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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
157/421

◆◆◆◆ 6-62 燎氏の変(48) ◆◆◆◆

【 ゼンキョク 】

「さて、これからじかに〈千眼万笑せんがんばんしょう〉に接触し、心臓の位置を確認します。援護を頼みますよ、ミズキ殿」


【 ミズキ 】

「……心得ましたが、真面目にお願いしますよ、老師」


【 ゼンキョク 】

「とんでもない、私は常に真面目ですとも」


【 ミズキ 】

「しかし――どうやって近づくのです?」


 あの金縛りを回避するのは、ミズキですら容易なことではない。

 まして直接、本体に触れるほど接近するとなれば、なおのことだ。


【 ゼンキョク 】

「なに、簡単なことです――よっと」


【 ミズキ 】

「……んぐっ!?」


 ミズキは思わず声をあげた。

 ゼンキョクが、いきなり背中に乗ってきたのである。


【 ミズキ 】

「な、なにをっ……!?」


【 ゼンキョク 】

「私は目を閉じていますから、間合いまで運んでください。ああ、その間に金縛りに遭ってもご心配なく。すぐにはりを打ってあげますので」


【 ミズキ 】

「…………っ」


【 ゼンキョク 】

「抱っこでもいいのですが……例の〈誓約〉がある以上、難しいでしょう?」


【 ミズキ 】

「……他に手はないのですか」


【 ゼンキョク 】

「ありませんねぇ」


【 ミズキ 】

「……セン姉妹きょうだいか、エキセン殿に来て欲しかった……!」


 と、ボヤきながらも。


【 ミズキ 】

「せいぜい、振り落とされないように願います……!」


【 ゼンキョク 】

「ふむ……あまり乗り心地がよくありませんね。もう少し、前かがみになってもらえますか?」


【 ミズキ 】

「…………」


 本当に振り落としてやりたい衝動を、懸命に抑えつつ。


【 ミズキ 】

「――参ります!」


 ゼンキョクを背負ったまま駆け出し、間合いを詰めていく。


【 千眼万笑 】

「クヒヒ――フフッ、アッハァハハハァ……!!」


 触手をかわしながら、かろうじて妖魔の本体へと接近する。


【 ミズキ 】

「老師!」


【 ゼンキョク 】

「では、触診といきましょう」


 ミズキの背からゼンキョクが右手を伸ばし、妖魔・千眼万笑に直接、触れる――


【 ゼンキョク 】

「っ! これは――」


 息を呑むゼンキョク。


【 ミズキ 】

「どうしたのですっ……?」


【 ゼンキョク 】

「触れたことのない肌触り……ふうむ、実にこれは、興味深い……!」


 などと口走りつつ、楽しげにスリスリと撫でさすっている。


【 ミズキ 】

「――――」


【 ゼンキョク 】

「冗談です、振り落とそうとしないでください……ふむ、これは――」


【 千眼万笑 】

「クッキッ! キイッ! クキキキキキ……!!」


【 ミズキ 】

「くっ……いったん、下がりますっ!」


 迫る触手から逃れ、ゼンキョクを背負ったまま飛びすさる。


【 千眼万笑 】

「ヒイハハハハハ……ア゛ァハハ! ア゛ァァーッハハハハッッ!!」


 ブルブルと身をゆすって大笑いし、狂ったように触手を躍らせている。


【 ミズキ 】

(触られたことで、逆上している……?)


 これまで感情らしきものはまるで感じられなかったが、逆鱗に触れたというところなのだろうか?


【 ゼンキョク 】

「ほほう……」


【 ミズキ 】

「老師! どうだったのですっ?」


【 ゼンキョク 】

「ふむ……ありていに言えば」


 ミズキの背から降りながら、ゼンキョクが答える。


【 ゼンキョク 】

「ありませんね、心臓は」


【 ミズキ 】

「…………っ!」

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