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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
205/421

◆◆◆◆ 7-1 変事のあとに ◆◆◆◆

■第七幕:

紅頬女帝の君臨は百官を戦慄せしめ、叛旗襲来の凶報は朝廷を震撼せしめること



 ――深夜の帝都を混乱に陥れた〈リョウ氏の変〉は、首謀者たる〈リョウ・ケンシ〉とその一党が捕縛されたことで、ひとまず幕を閉じた。


 だがそれは、さらなる大乱の序曲にすぎなかったのである……




 長い一夜が明けても、帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉の混乱ぶりは収束には程遠いものがあった。

 さらに、日が差して火災による被害の実態が明らかになってくると、ヨスガの周囲には重い空気が流れた。

 死傷者は万を数え、家を焼け出された者は数えきれない……という惨憺さんたんたるありさま。


【 ヨスガ 】

「何より先に、民の難儀を救わねばならぬ――」


 まず、医師ゼンキョクらを怪我人の手当てに回したり、宝玲山ほうれいざんから運んできた物資を配るなど、対策を講じた。

 だがそれは所詮、一時的な対処にすぎない。


【 ヨスガ 】

「文武百官を集めよ! 鐘を鳴らせ!」


 危急の鐘が高らかに鳴らされ、諸官が緊急招集された。

 政府のくらを開け、本格的な救済を行うためには、官僚の協力が不可欠だからである。

 しかし……


【 ヨスガ 】

「……誰も集まらんではないか!」


 官僚たちのほとんどは招集に応じず、邸に引きこもるばかり。

 ひどい例になると、城外へ脱出してしまった者もいた。

 このとき、とるものもとりあえず宮城へ駆けつけたのは、わずか三人だったというのだから、世も末というしかない。

 もっともこれは、ヨスガの人望が足りない……というのも確かではあるにせよ、すでに謀叛の噂が広まっており、皆が疑心暗鬼ぎしんあんきに陥り、二の足を踏んだということもあるのであろう。


【 百官 】

(――うかつに登城しては、ちゅう殺されるのでは?)


 と、不安を抱いたのも無理はなかった。

 しかし午後にいたって、主だった大臣たちが招集に応じると、それに追従して他の百官も登城した。

 これは彼らが国事に目覚めた――というわけではさらさらなく、皇太后たるコウ・ランハからの働きかけがあったとされる。


【 百官 】

コウ太后がおっしゃるならば……)


 と、彼らは集まったのであり、この点はヨスガの貫禄不足というしかない。

 ともあれ、ヨスガは招集に応じた文武の諸官に、昨夜のことの次第を説明した。



 ――謀叛を起こしたのはリョウ・ケンシとその一党であること。


 ――彼らは〈十二佳仙じゅうにかせん〉の専横を憎んで蜂起ほうきし、注意を逸らすために都内に放火し、宮城に侵入したということ。


 ――その結果、十二佳仙の多くが殺害されたが、皇帝も皇太后も無事であるということ。


 ――この叛徒を撃退するため、急遽きゅうきょ、義勇軍を招いたこと。


 ――謀叛はすでに鎮圧されており、心配は無用であること。



【 ヨスガ 】

「――すでに謀叛人は捕らえられ、危機は去った。流言飛語りゅうげんひごに惑わされぬよう、心せよ!」


 と、ヨスガは釘を刺した。

 官僚たちは、ただ一夜で状況が激変したことに、当惑の色を隠せなかった。


【 百官たち 】

(これはいったい、どういうことだ……!?)


【 百官たち 】

(あれが、義勇軍だと……? 皇帝による政変クーデターではないのか……?)


 宮城が襲撃されるという一大事もさることながら、その結果、十二佳仙が一掃され、得体のしれない軍勢が我が物顔に闊歩かっぽしているのだ。

 さらに彼らを困惑させたのは、コウ太后からの言葉である。


【 レンス 】

「――『我が身は多病にして、摂政せっしょうの任を果たすことかなわず……ゆえに、城を出て隠遁いんとんいたしますので、後事はすべて陛下のおぼし召しのままに――』」


 名代として皇太后の甥・レンスが読み上げた令旨りょうじに、百官はどよめいた。

 *令旨……皇太后などが出す命令書など。


 これはすなわち、コウ太后から天子ヨスガへの大政奉還たいせいほうかんを意味する。


【 ヨスガ 】

「国母さまからのお言葉とあらば、従わぬわけにはゆかぬ。非才の身ではあるが、これよりは我がまつりごとる――」


【 ヨスガ 】

「まずは、民の救済を急げ! 国庫を開き、仮の住居を建て、食料や衣類を手配するのだ!」


 もし仮に、ほんの数日前にヨスガがこのような命を下したとしても、臣下たちは容易に動かなかったであろう。

 それは、彼女に権威も権力もなかったからである。

 だが今、コウ太后より実権を譲られたことで、ヨスガはもはやお飾りの皇帝ではなくなった。

 かつまた、死地をくぐり抜けた者特有の気迫が、官僚たちを威圧したということもあるであろう。


【 百官たち 】

『は、ははっ――』


 異を唱える者もなく、ここに皇帝ヨスガによる親政が始まったのである。

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