◆◆◆◆ 6-62 燎氏の変(48) ◆◆◆◆
【 ゼンキョク 】
「さて、これから直に〈千眼万笑〉に接触し、心臓の位置を確認します。援護を頼みますよ、ミズキ殿」
【 ミズキ 】
「……心得ましたが、真面目にお願いしますよ、老師」
【 ゼンキョク 】
「とんでもない、私は常に真面目ですとも」
【 ミズキ 】
「しかし――どうやって近づくのです?」
あの金縛りを回避するのは、ミズキですら容易なことではない。
まして直接、本体に触れるほど接近するとなれば、なおのことだ。
【 ゼンキョク 】
「なに、簡単なことです――よっと」
【 ミズキ 】
「……んぐっ!?」
ミズキは思わず声をあげた。
ゼンキョクが、いきなり背中に乗ってきたのである。
【 ミズキ 】
「な、なにをっ……!?」
【 ゼンキョク 】
「私は目を閉じていますから、間合いまで運んでください。ああ、その間に金縛りに遭ってもご心配なく。すぐに鍼を打ってあげますので」
【 ミズキ 】
「…………っ」
【 ゼンキョク 】
「抱っこでもいいのですが……例の〈誓約〉がある以上、難しいでしょう?」
【 ミズキ 】
「……他に手はないのですか」
【 ゼンキョク 】
「ありませんねぇ」
【 ミズキ 】
「……閃姉妹か、エキセン殿に来て欲しかった……!」
と、ボヤきながらも。
【 ミズキ 】
「せいぜい、振り落とされないように願います……!」
【 ゼンキョク 】
「ふむ……あまり乗り心地がよくありませんね。もう少し、前かがみになってもらえますか?」
【 ミズキ 】
「…………」
本当に振り落としてやりたい衝動を、懸命に抑えつつ。
【 ミズキ 】
「――参ります!」
ゼンキョクを背負ったまま駆け出し、間合いを詰めていく。
【 千眼万笑 】
「クヒヒ――フフッ、アッハァハハハァ……!!」
触手を躱しながら、かろうじて妖魔の本体へと接近する。
【 ミズキ 】
「老師!」
【 ゼンキョク 】
「では、触診といきましょう」
ミズキの背からゼンキョクが右手を伸ばし、妖魔・千眼万笑に直接、触れる――
【 ゼンキョク 】
「っ! これは――」
息を呑むゼンキョク。
【 ミズキ 】
「どうしたのですっ……?」
【 ゼンキョク 】
「触れたことのない肌触り……ふうむ、実にこれは、興味深い……!」
などと口走りつつ、楽しげにスリスリと撫でさすっている。
【 ミズキ 】
「――――」
【 ゼンキョク 】
「冗談です、振り落とそうとしないでください……ふむ、これは――」
【 千眼万笑 】
「クッキッ! キイッ! クキキキキキ……!!」
【 ミズキ 】
「くっ……いったん、下がりますっ!」
迫る触手から逃れ、ゼンキョクを背負ったまま飛びすさる。
【 千眼万笑 】
「ヒイハハハハハ……ア゛ァハハ! ア゛ァァーッハハハハッッ!!」
ブルブルと身をゆすって大笑いし、狂ったように触手を躍らせている。
【 ミズキ 】
(触られたことで、逆上している……?)
これまで感情らしきものはまるで感じられなかったが、逆鱗に触れたというところなのだろうか?
【 ゼンキョク 】
「ほほう……」
【 ミズキ 】
「老師! どうだったのですっ?」
【 ゼンキョク 】
「ふむ……ありていに言えば」
ミズキの背から降りながら、ゼンキョクが答える。
【 ゼンキョク 】
「ありませんね、心臓は」
【 ミズキ 】
「…………っ!」
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