◆◆◆◆ 6-69 燎氏の変(55) ◆◆◆◆
一方、都内の内城にある燎家の邸では……
【 他の官僚 】
「どうなっているっ? まだ、片はつかぬのか!」
【 他の官僚 】
「グズグズしていては、夜が明けてしまうぞ……!」
居間に集った官僚たちが、口々に不満を並べていた。
【 ケンシ 】
「そう焦ることはない。そうであろう、天師どの?」
【 無明天師 】
「ええ――今頃、外廷は制圧されておりましょう。そして、偽帝の首も、胴から離れている頃――」
【 他の官僚 】
「おおおお……!」
【 ケンシ 】
「是非もなし……新たなる世を創るためには、犠牲はつきものだ」
【 他の官僚 】
「しかし……国母さまに、認めてもらえましょうか?」
【 無明天師 】
「ご安心を――そちらにも、手は打っております」
【 他の官僚 】
「……っ、それは、つまり……国母さまもっ?」
【 無明天師 】
「毒を食らわば皿まで――とか。覚悟は――おありでしょう?」
【 ケンシ 】
「無論ですとも。新たな世には、新たなる主がふさわしい――」
さすがに、反乱の首謀者たる燎・ケンシは、へっぴり腰の他の面々とは違い、胆が据わっているようであった。
【 ケンシ 】
「そう、さしづめ、峰西の〈愛憫公主〉など、新帝として適任であろう」
【 他の官僚 】
「おおっ……! あの方ならば、我らが仕えるに相応しい!」
【 ケンシ 】
「すべては、新たな世……新たなる秩序のために……!」
【 無明天師 】
「…………」
熱狂に猛る男たちを、無明天師は冷え切った眼差しで見つめていたが、ふと、背を向けた。
【 ケンシ 】
「む……どうされた、天師どの?」
【 無明天師 】
「私も――戦いの場へ参ります」
【 ケンシ 】
「おお……! どうか、ご武運を――」
無明天師は振り返ることなく、そのまま薄闇の中へと溶けていった。
そして、外廷にある宮殿の一角では……
【 他の十二佳仙 】
「ううむっ……直接送り込んだ刺客も、木偶も、敗れるとはっ……」
【 他の十二佳仙 】
「いかがいたしますっ、黄龍老師……!?」
【 シジョウ 】
「…………」
黄龍・シジョウは黙り込んでいる。
覆面のおかげで表情を悟られる恐れはないが、その顔は蒼白となっていた。
【 シジョウ 】
(なぜだ……なぜ、こうなった……!?)
あらゆる手が無為となり、すべての手駒を使い果たした。
こと、ここに至っては、もはや……
【 他の十二佳仙 】
「こ、こうなっては、国母さまの慈悲にすがるしか――」
【 他の十二佳仙 】
「まさに……! 急ぎ、使いを出して――」
【 他の十二佳仙 】
「いや、今のうちに脱出すれば、命だけは――」
あれこれと好き勝手に意見を口にするものの、誰も率先して行動しようとはしない。
【 シジョウ 】
(ここまでだと、いうのか……)
そう、思われたとき。
【 ???? 】
「――おのおのがた、どうか、落ち着いてくださいませ」
張りのある声が響いた。
声の主は、末席にいた方士で、その覆面には拾弐とあった。
【 拾弐の仙 】
「窮地こそ最大の好機――と、申します。むしろ今こそが、難局を乗り切る格好の機会でありましょう」
落ち着き払った声音に、浮き足立っていた場の空気がやや鎮まる。
【 シジョウ 】
「そなた――なにか、策があるというのか?」
【 拾弐の仙 】
「は……私のような若輩者が申し上げるのは、いささか憚られますが」
【 拾弐の仙 】
「老師のお考えでは、あくまで〈玉〉を砕くのではなく、我がものにするはずだったのでは、とお察しいたしますが――」
ここでいう玉とは、天子ヨスガの身にほかならない。
【 シジョウ 】
「……なぜ、そう思う?」
【 拾弐の仙 】
「国母さまの意図がわかりかねる以上、砕いてしまうのは危うい……ゆえに、身柄を確保し、我らに逆らえぬように〈誓約〉を結ばせるおつもりだったのでは――」
【 シジョウ 】
「……もはや隠すまい。その通りだ」
【 拾弐の仙 】
「今となっては、それを果たすのは困難。ならば、いっそのこと――」
【 シジョウ 】
「……! もしや、そなた……」
【 拾弐の仙 】
「我がものにできぬのならば、砕くほかありますまい」
【 他の十二佳仙 】
「! し、しかし、それはっ……」
【 拾弐の仙 】
「迷っていては、いたずらに時が過ぎるのみ……我らの秘術をもってすれば、かないましょう。幸い、材料は揃っておりますゆえ」
【 シジョウ 】
「…………っ」
シジョウはしばし迷った末に、
【 シジョウ 】
「――よかろう」
と、頷いたのだった。
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