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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
236/421

◆◆◆◆ 8-5 仇討ち ◆◆◆◆

 女が懐から放ったのは、ごく小型のいしゆみ(クロスボウ)であった。

 当然、矢も小型だが、この至近距離で撃たれてはかわすこともならず、ユイの胸に直撃……

 したと、見えたが。


【 女 】

「むッ……!」


【 ユイ 】

「……まったく、情けなんてかけるんじゃなかったぜ」


 ユイはすでに距離を取っていた。


【 女 】

「手ごたえはアッタ……オマエ、なんで死んでナイ……!?」


 頭巾を跳ね上げたのは、若い女だった。

 その精悍な顔立ちには、ただならぬ殺気がこもっている。


【 ユイ 】

「まあ、ちょっとした小手先技でね」


 と軽口を叩きつつ、ユイは内心、冷や汗をかいていた。


【 ユイ 】

(――とっさに影と入れ替わって、助かったな)


 そう、女の矢が貫いたのは、ユイの作り出した影にすぎなかったのだ。

 忍びの術に長けたユイであれば、分身の術くらい使いこなせるのは当然、と理解していただけよう。

 致命の一矢も、己の分身を残して本体は避けた……というわけだった。

 ――となれば、先ほど大河を飛んで渡ったカラクリも、想像がつこうというものである。


【 ユイ 】

(さっきさんざん使ったから、あんまりやりたくなかったんだが……)


 そう、川面に己の分身を作り、それを足場にすることで、飛び渡ってきたという次第である。

 分身とはいえ、己の身を踏み台にするというのは、あまり気分のいいことではない。


【 ユイ 】

「あんた、こいつらに絡まれてたんじゃなかったのか?」


【 女 】

「芝居ダ! わざと捕まッテ、あの老いぼれの前に連れて行かれるつもりだッタ……! オマエのせいデ、台無しダ!」


【 ユイ 】

(この訛り、飛鷹ひようの民か?)


 ますますことの次第がわからなくなり、戸惑うばかりのユイ。


【 ユイ 】

「……老いぼれってのは、もしかして、スイ将軍のことか?」


【 女 】

「老いぼれは老いぼれダ! 父の仇ダッ……!」


 そこまで聞いたところで、ユイは思い当たるフシがあった。


【 ユイ 】

「そうか……もしやあんた、〈三ツ羽のカイリン〉か?」


【 カイリン 】

「ムッ……? なぜ、知ってイル……!」


【 ユイ 】

スイ将軍を父の仇とつけ狙う、勇猛な女戦士がいる――っていうのは、まぁまぁ噂になってるんでね」


【 カイリン 】

「フン……そういうオマエは、何者ダ?」


【 ユイ 】

「俺? 俺は……名もない忍びの者さ」


【 カイリン 】

「忍びダと? ではオマエ、老いぼれの敵カッ?」


【 ユイ 】

「まあ……そうだな、そうなるが」


【 カイリン 】

「だったラ丁度イイッ! オマエ、アタシを手伝エ!」


【 ユイ 】

「……はぁ? 手伝うって、なにをだ?」


【 カイリン 】

「もちろん、あの老いぼれを討つのダッ!」


【 ユイ 】

「いや、そりゃあ――無理だろ」


【 カイリン 】

「ハァ!? なぜダ!?」


【 ユイ 】

「まあ、どうにか将軍の前まで行ったとしてだ、そんなオモチャみたいないしゆみじゃ、当たったところでたおせやしまい」


 そもそも、あのスイ将軍に当てることができるかどうか、怪しいものだったが。


【 カイリン 】

「そこは抜かりナイ! 矢には毒が塗ってあるからナ! かすっただけでも、あの世行きダ!」


【 ユイ 】

「ほう……」


 まるで考えがないわけでもなかったようだ。


【 ユイ 】

「だが、よしんば仇を討てたとしても、その場であんたも死ぬことになるんじゃないか?」


 周りに兵がいない状況を作れればともかく、戦地にあっては容易ではないだろう。

 たとえ将軍を討ち果たせたとしても、激怒した周囲の兵にナマス斬りにされるのは避けられない。


【 カイリン 】

「それは仕方なイ――父の無念をそそぐためダ! 命など惜しくなイ……!」


【 ユイ 】

「ふむ……」


 カイリンの訴えに、ユイの心は揺さぶられるものがあった。

 義侠の徒である彼にとって、仇討ちの助っ人というのは、できることなら果たしたい役目である。


【 ユイ 】

(が、しかし……)


 それとは別に、今の彼には果たすべき役目がある。

 こうなってくると、話は厄介だ。

 だが、それでも……


【 カイリン 】

「――――っ」


【 ユイ 】

「…………」


 カイリンのまっすぐな眼差しを受け、ユイは腹を決めた。

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