◆◆◆◆ 6-26 燎氏の変(12) ◆◆◆◆
今をさかのぼること、約四年前……
凪・ランブがヨスガとミズキに出会ったのは、辺境の流刑地においてであった。
【 ランブ 】
「紅雪華……〈天下七剣〉のひとりに数えられた、あの――?」
【 ミズキ 】
「ご存じだったとは恐縮です。もっとも、今では剣を振るうことはかないませんが……それはさておき」
【 ミズキ 】
「ここに参ったのは、他でもありません。あなたのお力をお借りしたいのです。我らが大業をなすために」
【 ランブ 】
「…………」
【 ランブ 】
「私は……大罪人だ。もはや二度と、日の下を歩くことなどできぬ」
【 ミズキ 】
「それは違いましょう。あなたが為そうとしたことは、決して悪事ではありません。むしろ義の行いというべきものです」
【 ヨスガ 】
「まあ、大それているわりに、ずさんな計画だったのは間違いないがな。かの十二賊どもを討とうなどと図るにしては」
【 ランブ 】
「――――っ」
【 ミズキ 】
「ヨスガ? ちょっと黙っていてくれないかしら。どうしてあなたは煽るような言い方しかできないの?」
【 ヨスガ 】
「すまんな。続けてくれ」
【 ミズキ 】
「コホン……ともあれ、すべてはご尊父の無念を晴らすためだったのでは?」
【 ランブ 】
「それ――は――」
【 ヨスガ 】
「あれだけの被害を出した以上、誰かしら責任を取らねばならなかったのは事実であろうが……それがジン――凪将軍である必要はなかったな」
【 ランブ 】
「…………っ」
【 ランブ 】
「私が……及ばなかった……私の、せいで……あの方は――」
これより約三年前、峰東の地で勃発した大規模叛乱、〈五妖の乱〉。
酸鼻を極めた激戦となったこの戦いで、ランブの父・ジンブは、壮烈な討ち死にを遂げた。
ランブは同じ戦場にいながらも、父を救うことができなかったのである。
それだけでも、彼女にとっては生涯の痛恨事だったが、戦後の処理にいたって、その怒りは頂点に達した。
――凪・ランブの無謀な作戦によって、多くの将兵が命を失った。よって、その官職ならびに領地を召し上げる――
もとよりそんな事実はなく、翠・ヤクモをはじめ同僚たちも擁護に努めたが、決定がくつがえることはなかった。
なぜこのような理不尽な次第になったのかといえば、
――凪将軍は生前、十二佳仙に賄賂を贈っていなかった。そのため、すべての咎を押しつけられたのだ。
というのは、いわば公然の秘密であった。
これを知ったランブは怒り狂い、宮城に潜入し、十二佳仙らを暗殺せんと図ったが、あえなく事破れ、囚われの身となった。
本来なら処刑が当然の大罪であるが、先の処分でただでさえ輿論が凪氏に同情的になっていることもあり、一命は許され……こうして、苦役に就いているのだった。
【 ミズキ 】
「……〈五妖の乱〉の元凶が、かの十二賊であることは天下周知の事実。彼奴らはそれを誤魔化すためにも、生贄を必要としたのでしょう。……連中らしい、卑劣なやり方です」
【 ヨスガ 】
「死人に口なし、とはよく言ったものだ……おっと、睨むな睨むな」
【 ランブ 】
「…………」
【 ミズキ 】
「ランブ卿――あなたは、ここで空しく朽ちていくようなお人ではありますまい。亡きご尊父の名誉を回復するためにも、我らにお力添えを」
【 ランブ 】
「……私には、なにもできなかった」
【 ランブ 】
「これからも……なにも、果たせはしない……」
【 ヨスガ 】
「そうだな。そうかもしれん。これ以上なにもしなければ、さらに失敗を重ねることもないのだからな」
【 ランブ 】
「…………っ」
【 ヨスガ 】
「そこで、さっきの話だ。そなた、楽になりたいのだろう? これ以上、苦しみたくはないのだろう? それなのに、その頑健すぎる肉体は、意に反して生きることを求めずにはいられない。そうではないか?」
【 ランブ 】
「――っ、それ、は……」
図星であったので、ランブは口ごもるしかなかった。
父の死、理不尽な戦後処理、そして自身の投獄……正直、己の命を絶ちたいと思ったことは一度や二度ではない。
にもかかわらず、死に切ることもできず、厚顔にも生き延びてしまっている……それもまた、彼女の苦悩の一因であった。
【 ヨスガ 】
「ここは、取り引きといこうではないか。あたしなら、そなたに死という安らぎをくれてやることができる。そなたは、あたしたちに力を貸す。どうだ、悪くはあるまい?」
【 ミズキ 】
「……ねえヨスガ? そこはもっとこう、理想を訴えたりして、相手の心を開かせようと努力するべきではないかしら?」
【 ヨスガ 】
「ふん、どうせそんなものに耳を貸すような状態ではなかろう。ゴチャゴチャと綺麗事を並べる気はない。どうだ、豪傑?」
【 ランブ 】
「私、は――」
【 ランブ 】
「……救われては、ならぬ者だ」
【 ミズキ 】
「まだ、罰を受け続けると?」
【 ランブ 】
「この命尽きるまで、苦しみ続ける。それこそが、私の――」
【 ヨスガ 】
「ふん、そんなもの、ただの自己満足ではないか! 父の汚名も、己の無念も果たさぬまま、自虐に身を任せているだけにすぎぬ。違うかっ?」
【 ランブ 】
「――――っ」
【 ヨスガ 】
「救われたくないというなら、それもよかろう。だというなら、あたしたちの仕事のほうがよほど過酷だ。ここで物言わぬ樹に斧を打ち込むよりは、はるかにな!」
【 ランブ 】
「なにを――しようと?」
【 ヨスガ 】
「ふふん、知れたことよ」
と、小娘は胸を張って。
【 ヨスガ 】
「国を壊して――国を創るのだ!!」
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