◆◆◆◆ 6-61 燎氏の変(47) ◆◆◆◆
一方そのころ、裏門の戦況は――
【 ミズキ 】
「――はぁっ! ふっ……せぇいっ!」
――バシュッ! ドシュウッ!!
【 妖魔 】
「クク――ファハハ! アハハハハ!!!」
女官長ミズキが、耳障りな笑いを放つ妖魔を相手に奮闘していた。
【 ミズキ 】
「なにが……おかしいっ!」
――ドシュッ! ズバシュウッ!!
気迫とともに〈空刀〉を放ち、妖魔の身をズタズタに引き裂く――が、
【 妖魔 】
「クヒッ――ヒィハハッ! キャーッハハハハッ!!!」
妖魔は苦痛を訴えるでもなく、気に障る甲高い笑声を放つばかり。
それのみならず、
――カッ!!
【 ミズキ 】
「くうっ……!?」
妖魔の無数の眼光が視界に入り、ミズキの身体が硬直する。
呪力のこもった邪眼の類であった。
【 妖魔 】
「アアーハハハハ……ヒハハハァ!!」
動きを封じられたミズキに、妖魔の触手が迫る――
――ドスッ!!
【 ミズキ 】
「んぐっ……くうっ!」
間一髪、ミズキは妖魔の攻撃を回避した。
飛来した鍼が刺さり、その痛みで呪縛から解放されたのである。
【 ミズキ 】
「はぁっ、はぁあっ……!」
気づけば、今やミズキの身には幾本もの鍼が突き立っていた。
【 妖魔 】
「アァアハハ……ハハ……フゥアァハハハ……!」
うねうねと身をくねらせながら、異様な高笑いを続ける妖魔。
【 ゼンキョク 】
「ふむ――」
そんな奇怪な姿をじっと見つめるのは晏・ゼンキョク、助っ人として参上した医術の名手である。
【 ミズキ 】
「まだ――心の臓の位置はわかりませんか、晏老師……!」
妖魔を討つには、その心臓を破壊するほかはない、とされる。
それゆえ、ミズキが身体を張って時間を稼いでいるわけだが……
【 ゼンキョク 】
「いえ、これがなかなか……思った以上にやっかいですね、この〈千眼万笑〉――」
【 ミズキ 】
「千眼……なんですって? そんな名前が……?」
【 ゼンキョク 】
「いえ、たった今考えたところです。なにごとも、名前は大事ですからね」
【 ミズキ 】
「……っ、悠長なことを……! まさか、ずっとそれを考えていたのではないでしょうねっ?」
【 ゼンキョク 】
「いやいや、この前の妖魔、あのときの妖魔……などといった呼び方では混乱をきたしますからね。名づけは肝要ですよ」
【 ミズキ 】
「…………」
いけしゃあしゃあと語るゼンキョクに、つい空刀を放ちたくなる衝動を堪えるミズキ。
【 ミズキ 】
「――っ、そんなことより、心臓はっ……」
【 ゼンキョク 】
「先ほどから見てはいますが……どうも、見当たりませんね。もしかすると、この千眼万笑には心臓が存在しないのかも」
【 ミズキ 】
「……っ、そんなことが、ありうるのですかっ?」
【 ゼンキョク 】
「さぁて、私は門外漢なので、どうにも……妖魔というのは、我々の尺度では測りがたいものですからね」
*門外漢……専門家でない者の意。
【 千眼万笑 】
「クッハ……アハハ……ンンンンハハハハハ……!!」
千眼万笑と名付けられた妖魔が、人の子の浅慮を嘲笑うかのように、笑声とともに身を震わせている。
*浅慮……浅はかな考えの意。
【 ミズキ 】
「くっ……打つ手はないと……?」
【 ゼンキョク 】
「ふむ……飽きて帰ってくれるのを待つ、というわけにもいかないでしょうし……仕方ありません」
と、手袋を脱ぐゼンキョク。
【 ゼンキョク 】
「――“触診”するしかなさそうですね」
【 ミズキ 】
「……まさか、直接触るのが嫌だから、私に囮を任せていたのでは?」
【 ゼンキョク 】
「ふふ。そんな、まさか」
【 ミズキ 】
「…………」
十分にありうることだ、とミズキは思った。
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