◆◆◆◆ 7-21 饗宴 ◆◆◆◆
日が落ちた城外の野原は、時ならぬ狂騒に包まれていた。
【 宝玲山の将兵 】
「我らが大首領に、乾杯!」
【 宝玲山の将兵 】
「それならこっちは、新たな副頭目どのに、乾杯だ!」
宴を楽しんでいるのは、北のかた宝玲山より駆けつけた将兵たち。
世に容れられず賊徒となった無頼の衆が、美酒を煽り、珍味に舌鼓を打っている。
そんな賑わいをより華やがせようと、風雅な楽曲の調べが鳴り響いており、その中央で琵琶を弾いているのが、
【 ヨスガ 】
「皆、遠慮はいらぬ、思うままに楽しむがよい――」
他ならぬ〈天侠大聖〉こと、宝玲山の義軍の首領・ヨスガであった。
その脇には鉄笛や笙を手にした麗しい楽人がはべり、優雅な曲を奏でている。
*笙……管楽器の一種。ハーモニカやアコーディオンの類。
【 宝玲山の将兵 】
「首領じきじきの演奏か! 風流よな――」
【 宝玲山の将兵 】
「おい、誰か歌え、歌わぬなら俺が一節――」
中には興に任せて踊ったり、小唄をがなり立てたりする輩もいて、実に騒がしいものがある。
【 ホノカナ 】
「…………っ」
宮中のとかく形式ばった宴とはまるで違う有り様に、ホノカナは面食らっていた。
【 ホノカナ 】
「す、すごいことになってますね……」
【 バイシ 】
「まあ、半ばは山賊の宴会のようなもんだからね。あまり上品とは言えないさ」
バイシはほんのりと頬を朱に染めていた。
先ほどから幾度も大盃を空にしているが、さして酔ったふうもない。
【 酔っ払いたち 】
「……うぅ……ぐぅ……」
周りには彼女に付き合って酔い潰れた面々がごろごろ転がっている。
その中には、つい先ほど危うく首と胴が離れ離れになるところを、バイシに一命を救われた例のごろつき連中の姿もあった。
礼を言いに来たところを、まっさきに酔い潰されたというわけである。
【 ホノカナ 】
「そ、それで、あの、さっきの話なんですが……」
【 バイシ 】
「ああ、姥姥と呼んでいいかって話かい? 好きにすればいいさ。なあに、あの小姐の文句を気にするこたあないよ」
【 ホノカナ 】
「い、いえ、それはいいんですけどっ……ほら、〈人侠烈聖〉がどうとかで、副頭目にって話なんですが……」
【 バイシ 】
「なんだ、そっちの件かい? てっきり、あの子から話は通ってると思ってたが、そうでもなかったようだねえ」
【 ホノカナ 】
「何もかも初耳ですっ……!」
【 ミズキ 】
「それについては、私もお聞きしたいと思っていました……どうぞ、一献」
【 バイシ 】
「おお、悪いね。あんたはやらないのかい?」
ミズキから酌を受けて、尋ねる。
【 ミズキ 】
「そうですね……今宵はやめておきます。宴の席といえども、不届き者がいないとは限りませんので」
【 バイシ 】
「ま、そりゃあそうだ」
苦笑いしつつ、盃をあおる。
【 ミズキ 】
「……阿姨が副頭目の座を降りることは、既定路線だったのですか?」
【 バイシ 】
「ま、そんなところだね。いちいちあの子と打ち合わせたわけじゃないが、あたしもトシだからねえ」
【 ミズキ 】
「まだまだご壮健そのものとお見受けしますが……」
【 バイシ 】
「まあ、裏方はいくらでも務めるがね。さすがに、先頭に立ってやっていくのはしんどくなってきたのさ」
【 ミズキ 】
「しかし、だからといって、よもや……」
と、ホノカナに目を向け、複雑な表情を浮かべる。
【 ホノカナ 】
「そ、そうですっ! いくらなんでも、わたしじゃ、無茶というかっ……」
【 バイシ 】
「おや、お前さん、乗り気じゃないのかい?」
【 ホノカナ 】
「の、乗り気とかそういう話じゃなくてっ、そもそも、無理筋っていうかっ……」
【 バイシ 】
「ふうん、なんでそう思うんだい?」
【 ホノカナ 】
「だ、だって、わたしは、ただの女官でっ、姉さまのような威厳もないですし、武功を立てたわけでもなければ、血筋がいいわけでもなくて……」
【 ホノカナ 】
「といって、人を惹きつけるような美人でもないし、姥姥のような迫力があるわけでもないので、難しいんじゃないかってっ……」
【 バイシ 】
「人の上に立つ者に、威厳だの迫力だの、ましてや血筋なんて必要ないさ。たとえば……」
【 バイシ 】
「そうだねえ、〈地侠元聖〉という御仁を知ってるかい?」
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