◆◆◆◆ 7-1 変事のあとに ◆◆◆◆
■第七幕:
紅頬女帝の君臨は百官を戦慄せしめ、叛旗襲来の凶報は朝廷を震撼せしめること
――深夜の帝都を混乱に陥れた〈燎氏の変〉は、首謀者たる〈燎・ケンシ〉とその一党が捕縛されたことで、ひとまず幕を閉じた。
だがそれは、さらなる大乱の序曲にすぎなかったのである……
長い一夜が明けても、帝都〈万寿世春〉の混乱ぶりは収束には程遠いものがあった。
さらに、日が差して火災による被害の実態が明らかになってくると、ヨスガの周囲には重い空気が流れた。
死傷者は万を数え、家を焼け出された者は数えきれない……という惨憺たるありさま。
【 ヨスガ 】
「何より先に、民の難儀を救わねばならぬ――」
まず、医師ゼンキョクらを怪我人の手当てに回したり、宝玲山から運んできた物資を配るなど、対策を講じた。
だがそれは所詮、一時的な対処にすぎない。
【 ヨスガ 】
「文武百官を集めよ! 鐘を鳴らせ!」
危急の鐘が高らかに鳴らされ、諸官が緊急招集された。
政府の倉を開け、本格的な救済を行うためには、官僚の協力が不可欠だからである。
しかし……
【 ヨスガ 】
「……誰も集まらんではないか!」
官僚たちのほとんどは招集に応じず、邸に引きこもるばかり。
ひどい例になると、城外へ脱出してしまった者もいた。
このとき、とるものもとりあえず宮城へ駆けつけたのは、わずか三人だったというのだから、世も末というしかない。
もっともこれは、ヨスガの人望が足りない……というのも確かではあるにせよ、すでに謀叛の噂が広まっており、皆が疑心暗鬼に陥り、二の足を踏んだということもあるのであろう。
【 百官 】
(――うかつに登城しては、誅殺されるのでは?)
と、不安を抱いたのも無理はなかった。
しかし午後にいたって、主だった大臣たちが招集に応じると、それに追従して他の百官も登城した。
これは彼らが国事に目覚めた――というわけではさらさらなく、皇太后たる煌・ランハからの働きかけがあったとされる。
【 百官 】
(煌太后がおっしゃるならば……)
と、彼らは集まったのであり、この点はヨスガの貫禄不足というしかない。
ともあれ、ヨスガは招集に応じた文武の諸官に、昨夜のことの次第を説明した。
――謀叛を起こしたのは燎・ケンシとその一党であること。
――彼らは〈十二佳仙〉の専横を憎んで蜂起し、注意を逸らすために都内に放火し、宮城に侵入したということ。
――その結果、十二佳仙の多くが殺害されたが、皇帝も皇太后も無事であるということ。
――この叛徒を撃退するため、急遽、義勇軍を招いたこと。
――謀叛はすでに鎮圧されており、心配は無用であること。
【 ヨスガ 】
「――すでに謀叛人は捕らえられ、危機は去った。流言飛語に惑わされぬよう、心せよ!」
と、ヨスガは釘を刺した。
官僚たちは、ただ一夜で状況が激変したことに、当惑の色を隠せなかった。
【 百官たち 】
(これはいったい、どういうことだ……!?)
【 百官たち 】
(あれが、義勇軍だと……? 皇帝による政変ではないのか……?)
宮城が襲撃されるという一大事もさることながら、その結果、十二佳仙が一掃され、得体のしれない軍勢が我が物顔に闊歩しているのだ。
さらに彼らを困惑させたのは、煌太后からの言葉である。
【 レンス 】
「――『我が身は多病にして、摂政の任を果たすことかなわず……ゆえに、城を出て隠遁いたしますので、後事はすべて陛下の思し召しのままに――』」
名代として皇太后の甥・レンスが読み上げた令旨に、百官はどよめいた。
*令旨……皇太后などが出す命令書など。
これはすなわち、煌太后から天子ヨスガへの大政奉還を意味する。
【 ヨスガ 】
「国母さまからのお言葉とあらば、従わぬわけにはゆかぬ。非才の身ではあるが、これよりは我が政を執る――」
【 ヨスガ 】
「まずは、民の救済を急げ! 国庫を開き、仮の住居を建て、食料や衣類を手配するのだ!」
もし仮に、ほんの数日前にヨスガがこのような命を下したとしても、臣下たちは容易に動かなかったであろう。
それは、彼女に権威も権力もなかったからである。
だが今、煌太后より実権を譲られたことで、ヨスガはもはやお飾りの皇帝ではなくなった。
かつまた、死地をくぐり抜けた者特有の気迫が、官僚たちを威圧したということもあるであろう。
【 百官たち 】
『は、ははっ――』
異を唱える者もなく、ここに皇帝ヨスガによる親政が始まったのである。
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