◆◆◆◆ 6-86 燎氏の変(72) ◆◆◆◆
一方、鉄虎門における戦況は――
【 守備兵 】
「守り通せっ! 賊どもを通すなっ!」
【 守備兵 】
「閃家のご令嬢に、恥ずかしいところは見せられんぞっ!」
【 燎家の家宰 】
「うぬ……どうなっている……!?」
守兵の動きが、明らかに変わっている。
これまでとは空気が違う、というべきか。
【 部下 】
「こ、このままでは、総崩れになります……!」
【 燎家の家宰 】
「…………っ」
かつては宰相を出したこともある名門である燎家だが、今は斜陽の時代であり、現在の当主であるケンシもかろうじて閑職に就いているにすぎない。
そんな中、乾坤一擲で仕掛けたのが、今回の謀叛であった。
*乾坤一擲……天に運を任せ、のるかそるかの大勝負をするの意。
【 ケンシ 】
『――古き秩序を焼き尽くし、新たな世を創る! そのために、我らは決起するのだ……!』
帝都に火を放ち、宮城に攻め寄せ、さらには天子を討つ――
失敗すれば、一族皆殺しは免れない暴挙である。
だが成功すれば、天下の権を我が手にできる、絶好の機会。
この計画を打ち明けられた家宰は驚きつつも、
【 燎家の家宰 】
『それが、貴方様のお覚悟ならば――』
と、主の決意に従った。
彼の父や祖父でも、きっとそうしたであろう。
彼らは帝国の臣ではなく、あくまでも燎家の臣であるのだから。
かくして、大勝負を仕掛けたケンシのため、家宰は彼なりに全力を尽くしてきたのだったが……
【 燎家の家宰 】
(ここまで……なのか……?)
いくさの経験がなくとも、戦況が悪化し、取り返しがつかない状況に陥りつつある……ということは、肌で感じられた。
それでも彼は、撤退を命じるなり、自分だけ逃げるなりすることもできず、ただ、その場に留まっていた。
【 燎家の家宰 】
「…………っ」
決断――とりわけ戦場という極限状況における決断というものは、常人にとっては極めて難しいことである。
前にも後ろにも進めず、なおも彼がためらっていると……
【 ???? 】
「――なぜ、動かないのです――」
【 燎家の家宰 】
「……っ! 貴方はっ……」
気づかないうちに、背後に奇妙な風体の人影があった。
それは、先ごろから邸に出入りしている、怪しげな方士。
【 燎家の家宰 】
「天師殿っ……なにゆえ、ここへっ?」
【 無明天師 】
「――もとより、大業を成す為――ですとも」
そう告げると、なにやら印を結び始めた。
【 燎家の家宰 】
「おおっ、加勢していただけるか……ありがたい!」
ケンシをそそのかし、暴挙へと導いた輩……という思いもあったが、この場では、なによりありがたかった。
【 無明天師 】
「――ありえざる縁と縁……偽りと偽りを紡ぎ、真の在り方へと変えん――」
無明天師の周囲に、奇怪な影が浮かび上がる。
【 燎家の家宰 】
「…………っ!?」
【 無明天師 】
「――今こそ虚は実となり、偽りを食らい尽くし、真の世を産み出す揺籃と成るべし――」
――イィヒヒ……ギ、クハ、ハハ、ギイィ……アアア……!
おぞましい気配が周囲に立ち込め、耳障りな音が地の底よりザワザワと響いてくる。
立ち昇る禍々しい霧が、周囲を満たしていく……
【 燎家の家宰 】
「な――なんだ、これは――!?」
【 無明天師 】
「――新生せよ、凶にして狂なる兵――」
【 燎家の家宰 】
「……う、あっ……ああああっ……!?」
当惑の表情を浮かべたまま、家宰は黒霧に呑まれていった。
霧はさらに広がり、彼のみならず、叛乱軍を次々と包み込んでいく。
【 叛乱兵たち 】
「な、なんだ、これっ――ひいいっ……!?」
【 叛乱兵たち 】
「霧が、絡みついて――うあああっ……!?」
逃げる間もなく、次々と霧に包まれていく兵たち。
【 無明天師 】
「――今こそ踏みにじり、汚し尽くせ――偽りの、玉座を――」
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