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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
156/421

◆◆◆◆ 6-61 燎氏の変(47) ◆◆◆◆

 一方そのころ、裏門の戦況は――


【 ミズキ 】

「――はぁっ! ふっ……せぇいっ!」


 ――バシュッ! ドシュウッ!!


【 妖魔 】

「クク――ファハハ! アハハハハ!!!」


 女官長ミズキが、耳障りな笑いを放つ妖魔を相手に奮闘していた。


【 ミズキ 】

「なにが……おかしいっ!」


 ――ドシュッ! ズバシュウッ!!


 気迫とともに〈空刀そらがたな〉を放ち、妖魔の身をズタズタに引き裂く――が、


【 妖魔 】

「クヒッ――ヒィハハッ! キャーッハハハハッ!!!」


 妖魔は苦痛を訴えるでもなく、気に障る甲高い笑声を放つばかり。

 それのみならず、


 ――カッ!!


【 ミズキ 】

「くうっ……!?」


 妖魔の無数の眼光が視界に入り、ミズキの身体が硬直する。

 呪力のこもった邪眼の類であった。


【 妖魔 】

「アアーハハハハ……ヒハハハァ!!」


 動きを封じられたミズキに、妖魔の触手が迫る――


 ――ドスッ!!


【 ミズキ 】

「んぐっ……くうっ!」


 間一髪、ミズキは妖魔の攻撃を回避した。

 飛来したはりが刺さり、その痛みで呪縛から解放されたのである。


【 ミズキ 】

「はぁっ、はぁあっ……!」


 気づけば、今やミズキの身には幾本もの鍼が突き立っていた。


【 妖魔 】

「アァアハハ……ハハ……フゥアァハハハ……!」


 うねうねと身をくねらせながら、異様な高笑いを続ける妖魔。


【 ゼンキョク 】

「ふむ――」


 そんな奇怪な姿をじっと見つめるのはアン・ゼンキョク、助っ人として参上した医術の名手である。


【 ミズキ 】

「まだ――心の臓の位置はわかりませんか、アン老師せんせい……!」


 妖魔を討つには、その心臓を破壊するほかはない、とされる。

 それゆえ、ミズキが身体を張って時間を稼いでいるわけだが……


【 ゼンキョク 】

「いえ、これがなかなか……思った以上にやっかいですね、この〈千眼万笑せんがんばんしょう〉――」


【 ミズキ 】

「千眼……なんですって? そんな名前が……?」


【 ゼンキョク 】

「いえ、たった今考えたところです。なにごとも、名前は大事ですからね」


【 ミズキ 】

「……っ、悠長なことを……! まさか、ずっとそれを考えていたのではないでしょうねっ?」


【 ゼンキョク 】

「いやいや、この前の妖魔、あのときの妖魔……などといった呼び方では混乱をきたしますからね。名づけは肝要ですよ」


【 ミズキ 】

「…………」


 いけしゃあしゃあと語るゼンキョクに、つい空刀を放ちたくなる衝動を堪えるミズキ。


【 ミズキ 】

「――っ、そんなことより、心臓はっ……」


【 ゼンキョク 】

「先ほどから見てはいますが……どうも、見当たりませんね。もしかすると、この千眼万笑には心臓が存在しないのかも」


【 ミズキ 】

「……っ、そんなことが、ありうるのですかっ?」


【 ゼンキョク 】

「さぁて、私は門外漢もんがいかんなので、どうにも……妖魔というのは、我々の尺度では測りがたいものですからね」

 *門外漢……専門家でない者の意。


【 千眼万笑 】

「クッハ……アハハ……ンンンンハハハハハ……!!」


 千眼万笑と名付けられた妖魔が、人の子の浅慮せんりょを嘲笑うかのように、笑声とともに身を震わせている。

 *浅慮……浅はかな考えの意。


【 ミズキ 】

「くっ……打つ手はないと……?」


【 ゼンキョク 】

「ふむ……飽きて帰ってくれるのを待つ、というわけにもいかないでしょうし……仕方ありません」


 と、手袋を脱ぐゼンキョク。


【 ゼンキョク 】

「――“触診”するしかなさそうですね」


【 ミズキ 】

「……まさか、直接触るのが嫌だから、私に囮を任せていたのでは?」


【 ゼンキョク 】

「ふふ。そんな、まさか」


【 ミズキ 】

「…………」


 十分にありうることだ、とミズキは思った。

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