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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
198/421

◆◆◆◆ 6-103 燎氏の変(90) ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「……ぜぇっ、ぜぇっ……!」


【 ホノカナ 】

「……はぁっ、ふぁっ、ひぁあっ……!」


 セイレン絨毯の糸をたどり、出発点へ駆ける二人。

 半ば夢の中の世界といえども、疲れるものは疲れる。


【 ホノカナ 】

「わわっ……ど、どんどん、周りが暗くなってきてっ……!」


【 ヨスガ 】

「ちいっ……なんとかならぬか、天下無双の大軍師殿よっ!」


【 セイレン 】

『申し訳ありません! いかんせん、今の私はふっかふかな絨毯ですのでっ! できるのは敷き物になることだけでしてっ……!』


【 ホノカナ 】

「わわっ!? だんだん、足元も、崩れてきてるっ……!」


【 ヨスガ 】

「くっ……あと少しだというのにっ!」


 もはやこれまでか――と、思われたとき。


【 ヨスガ 】

「――――っ? 爪音つまおとだと……?」

 *爪音……馬のひづめの音を指す。


 背後から、馬の蹄の音が迫ってきた。

 振り返ってみると、その騎手は――


【 リョウ家の家宰かさい 】

「――これに、乗られよっ!」


 そう言って、自らは鞍から飛び降りる。


【 ホノカナ 】

「…………っ!?」


【 ヨスガ 】

「――何も言うまい、ありがたく受け取ろう! 乗れ、ホノカナ!」


 鞍にまたがり、ホノカナをうながすヨスガ。


【 ホノカナ 】

「……っ、はい……! あの――」


【 リョウ家の家宰かさい 】

「急がれよ!」


【 ホノカナ 】

「…………っ!」


 一礼して、ホノカナはヨスガの伸ばした手を取り、馬の背に飛び乗った。




【 リョウ家の家宰かさい 】

「…………」


 二人(と一枚)の乗った馬が駆けていく姿を見送る。

 すでに内的世界こころはあらかた溶け失せている。


【 リョウ家の家宰かさい 】

(……酔狂なことをしたものだ)


 侵入者である彼女たちと違い、なにもしなければ、彼はそのまま現世に戻れるはずであった。

 だが、部外者への干渉を行った結果……彼の魂魄はもはや原形をとどめられず、このまま消失するさだめ。


 それを感覚的に察しながらも、どこか、彼の気持ちは穏やかだった。

 少しでも罪滅ぼしができた、という安堵であろうか?

 あるいは……


【 リョウ家の家宰かさい 】

(……いい、決断だった)


 いつもどこかで、己の人生の選択を人任せにしてきた。

 それは、彼の身分を考えれば、無理のないところでもあったが……

 しかし今回ばかりは、すべて自分の判断であり、自分の責任に他ならない。


 後悔のない人生などありえない。

 しかし、後悔の少ない人生というものがあるとしたら、それは自分の人生は自分のものだった、と思えることかもしれない。


【 リョウ家の家宰かさい 】

(今、私の人生は――)


 自分のものだ、と思えた刹那。

 すべては、無に帰した――




【 ヨスガ 】

「…………っ!」


 ヨスガは覚醒し、ガバッと身を起こした。


【 ミズキ 】

「っ! ヨス――陛下っ……!」


 寄り添っていたミズキが、抱きついてくる。


【 ヨスガ 】

「……首尾はっ?」


【 カズサ 】

「はい、上々です! ……と、言っていいのかわかりませんが……とにかくも、片はつきました!」


【 ヨスガ 】

「そうか……他の、ふたりはっ?」


【 ゼンキョク 】

「それが――」


【 ホノカナ 】

「…………」


【 セイレン 】

「…………」


【 ヨスガ 】

「……っ! こやつら、まだ――」


【 ギョクレン 】

「ご安心を! 魂魄はとっくに戻ってきているのでございます! 今は、ただ――」


【 ヨスガ 】

「ただ……?」


【 ホノカナ 】

「……ぐぅ……すぅ……すぅぅ……」


【 ヨスガ 】

「こ、こやつらっ……」


【 セイレン 】

「むにゃむにゃ……すぅぴぃ……」


【 ヨスガ 】

「ただ、寝ているだけではないかっ……!」


 ともあれ、ここにおいて……

 〈リョウ氏の変〉における戦いは、ようやく終局を見たのである――――

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