◆◆◆◆ 6-72 燎氏の変(58) ◆◆◆◆
武器も持たずに刺客たちを待ち構えていたのは、若い女。
動きやすい軽装だが鎧も身につけておらず、武器も持っていない。
それでいて、殺気立った刺客たちを前に、余裕しゃくしゃくの面構え。
先日ホノカナが東の宮で出会った娘、燃・カツミであった。
【 カツミ 】
「知ってると思うけど、この先は立ち入り禁止なんだ。大人しく引き返した方が、身のためだと思うけど?」
【 刺客の頭目 】
(……なんだ、こやつはっ……?)
先ほど遭遇した空刀使いとはまた違う、異様な感覚に襲われる。
決して、威圧感を覚えるわけではないのに……まるで、目の前に巨大な岩が立ちはだかっているような、そんな錯覚に陥ってしまう。
【 刺客の頭目 】
「――っ、片付けるっ!」
【 他の刺客 】
「はっ……!」
刺客たちは身構えると、一斉にカツミへと襲いかかる。
【 カツミ 】
「おっ、いいねぇ――そうでなくっちゃあな!」
カツミは楽しげな声をあげると、ゆっくりと踏み出して――
ポン。
【 他の刺客 】
「――がっ!?」
ポン。
【 他の刺客 】
「……ぐあっ!?」
ポン、ポン。
【 他の刺客 】
「…………!!」
【 刺客の頭目 】
「な――」
襲いかかってきた刺客たちのみぞおちへ拳を軽く打ち込み、次々と地面に転がしていく。
その華麗な身のこなしは、戦いというより、まるで演舞のようであった。
【 刺客の頭目 】
「これは――〈燃家拳〉か……!」
燃家拳――シラクサに敗れた陸の仙が用いていた拳法。
方術と武術を組み合わせることで、常人以上の力を発揮するのがその真髄であるが……
この場合は、逆であった。
【 刺客の頭目 】
(方術で、威力を打ち消している……だと!?)
本来ならたやすく相手の肉体を粉砕するほどの強烈な打撃を、方術で打ち消し、失神するていどの威力に抑えているのだった。
【 カツミ 】
「おっ、知ってるんだ? 嬉しいねえ! わりと地味な流派だからさぁ、知名度がいまいちなんだよ。ま、そもそも使えるヤツがあんまりいないのが問題なんだけどね……」
汗一つかかずに、たちまち四人の刺客を打ち倒したカツミ。
刺客たちは地に伏して悶絶してはいるが、致命傷は負っていない。
いっそ、皆殺しにする以上の離れ業といえよう。
【 刺客の頭目 】
「ぐっ……ううっ……!」
もはやこれまでと覚悟した頭目が、己の首に剣を押し当てる――
【 カツミ 】
「おっと――」
ポン。
【 刺客の頭目 】
「ぐっ……!? あっ……」
刃が首を掻き切る前に、信じがたい速度で踏み込んできたカツミの拳が、頭目の腹を打っていた。
ただそれだけで、剣を取り落とし、その場に力なく崩れ落ちる。
【 カツミ 】
「強者に挑むってことは、自分の命すら自由にはできなくなる……そういうことなんだよねぇ」
【 カツミ 】
「――聞いてるんだろ、忍びの坊や。ちゃんと、ご主人様に伝えておきなよ」
【 カツミ 】
「こっちからちょっかいを出す気はないけど、そっちから仕掛けてくるなら、あたしを――あたしたちを相手にすることになる、ってね」
【 カツミ 】
「こっちはいつでもいいぜ? この〈燃拳豪仙〉とやり合いたいっていうならね――」
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