◆◆◆◆ 6-60 燎氏の変(46) ◆◆◆◆
【 戮仙劔君 】
「なるほど――な。先の太刀は、撒き餌であったか」
ポタ……ポタ……と血が滴り落ちている。
【 ランブ 】
「……一瞬でも、貴様の動きを止めてくれれば、それでよかった」
カズサがそれを果たすと信じて、ランブは投擲の体勢に入っていたのである。
【 戮仙劔君 】
「そこまで――この者に、信を置いたというのか?」
力尽き、地に伏しているカズサに目を向ける。
【 ランブ 】
「…………」
カズサが作った、ただ一瞬の好機。
それに賭けて、ランブは腕が折れんばかりの勢いで斧を投げつけた。
そして――
【 戮仙劔君 】
「フフ――借りを、返されたな」
地に転がる、匕首を握った腕を見やって、薄笑いを浮かべている。
そう、カズサとランブの連携は、見事、戮仙劔君の右腕を切り飛ばしたのだった。
【 戮仙劔君 】
「見事な――見事なものよ。冥府から戻ってきた甲斐があったというものだ。なぁ、雹よ!」
ふたたび背中に収めた太刀に呼びかけるその声は、無邪気なまでの悦びにあふれていた。
【 戮仙劔君 】
「さて――手負い同士、ここからが本番、と言いたいところだが……」
【 ランブ 】
「…………っ!?」
ランブは目を疑った。
切断された戮仙劔君の腕が、溶け始めていたのである。
【 戮仙劔君 】
「――どうやら、ここまでのようだ。ちと、興が乗り過ぎたとみえる――なにせ、病み上がりならぬ、死に上がりゆえな」
見れば、落ちた腕のみならず、戮仙劔君の全身が、徐々に溶け崩れている。
【 戮仙劔君 】
「愉しかったぞ、ランブ! カズサにも伝えておくがよい。ぜひ、また真剣勝負と洒落込もう、とな――」
戮仙劔君は木履を履くと、そのまま踵を返した。
【 ランブ 】
「どこへ――」
【 戮仙劔君 】
「なに、案ずるな。黄泉から舞い戻ったオレにも、帰る場所くらいは――ある――」
【 ランブ 】
「……貴公の、雇い主はっ……!」
【 戮仙劔君 】
「言ったであろう? オレにも浮世の義理があるとな――ではさらば! その匕首、くれてやろう――なかなかの業物ぞ――」
……カラン……カラン……カラ……
木履の軽やかな音が、次第に遠ざかっていく。
【 ランブ 】
「……はあっ、はぁっ……ああっ……」
さしもの豪勇ランブも、その場に膝をついた。
【 ランブ 】
「カズサ殿っ……無事……か?」
【 カズサ 】
「え、ぇぇ……ぶ……じ、で……す、と、もぉぉ……」
地面に突っ伏したカズサが、息も絶え絶えに返答する。
その身は無傷であったが、
【 カズサ 】
「い、いだい……からだじゅうが……いだいい……」
限界を超えた動きの代償に、全身が悲鳴を上げているのだった。
【 ランブ 】
「……そのまま、休んでいてくれ」
ランブは苦悶の表情を浮かべつつも立ち上がり、斧を拾い上げる。
【 ランブ 】
「私は……行かねばならぬ……陛下の、もとへ……!」
【 カズサ 】
「ぞ、ぞれはっ……わだしも……いっじょ……でずっ……!」
強烈な痛みに襲われながらも、必死の形相で身を起こすカズサ。
【 ランブ 】
「うむ……ならば……ともに」
【 カズサ 】
「はい゛っ……う゛ううっ……息するだけで……いだいいぃ……」
かくして、極龍殿正門の戦いは、終わりを告げたのだった――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




