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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
230/421

◆◆◆◆ 7-26 深慮 ◆◆◆◆

 帝都への、帰路。


【 ヨスガ 】

「…………」


【 ミズキ 】

「後悔されているのですか?」


 馬車に揺られながら、どこか物思いに耽っているヨスガの横顔に、ミズキが問う。


【 ヨスガ 】

「まさか。これが、今打てる最善の手、と判断したゆえの判断だ。悔やむようなことではない」


【 ミズキ 】

「ならば結構ですが。……」


【 ヨスガ 】

「……なんだ。そなたも、なにか言いたそうだな」


【 ミズキ 】

「いえ……陛下のご深慮しんりょ、わからぬわけではありませんので」

 *深慮……深いおもんばかり、深い考えの意。


【 ヨスガ 】

「ほう、具体的には?」


【 ミズキ 】

「――タイシン殿の息がかかっている彼女を、近くに置いておくのを避けたのでは?」


【 ヨスガ 】

「助けられたばかりだというのに、か?」


【 ミズキ 】

「昨夜の一件は……昨夜の一件です。タイシン殿の真意、いまだ測りがたいものがありましょう」


【 ヨスガ 】

「…………」


 天下有数の政商、ショウ・タイシン。

 もとより只者でないのは承知の上だったが、昨夜の出来事を経たあとでは、なおさら油断できるものではなかった。


【 ヨスガ 】

「……まあ、それも否定はせぬ。己の器で測れぬものが身近にあるのは、いささか不安ではあるからな」


【 ミズキ 】

「それで言うなら、アイ老師せんせいなどは?」


【 ヨスガ 】

「あやつか? あやつは……まあ、構うまい。これはただの直感にすぎぬが」


【 ミズキ 】

「……ともあれ、彼女に副頭目を託した一番の目的は、別にあると?」


【 ヨスガ 】

「なに、いたって簡単なことだ」


【 ヨスガ 】

「我はかつて、表と裏……法と侠、どちらの世界も握ろうと決意し、実現を目指してきた」


【 ミズキ 】

「存じております」


【 ヨスガ 】

「だが、いざこうなってみて、気づいたのだ。それは容易ではない、ということにな」


【 ミズキ 】

「…………」


【 ヨスガ 】

「なんだ、その『はあ? 今ごろそんなことに気づいたのですか?』と言いたげな目つきはっ……!」


【 ミズキ 】

「……なにごとも、己の体験に勝る学びはありません。そうした実感を得られたなら、なによりかと」


【 ヨスガ 】

「ふん……まあ、とにかくだ。我は皇帝にして、大侠おおおやぶんたらんと志したわけだが、それはさすがに荷が重いと思い至った。所詮、我の身体はひとつしかないのだからな」


【 ヨスガ 】

「ゆえに、侠の世界は――あやつに託すことにしたのだ」


【 ミズキ 】

「しかし、それはあまりに……」


【 ヨスガ 】

「無茶だ、と思うか?」


【 ミズキ 】

「無茶ですし、無理であり、無謀でもあり、言うなら無道ですらあるかと思います」


【 ヨスガ 】

「遠慮無用の言いたい放題だな……!」


【 ミズキ 】

「……ですがそもそも、侠の世界とは、理を超えたもの。我らのような常識人では測りえない世界」


【 ミズキ 】

「そう思えば、存外、図に当たるかもしれません」


【 ヨスガ 】

「……まあ、そなたが常識人かはさておき」


【 ヨスガ 】

「あやつも、ある意味で只者ではない。とにかく度胸だけはあるし、なんとかするであろう。我が相手でも物怖じせぬような、面の皮の厚さもあるしな」


【 ヨスガ 】

「なにより、姥姥ばばさまもついている。なんとかなるだろうさ」


【 ミズキ 】

「いささか無責任のような……」


【 ヨスガ 】

「仕方あるまい。それこそ、地侠元聖ちきょうげんせい殿が健在なら、お任せもできようが」


【 ミズキ 】

「……惜しい、御方でした」


【 ヨスガ 】

「うむ……」

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