◆◆◆◆ 7-22 決意 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「地侠元聖……あ、昔、交龍(帝国東北部)で大暴れしたっていう、大盗賊の……?」
【 ミズキ 】
「地侠元聖こと〈明・セイジュ〉……確かにあの御仁は、およそ威厳や迫力とは無縁のお人でした」
どこか懐かしそうに語るミズキ。
かつての冬の夜、セイジュらと決死の潜入行を共にした一件を思い出しているのかもしれない。
【 ミズキ 】
「なるほど、人侠烈聖と名乗らせるのは、あの御仁のようであれという思いも……?」
【 バイシ 】
「そいつは、あの子に聞かなきゃわからんがね」
【 バイシ 】
「ともあれ、あの御仁は決して英雄でも豪傑でもなかった。にもかかわらず、大勢の連中があの男を慕い、生死を共にしようと誓った。なぜだと思う?」
【 ホノカナ 】
「……え、ええっとっ……人の心を掴む術がすごかった、とか……?」
【 バイシ 】
「もちろん、それもあっただろうね。しかし、それだけじゃないさ。つまりは――」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
【 バイシ 】
「――ああ、やめだやめだ、口で言って伝わるなら世話はないからね。こいつばかりは、あんたが自分で学ぶしかない」
【 バイシ 】
「とにかく、あの子があんたならやれると思った。それなら、あたしはその判断を信じるさ。ミズキ、あんたはどうだい?」
【 ミズキ 】
「それは……私も、ヨスガさまの判断を、疑うつもりはありません。しかし……」
【 バイシ 】
「言いたいことはわかるさ。ま、しかし、ことは動き出しちまったんだ。今さら、なかったことにはできない」
【 バイシ 】
「それともホノカナ、あんた、この件から降りたいのかい?」
【 ホノカナ 】
「……っ、それはっ……」
【 ホノカナ 】
「……ヨスガ姉さまの力になりたい、というのがわたしの望みです」
【 ホノカナ 】
「だから、期待に応えたいとは思いますが、でも、わたしには、あまりにも過ぎた役目で……」
【 バイシ 】
「理屈はいい。やりたいのかい? やりたくないのかい?」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
【 ホノカナ 】
「や、やりたい……ですっ」
【 ホノカナ 】
「わたしは武芸もダメだし、頭がいいわけでもないし、不思議な術が使えるわけでもありませんけどっ……」
【 ホノカナ 】
「それでも、ヨスガ姉さまの力になれるならっ……!」
昨夜のような危難が襲ってきても、ホノカナにできることといったら、ヨスガのそばにいて、驚いてみせる役目くらいだった。
だが、それ以外の形で役に立てるならば……迷うことなどありはしない。
【 バイシ 】
「そうかい――あっはははっ!」
ホノカナの答えに、バイシは破顔一笑した。
【 バイシ 】
「結構だ。とどのつまり、肝心なのはやる気だからね。違うかい、ミズキ?」
【 ミズキ 】
「いえ……」
まだ困惑の色を見せつつも、首を振るミズキ。
【 ミズキ 】
「阿姨が補佐してくださるなら、間違いはないと思います。……やれるのですね、ホノカナ?」
【 ホノカナ 】
「……っ、はいっ、やってみます――いえ、やってみせますっ……!」
【 ミズキ 】
「……わかりました。人侠烈聖殿をよろしくお願いいたします、霙将軍」
【 ホノカナ 】
「よ、よろしくお願いしますっ……!」
ミズキにならって、ホノカナも慌てて頭を下げる。
【 バイシ 】
「ああ、任せておきな。なあに、半年……いや三月もあれば、立派な山賊の頭に仕込んでやるさ、あっはははっ!」
【 ホノカナ 】
「えええっ……!?」
それでいいのだろうか……と思うホノカナであった。
【 ヨスガ 】
「……話はまとまったようだな」
琵琶を奏でながら、ぽつりとつぶやくヨスガ。
彼女の鋭敏な耳は、やや離れた場所でのホノカナたちのやりとりも、確実に聞き取っていた。
【 鉄笛の使い手 】
「キャハハハ! 自分で話せば早いのにー」
【 笙の使い手 】
「アハハハ! 照れくさいんだ? 義姉なのにねぇー!」
【 ヨスガ 】
「……やかましいぞそなたたち! しっかり演奏せよ!」
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