◆◆◆◆ 7-26 深慮 ◆◆◆◆
帝都への、帰路。
【 ヨスガ 】
「…………」
【 ミズキ 】
「後悔されているのですか?」
馬車に揺られながら、どこか物思いに耽っているヨスガの横顔に、ミズキが問う。
【 ヨスガ 】
「まさか。これが、今打てる最善の手、と判断したゆえの判断だ。悔やむようなことではない」
【 ミズキ 】
「ならば結構ですが。……」
【 ヨスガ 】
「……なんだ。そなたも、なにか言いたそうだな」
【 ミズキ 】
「いえ……陛下のご深慮、わからぬわけではありませんので」
*深慮……深いおもんばかり、深い考えの意。
【 ヨスガ 】
「ほう、具体的には?」
【 ミズキ 】
「――タイシン殿の息がかかっている彼女を、近くに置いておくのを避けたのでは?」
【 ヨスガ 】
「助けられたばかりだというのに、か?」
【 ミズキ 】
「昨夜の一件は……昨夜の一件です。タイシン殿の真意、いまだ測りがたいものがありましょう」
【 ヨスガ 】
「…………」
天下有数の政商、焦・タイシン。
もとより只者でないのは承知の上だったが、昨夜の出来事を経たあとでは、なおさら油断できるものではなかった。
【 ヨスガ 】
「……まあ、それも否定はせぬ。己の器で測れぬものが身近にあるのは、いささか不安ではあるからな」
【 ミズキ 】
「それで言うなら、藍老師などは?」
【 ヨスガ 】
「あやつか? あやつは……まあ、構うまい。これはただの直感にすぎぬが」
【 ミズキ 】
「……ともあれ、彼女に副頭目を託した一番の目的は、別にあると?」
【 ヨスガ 】
「なに、いたって簡単なことだ」
【 ヨスガ 】
「我はかつて、表と裏……法と侠、どちらの世界も握ろうと決意し、実現を目指してきた」
【 ミズキ 】
「存じております」
【 ヨスガ 】
「だが、いざこうなってみて、気づいたのだ。それは容易ではない、ということにな」
【 ミズキ 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「なんだ、その『はあ? 今ごろそんなことに気づいたのですか?』と言いたげな目つきはっ……!」
【 ミズキ 】
「……なにごとも、己の体験に勝る学びはありません。そうした実感を得られたなら、なによりかと」
【 ヨスガ 】
「ふん……まあ、とにかくだ。我は皇帝にして、大侠たらんと志したわけだが、それはさすがに荷が重いと思い至った。所詮、我の身体はひとつしかないのだからな」
【 ヨスガ 】
「ゆえに、侠の世界は――あやつに託すことにしたのだ」
【 ミズキ 】
「しかし、それはあまりに……」
【 ヨスガ 】
「無茶だ、と思うか?」
【 ミズキ 】
「無茶ですし、無理であり、無謀でもあり、言うなら無道ですらあるかと思います」
【 ヨスガ 】
「遠慮無用の言いたい放題だな……!」
【 ミズキ 】
「……ですがそもそも、侠の世界とは、理を超えたもの。我らのような常識人では測りえない世界」
【 ミズキ 】
「そう思えば、存外、図に当たるかもしれません」
【 ヨスガ 】
「……まあ、そなたが常識人かはさておき」
【 ヨスガ 】
「あやつも、ある意味で只者ではない。とにかく度胸だけはあるし、なんとかするであろう。我が相手でも物怖じせぬような、面の皮の厚さもあるしな」
【 ヨスガ 】
「なにより、姥姥もついている。なんとかなるだろうさ」
【 ミズキ 】
「いささか無責任のような……」
【 ヨスガ 】
「仕方あるまい。それこそ、地侠元聖殿が健在なら、お任せもできようが」
【 ミズキ 】
「……惜しい、御方でした」
【 ヨスガ 】
「うむ……」
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