◆◆◆◆ 8-6 助太刀 ◆◆◆◆
【 ユイ 】
「――いいだろう。これもなにかの縁だ。あんたの仇討ち、手助けしようじゃないか」
しばしの思案の末、ユイはそう告げた。
【 カイリン 】
「おお! そうか、恩に着ル! これも父の導きというものであろうカ……!」
先ほどまでの殺意はどこへやら、ユイの手を取って、押しいただかんばかりのカイリン。
そんな率直な態度を好ましく思う一方、
【 ユイ 】
(……これじゃあ、暗殺なんて無理に決まってるな)
噂では、カイリンはたびたびヤクモの命を狙ったものの、そのたびにあえなく返り討ちに遭っているとか。
ヤクモの器の大きさを語るための作り話かとも疑っていたが、どうやら本当のようだ。
【 カイリン 】
「でハ、さっそく――」
【 ユイ 】
「いや待て待て、そう焦るな……!」
今にも歩み出そうとするカイリンを、ユイは慌てて押しとどめる。
【 ユイ 】
「やるからには、必勝の体勢を整えなきゃあなるまい?」
【 カイリン 】
「ムム……だが、兵は拙速を尊ブ、というゾ!」
*兵は拙速を尊ぶ……時間をかけるより、すばやく行動すべきであるという意。
【 ユイ 】
(妙な理屈は知ってるんだな……)
と、感心している場合ではない。
【 ユイ 】
「それで今までうまくいかなかったんだろ? だったら、ちゃんと支度を整えてから仕掛けるべきだ。そう思わないか?」
【 カイリン 】
「む……ムムム……そうかもしれヌ……」
【 カイリン 】
「あの老いぼれめも、『もっと計画を練ってから出直してこい』と抜かしていタ……!」
【 ユイ 】
(……完全に子供扱いされてるじゃねえか)
内心呆れつつも、
【 ユイ 】
「ともあれ、なにごとも作戦が肝心だ。正面から行かずにあえて捕まる、っていうのは悪くない手だが……」
【 カイリン 】
「フフン、であろウ?」
【 ユイ 】
「だが、あんたの面は割れてるんだろ? だったら、将軍に会う前に顔を見られちまったら、そこまでだ」
【 カイリン 】
「ムムム……それは……」
【 ユイ 】
「少し策を練る時間が必要だ。俺は俺で、他にもやることがあるし……あんたはしばらく、どこかに身を潜めててくれ」
そのほか、合流場所や合図など、こまごまとしたことを決めて。
【 カイリン 】
「このカイリン、この恩は決しテ忘れヌ――ソナタ、名はないのカ?」
【 ユイ 】
「名前? そうだな……」
さすがに姓名や通り名を名乗るわけにもいかず、
【 ユイ 】
「――〈朽縄〉、とでも呼んでくれ」
【 カイリン 】
「そうカ――ならば頼むゾ、朽縄ドノ!」
一礼して、カイリンは足早に去っていった。
【 ユイ 】
「……朽縄殿、ときたか」
カイリンの後姿を見送りつつ、思わず苦笑がこぼれる。
朽縄というのは、かつて彼が属していた組織において用いていた名である。
とっくに忘れていた呪わしい名を、あえて今、名乗ったのは……
【 ユイ 】
(多少なりに、罪滅ぼしになるとでも?)
我ながら、笑止というしかない。
組織の命の下、恨みもなければ罪もない人々を、大勢この手にかけてきた。
他に道がなかったとはいえ、あれだけ己の手を血で汚しておきながら、今さら……
【 ユイ 】
「――さて、と」
いつまでも感傷に浸っているような風雲忍侠ではない。
先ほど失神させた兵たちを縛り上げ、猿ぐつわを噛ませ、繁みに隠しておく。
【 ユイ 】
(昔の俺なら、こんな手間はかけなかったが)
縛りあげたら、躊躇なく濁流に投げ込んでいたことだろう。
【 ユイ 】
(仇討ち――か)
カイリンの暗くも猛々しい、情熱的な目を思い出しながら、ユイは敵陣へと潜入していったのだった。
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