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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
235/421

◆◆◆◆ 8-4 跳躍 ◆◆◆◆

 数日後の、明け方。

 日が昇るか昇らないかの薄明りの中、虎王コオウ・ユイの姿が北側の岸辺にある。

 ユイは、再び南方の陣への潜入を試みようとしていた。

 ……と、簡単に言ったが、そもそも両軍のあいだには、長雨で増水した河が横たわっている。

 いかに名高い忍びの者といえど、そうたやすく渡れるものであろうか?


【 ユイ 】

「さて……」


 船で渡るにしては船はない。

 もしあったとしても、この濁流を超えるのは困難であろう。

 泳いで渡るにせよ、容易なことではない。

 いかにして渡るというのか?


【 ユイ 】

「やるか」


 と、ユイはしばし息を整えてから。


【 ユイ 】

「――はッ!」


 ――ヒュンッ!


 川面めがけて、跳躍した。

 しかし、いくら彼に並外れた身体能力があろうとも、とうてい届くはずもなく、あえなく水面へ落下する――

 と、見えたが、


【 ユイ 】

「――――ッ!」


 ――パシャッ!


 ユイの肢体は、ふたたび宙に舞っていた。

 あたかも、なにかを踏み台にしたかのごとくである。

 たまたま都合よく、岩場でもあったというのだろうか?

 ユイはそのまま、幾たびか水面を蹴った末に、


 ――トンッ……


【 ユイ 】

「……ふぅっ」


 とうとう、対岸への着地を果たしていた。

 わずかに足元が湿ってはいるが、それのみである。


【 ユイ 】

「やれやれだな……」


 これぞ、人呼んで風雲忍侠ふううんにんきょうたるユイの秘術のひとつ――ではあるが、いかなるカラクリがあるというのだろうか?

 その仕掛けは、のちほど語るとして……


【 ユイ 】

「むっ……」


 ユイは、とっさに隠形の術で身を潜めた。

 人の声が聞こえたからである。


【 声 】

「…………っ!」


【 声 】

「…………っ!」


 耳慣れない言葉が飛び交っている。

 南方の異民族だろうか?


【 ユイ 】

(……もしや、気づかれたか?)


 じっと目をこらすと、次第に様子がわかってきた。


【 女 】

「…………」


 頭巾を目深にかぶった女が、三人の兵に取り囲まれている。

 なにやら尋問されているようだが、女は言葉がわからないためか、はたまた恐れのためか、押し黙っている。


【 ユイ 】

(うっかり戦場にまぎれこんできた旅人か……あるいは、遊女のたぐいか?)


 いささか気になったが、今は任務の最中……とそのまま離れようとしたユイであったが、


【 兵士 】

「…………っ!」


【 女 】

「――――っ」


 兵のひとりが、女の手を掴み、ひねりあげた。

 その刹那、


 ――ドカッ!


【 兵士 】

「ぐあっ……!?」


 突然、みぞおちのあたりを押さえて、倒れ伏す。


【 他の兵士 】

「――――っ!?」


【 ユイ 】

「――ふっ!」


 ――シュドッ!


【 他の兵士 】

「がッ……」


 奇襲でひとりを悶絶させたユイは、立て続けにもうひとりの首筋を打ち、一瞬で失神させる。


【 残りの兵士 】

「…………!」


 残った兵が、とっさに角笛に手をかけるところを、


【 ユイ 】

「――はっ!」


 ――メキッ!


 身をひるがえし、脳天へ蹴りを叩き込む。


【 残りの兵士 】

「……ぐっ……」


 瞬く間に、三人の兵が地に倒れ伏していた。


【 ユイ 】

「やれやれだな……面倒事には首を突っ込みたくないっていうのに」


 とはいえ、弱者が虐げられている姿を見てみぬフリができるような自分でもなかった。


【 女 】

「…………」


【 ユイ 】

「おい、あんた、大丈夫か? さっさと離れた方がいい――」


【 女 】

「……余計、ナ」


【 ユイ 】

「……っ?」


【 女 】

「余計ナ――真似をッ!」


【 ユイ 】

「――――っ!」


 ――ドシュッ!


【 ユイ 】

「ぐぉッ……!?」


 女が懐から放った一矢が、ユイの身を貫いていた――

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