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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
164/421

◆◆◆◆ 6-69 燎氏の変(55) ◆◆◆◆

 一方、都内の内城にあるリョウ家のやしきでは……


【 他の官僚 】

「どうなっているっ? まだ、片はつかぬのか!」


【 他の官僚 】

「グズグズしていては、夜が明けてしまうぞ……!」


 居間に集った官僚たちが、口々に不満を並べていた。


【 ケンシ 】

「そう焦ることはない。そうであろう、天師どの?」


【 無明天師 】

「ええ――今頃、外廷がいていは制圧されておりましょう。そして、偽帝の首も、胴から離れている頃――」


【 他の官僚 】

「おおおお……!」


【 ケンシ 】

「是非もなし……新たなる世を創るためには、犠牲はつきものだ」


【 他の官僚 】

「しかし……国母さまに、認めてもらえましょうか?」


【 無明天師 】

「ご安心を――そちらにも、手は打っております」


【 他の官僚 】

「……っ、それは、つまり……国母さまもっ?」


【 無明天師 】

「毒を食らわば皿まで――とか。覚悟は――おありでしょう?」


【 ケンシ 】

「無論ですとも。新たな世には、新たなる主がふさわしい――」


 さすがに、反乱の首謀者たるリョウ・ケンシは、へっぴり腰の他の面々とは違い、胆が据わっているようであった。


【 ケンシ 】

「そう、さしづめ、峰西ほうせいの〈愛憫公主あいびんこうしゅ〉など、新帝として適任であろう」


【 他の官僚 】

「おおっ……! あの方ならば、我らが仕えるに相応しい!」


【 ケンシ 】

「すべては、新たな世……新たなる秩序のために……!」


【 無明天師 】

「…………」


 熱狂に猛る男たちを、無明天師は冷え切った眼差しで見つめていたが、ふと、背を向けた。


【 ケンシ 】

「む……どうされた、天師どの?」


【 無明天師 】

「私も――戦いの場へ参ります」


【 ケンシ 】

「おお……! どうか、ご武運を――」


 無明天師は振り返ることなく、そのまま薄闇の中へと溶けていった。




 そして、外廷がいていにある宮殿の一角では……


【 他の十二佳仙 】

「ううむっ……直接送り込んだ刺客も、木偶でくも、敗れるとはっ……」


【 他の十二佳仙 】

「いかがいたしますっ、黄龍コウリュウ老師……!?」


【 シジョウ 】

「…………」


 黄龍コウリュウ・シジョウは黙り込んでいる。

 覆面のおかげで表情を悟られる恐れはないが、その顔は蒼白となっていた。


【 シジョウ 】

(なぜだ……なぜ、こうなった……!?)


 あらゆる手が無為となり、すべての手駒を使い果たした。

 こと、ここに至っては、もはや……


【 他の十二佳仙 】

「こ、こうなっては、国母さまの慈悲にすがるしか――」


【 他の十二佳仙 】

「まさに……! 急ぎ、使いを出して――」


【 他の十二佳仙 】

「いや、今のうちに脱出すれば、命だけは――」


 あれこれと好き勝手に意見を口にするものの、誰も率先して行動しようとはしない。


【 シジョウ 】

(ここまでだと、いうのか……)


 そう、思われたとき。


【 ???? 】

「――おのおのがた、どうか、落ち着いてくださいませ」


 張りのある声が響いた。

 声の主は、末席にいた方士で、その覆面には拾弐じゅうにとあった。


【 拾弐じゅうにの仙 】

「窮地こそ最大の好機――と、申します。むしろ今こそが、難局を乗り切る格好の機会でありましょう」


 落ち着き払った声音に、浮き足立っていた場の空気がやや鎮まる。


【 シジョウ 】

「そなた――なにか、策があるというのか?」


【 拾弐じゅうにの仙 】

「は……私のような若輩者じゃくはいものが申し上げるのは、いささかはばかられますが」


【 拾弐じゅうにの仙 】

「老師のお考えでは、あくまで〈ぎょく〉を砕くのではなく、我がものにするはずだったのでは、とお察しいたしますが――」


 ここでいう玉とは、天子ヨスガの身にほかならない。


【 シジョウ 】

「……なぜ、そう思う?」


【 拾弐じゅうにの仙 】

「国母さまの意図がわかりかねる以上、砕いてしまうのは危うい……ゆえに、身柄を確保し、我らに逆らえぬように〈誓約〉を結ばせるおつもりだったのでは――」


【 シジョウ 】

「……もはや隠すまい。その通りだ」


【 拾弐じゅうにの仙 】

「今となっては、それを果たすのは困難。ならば、いっそのこと――」


【 シジョウ 】

「……! もしや、そなた……」


【 拾弐じゅうにの仙 】

「我がものにできぬのならば、砕くほかありますまい」


【 他の十二佳仙 】

「! し、しかし、それはっ……」


【 拾弐じゅうにの仙 】

「迷っていては、いたずらに時が過ぎるのみ……我らの秘術をもってすれば、かないましょう。幸い、材料は揃っておりますゆえ」


【 シジョウ 】

「…………っ」


 シジョウはしばし迷った末に、


【 シジョウ 】

「――よかろう」


 と、頷いたのだった。

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