◆◆◆◆ 2-8 方士セイレン ◆◆◆◆
薄暗い通路を抜けて出た先は、
【 ホノカナ 】
「これって――」
ホノカナは息を呑んだ。
そこは明らかに、宮城の外だったのだ。
【 セイレン 】
「ふふふ、驚きのあまり声もないようですな!」
セイレン、まるで自分の手柄のように胸を張っている。
【 セイレン 】
「宮城は四方の門のほかは出ることは不可能! しかもその門は夜のうちは閉ざされているとなれば、夜に市中に出向くなど無理な注文! されど――」
【 ヨスガ 】
「無駄口は大概にせよ。置いていくぞ!」
ヨスガと、その影にように寄り添うミズキがずんずん先行する。
【 ホノカナ 】
「あ、あわわ……」
慌てて後を追うホノカナ。
それにしても、
【 ホノカナ 】
(夜なのに、こんなに明るいだなんて……!)
もうとっくに夜ふけだというのに、煌々と明かりが灯っており、道を歩くのに支障はない。
タイシンと帝都〈万寿世春〉に来たときは昼間だったし、それ以降、城から出たことはなかった。
まるで不夜城のごとき様子に、ホノカナは感嘆しきりだった。
いや、それ以上に、
【 ホノカナ 】
(まさか、陛下が街の中を出歩くなんて……!)
およそありえないことだということは、ホノカナにもわかる。
【 セイレン 】
「驚きの連続で、まるで頭が回っていないようですな。いや、無理もない!」
ホノカナに歩調を合わせながら、セイレンが話しかけてくる。
【 セイレン 】
「ですが、今はあれこれ考える必要はありません。ただただ、目の前の事態に対処するだけでよろしい。そう! “一歩一考の計”というものです」
【 ホノカナ 】
「……なるほど!」
確かに、あれこれ考えていても仕方はなかった。
【 ホノカナ 】
「あの、藍老師――」
【 セイレン 】
「いやいや、そんなごたいそうな! どうか私のことは、セイレンとお呼びください、鱗大将軍の裔たる御方!」
【 ホノカナ 】
「え――」
ホノカナはどきりとした。
【 ホノカナ 】
「どうして、わたしのご先祖のことを……?」
【 セイレン 】
「なに、鱗氏の人々は、みなそう称しておりましょう?」
【 ホノカナ 】
「そ、それはまぁ……」
鱗大将軍――すなわち〈鱗・ハルカナ〉。
宙の建国の祖である〈神祖武烈替天皇帝〉に仕え、その覇業を支えた功臣である。
もっとも、いかんせん三千年も昔のことであるから、その実像は定かではないし、実在の人物かどうかすら怪しい――と見る歴史家もいるほどだ。
鱗氏は北方、なかでも峰東には珍しくない氏姓であり、ホノカナが大将軍の末裔を名乗っても、別に叱られもしないが、さほどありがたがられもしない――というのが実情である。
【 ホノカナ 】
「もしかして……アレですか? わたしが本当に大将軍の先祖かどうか、星占いとかでわかったりするんでしょうか……!?」
【 セイレン 】
「さぁ、それはどうでしょう! ……おっ、陛下たちが脇道に入っていきますよ!」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ……!」
薄暗い路地へと入っていったヨスガたちを、ホノカナは泡を食って追いかけていった。
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