◆◆◆◆ 6-63 燎氏の変(49) ◆◆◆◆
【 ゼンキョク 】
「より正確にいえば、心臓に該当するような器官の存在は確かめられなかった――と、いうところです」
【 ミズキ 】
「そんなっ……」
【 ゼンキョク 】
「ですが一方で、体内の気の流れのようなものは感じ取れました。どこかにその源があるのもまた、事実ではあるでしょう」
【 ミズキ 】
「……っ? それはつまり……」
【 ゼンキョク 】
「ものは試し――闇雲に打ちまくってみてください」
【 ミズキ 】
「……っ、まったく、人使いの荒い……!」
文句を言いつつ、ミズキは高々と跳躍すると、
【 ミズキ 】
「はぁあああっ!」
――バシュッ! ドシュッ! シュバァッ!!
あえて的を定めず、四方八方へと空刀を放つ。
そのうちのひとつが、倒れている刺客の屍に命中したとたん――
【 千眼万笑 】
「ア゛ッ――アアアッ!? クヒイイイッ?」
これまでどんな攻撃にも無反応だった千眼万笑が、身をくねらせ、そちらに注意を向けた。
【 ミズキ 】
「っ! 今のは――」
【 ゼンキョク 】
「どうやら当たりのようですね――ミズキ殿!」
【 ミズキ 】
「言われずともっ!」
――ズバァッ!!
気合一閃、空刀が屍を両断する。
と、隠れていた硬質の珠が浮かび上がった。
本体に心臓がないのも道理、別の場所に隠されていたのである。
【 千眼万笑 】
「アヒィ――イイイッ?」
【 ミズキ 】
「そこ……かッ!」
続けざまに空刀を放ち、心臓を破壊しようとするミズキだが、おびただしい数の触手が伸び、壁を作って阻止してくる。
【 ミズキ 】
「くっ……このっ……!」
さしものミズキも限界間近――と思われたとき、
【 千眼万笑 】
「クッ……ヒッ、クヒイイイィィ……!?」
ふいに千眼万笑の動きが鈍り、触手の守りが緩む。
その隙、ミズキが逃すはずもなく――
【 ミズキ 】
「――せぇぇいっ!」
――バシュッ! パキイッ!!
左手から放った空刀が触手を切り払い、一瞬遅れて右手から放たれた一撃が、心臓を撃砕する――これすなわち、空刀・両刃の太刀!
【 千眼万笑 】
「グヒイッ……!? ヒッ、ハッ、ヒィアアアアッ……アハハハハッ……!!」
断末魔にも似た高笑いとともに、妖魔・千眼万笑の身はあえなくドロドロと溶け崩れていった。
【 ミズキ 】
「……っ、はぁっ、はぁっ……」
【 ゼンキョク 】
「ふぅ……お疲れ様でした、ミズキ殿」
【 ミズキ 】
「はぁっ、ふぅっ……先ほど、動きが鈍ったのは……老師の、仕込みですかっ……?」
【 ゼンキョク 】
「ええ、ものは試しと思って、先ほど触れたときに、気の流れを加速させてみました。折よく、時間切れとなったようですね」
一時的に高揚した妖魔だったが、ほどなくその揺り戻しがきて、動きが鈍くなった……という次第であった。
【 ミズキ 】
「……! もし、反動がなかったらどうするつもりだったのですっ!?」
【 ゼンキョク 】
「ふふ、そのときは……ミズキ殿がもっと頑張ってくれていたことでしょう」
【 ミズキ 】
「…………」
【 ゼンキョク 】
「だいぶお疲れのようですね。鍼と経穴と、どちらを御所望で?」
【 ミズキ 】
「どちらも遠慮しておきます……!」
やはりこの女は苦手だ、と改めて思うミズキであった。
ともあれこうして……
裏門における攻防は決着をみたのである。
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