ムムム……それは……」


【 ユイ 】

「少し策を練る時間が必要だ。俺は俺で、他にもやることがあるし……あんたはしばらく、どこかに身を潜めててくれ」


 そのほか、合流場所や合図など、こまごまとしたことを決めて。


【 カイリン 】

「このカイリン、この恩は決しテ忘れヌ――ソナタ、名はないのカ?」


【 ユイ 】

「名前? そうだな……」


 さすがに姓名や通り名を名乗るわけにもいかず、


【 ユイ 】

「――〈朽縄くちなわ〉、とでも呼んでくれ」


【 カイリン 】

「そうカ――ならば頼むゾ、朽縄ドノ!」


 一礼して、カイリンは足早に去っていった。


【 ユイ 】

「……朽縄殿、ときたか」


 カイリンの後姿を見送りつつ、思わず苦笑がこぼれる。

 朽縄というのは、かつて彼が属していた組織において用いていた名である。

 とっくに忘れていた呪わしい名を、あえて今、名乗ったのは……


【 ユイ 】

(多少なりに、罪滅ぼしになるとでも?)


 我ながら、笑止というしかない。

 組織の命の下、恨みもなければ罪もない人々を、大勢この手にかけてきた。

 他に道がなかったとはいえ、あれだけ己の手を血で汚しておきながら、今さら……


【 ユイ 】

「――さて、と」


 いつまでも感傷に浸っているような風雲忍侠ふううんにんきょうではない。

 先ほど失神させた兵たちを縛り上げ、猿ぐつわを噛ませ、繁みに隠しておく。


【 ユイ 】

(昔の俺なら、こんな手間はかけなかったが)


 縛りあげたら、躊躇なく濁流に投げ込んでいたことだろう。


【 ユイ 】

(仇討ち――か)


 カイリンの暗くも猛々しい、情熱的な目を思い出しながら、ユイは敵陣へと潜入していったのだった。

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