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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
163/421

◆◆◆◆ 6-68 燎氏の変(54) ◆◆◆◆

 長い夜も、いつしか半ばを過ぎ……

 後の世に〈リョウ氏の変〉と称される争乱の終わりが近づいている。


 だが、一件落着にはまだ遠い。

 そこかしこで、さまざまな思惑が交錯しているのだ。




 帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉の城外においては……


【 ケイヨウ 】

「ふゥむ……まだまだ騒がしいようだのォ」


 城内より兵を出して守りを固めている枢密使・〈八白ハチハク・ケイヨウ〉は、報告を受け、そうつぶやいた。


【 家臣 】

「閣下、まだ兵を動かさずとも良いのでしょうか……?」


【 ケイヨウ 】

「そうさなァ」


 焦りの色を隠さない部下たちを前に、ケイヨウは悠然と白い髭を撫でている。


【 ケイヨウ 】

「まだまだ、油断はならぬ。守りを固め、備えるよう伝えよ」


【 家臣 】

「はっ……承知いたしました!」


 部下たちは一礼して、幕舎を出ていった。


【 ケイヨウ 】

「……さて……」


 床几いすに腰を落としたケイヨウは、盃を二つ取り出すと、果実酒を注いでいく。

 しばらくして、ゴホン――と咳払いの音がした。


【 ケイヨウ 】

「入るがいい」


 そう声をかけると、幕舎の中へ人影がのっそりと入ってきた。

 大柄な体躯たいくを黒装束で包んでいる。


【 ???? 】

「――邪魔するよ」


 頭巾をかぶったその姿が発したのは、年配の女のそれである。


【 ケイヨウ 】

「おォ――エイ家の小姐おじょうちゃんか。久しいのォ」


【 年配の女 】

「元気そうだね、じいさん」


【 ケイヨウ 】

「おいおい、私は枢密使であるぞ? 相変わらず、口の利き方がなっておらんなァ」


【 年配の女 】

「そいつはすまない。なんせ、山奥暮らしが長いもんでね」


【 ケイヨウ 】

「ふむ……今は〈白銀夜叉しろがねやしゃ〉などと呼ばれておるのだったか?」


【 白銀夜叉 】

「よく知ってるじゃないか。歳のわりに、耳がいいねぇ」


【 ケイヨウ 】

「外には見張りがいたはずだが?」


【 白銀夜叉 】

「なに、ちょいと眠ってもらってるよ。なんせうちの大将は、無用な殺生は好きじゃないのでね」


【 ケイヨウ 】

「ふゥむ……旧交を温めにきた、というわけではあるまいなァ?」


【 白銀夜叉 】

「そりゃあそうさ。ちょいと八白ハチハク閣下に頼みごとがあって、お邪魔したのさ」


【 ケイヨウ 】

「と、いうと?」


【 白銀夜叉 】

「ちょいとお城に用があるんだよ。通してもらいたいのさ」


【 ケイヨウ 】

「ほほォ……お前さんひとりなら、勝手にせよというところだが……お供も引き連れているのだろう?」


【 白銀夜叉 】

「なぁに、そんなに大した数じゃない。せいぜい千人くらいだ」


【 ケイヨウ 】

「やれやれ、ずいぶんと厚かましいのォ。それだけの手勢を、見てみぬフリをしろと?」


【 白銀夜叉 】

「嫌だっていうなら、人質になってもらうしかないが……その歳じゃあ、縄はこたえるだろ? おとなしく一筆したためておくれ」


【 ケイヨウ 】

「いやはや、年寄りを敬う気持ちがないのォ、昨今の若い者は」


【 白銀夜叉 】

「あっははは! 若僧あつかいされたのは久しぶりだよ。こちとら、孫もいるっていうのにね」


【 ケイヨウ 】

「どれ……これでよかろう?」


 話しているあいだにも筆を走らせていたケイヨウが、命令書を渡す。

 この者、任を果たすべく宮城に向かう者なり――と記されている。


【 白銀夜叉 】

「ふむ……たしかに。この借りは、いずれ」


【 ケイヨウ 】

「一杯やっていってはどうだ?」


 と、盃を指し示すケイヨウ。


【 白銀夜叉 】

「ありがたいが――やめておくよ。老いたりとはいえ、狼の牙にかかっちゃあ、ひとたまりもないんでね」


【 ケイヨウ 】

「ふ、ふ、ふ……」


【 白銀夜叉 】

「じゃあ、さよならだ。生きていたらまた会おう。あばよ、じいさん」


【 ケイヨウ 】

「おォ、健闘を祈っておるよ。親愛なるお孫どのによろしく」


【 白銀夜叉 】

「はは――」


 白銀夜叉と呼ばれた女は一笑して、そのまま幕舎を出ていった。


【 ケイヨウ 】

「さァて……」


 ひとり、盃に口をつけながら。


【 ケイヨウ 】

「この一幕……どうなることやら?」

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