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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
181/421

◆◆◆◆ 6-86 燎氏の変(72) ◆◆◆◆

 一方、鉄虎門における戦況は――


【 守備兵 】

「守り通せっ! 賊どもを通すなっ!」


【 守備兵 】

セン家のご令嬢に、恥ずかしいところは見せられんぞっ!」


【 リョウ家の家宰かさい 】

「うぬ……どうなっている……!?」


 守兵の動きが、明らかに変わっている。

 これまでとは空気が違う、というべきか。


【 部下 】

「こ、このままでは、総崩れになります……!」


【 リョウ家の家宰かさい 】

「…………っ」


 かつては宰相を出したこともある名門であるリョウ家だが、今は斜陽の時代であり、現在の当主であるケンシもかろうじて閑職に就いているにすぎない。

 そんな中、乾坤一擲けんこんいってきで仕掛けたのが、今回の謀叛であった。

 *乾坤一擲……天に運を任せ、のるかそるかの大勝負をするの意。


【 ケンシ 】

『――古き秩序を焼き尽くし、新たな世を創る! そのために、我らは決起するのだ……!』


 帝都に火を放ち、宮城に攻め寄せ、さらには天子を討つ――

 失敗すれば、一族皆殺しは免れない暴挙である。

 だが成功すれば、天下の権を我が手にできる、絶好の機会。

 この計画を打ち明けられた家宰かさいは驚きつつも、


【 リョウ家の家宰かさい 】

『それが、貴方様のお覚悟ならば――』


 と、主の決意に従った。

 彼の父や祖父でも、きっとそうしたであろう。

 彼らは帝国の臣ではなく、あくまでもリョウ家の臣であるのだから。


 かくして、大勝負を仕掛けたケンシのため、家宰かさいは彼なりに全力を尽くしてきたのだったが……


【 リョウ家の家宰かさい 】

(ここまで……なのか……?)


 いくさの経験がなくとも、戦況が悪化し、取り返しがつかない状況に陥りつつある……ということは、肌で感じられた。

 それでも彼は、撤退を命じるなり、自分だけ逃げるなりすることもできず、ただ、その場に留まっていた。


【 リョウ家の家宰かさい 】

「…………っ」


 決断――とりわけ戦場という極限状況における決断というものは、常人にとっては極めて難しいことである。

 前にも後ろにも進めず、なおも彼がためらっていると……


【 ???? 】

「――なぜ、動かないのです――」


【 リョウ家の家宰かさい 】

「……っ! 貴方はっ……」


 気づかないうちに、背後に奇妙な風体の人影があった。

 それは、先ごろから邸に出入りしている、怪しげな方士。


【 リョウ家の家宰かさい 】

「天師殿っ……なにゆえ、ここへっ?」


【 無明天師 】

「――もとより、大業を成す為――ですとも」


 そう告げると、なにやら印を結び始めた。


【 リョウ家の家宰かさい 】

「おおっ、加勢していただけるか……ありがたい!」


 ケンシをそそのかし、暴挙へと導いた輩……という思いもあったが、この場では、なによりありがたかった。


【 無明天師 】

「――ありえざる縁と縁……偽りと偽りを紡ぎ、真の在り方へと変えん――」


 無明天師の周囲に、奇怪な影が浮かび上がる。


【 リョウ家の家宰かさい 】

「…………っ!?」


【 無明天師 】

「――今こそ虚は実となり、偽りを食らい尽くし、真の世を産み出す揺籃ゆりかごと成るべし――」


 ――イィヒヒ……ギ、クハ、ハハ、ギイィ……アアア……!


 おぞましい気配が周囲に立ち込め、耳障りな音が地の底よりザワザワと響いてくる。

 立ち昇る禍々しい霧が、周囲を満たしていく……


【 リョウ家の家宰かさい 】

「な――なんだ、これは――!?」


【 無明天師 】

「――新生せよ、凶にして狂なるつわもの――」


【 リョウ家の家宰かさい 】

「……う、あっ……ああああっ……!?」


 当惑の表情を浮かべたまま、家宰かさいは黒霧に呑まれていった。

 霧はさらに広がり、彼のみならず、叛乱軍を次々と包み込んでいく。


【 叛乱兵たち 】

「な、なんだ、これっ――ひいいっ……!?」


【 叛乱兵たち 】

「霧が、絡みついて――うあああっ……!?」


 逃げる間もなく、次々と霧に包まれていく兵たち。


【 無明天師 】

「――今こそ踏みにじり、汚し尽くせ――偽りの、玉座を――」

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