◆◆◆◆ 6-18 燎氏の変(4) ◆◆◆◆
【 ケイヨウ 】
「ほォ、思ったより早かったのォ」
みやこの外にあって、幕舎を構えていた枢密使たる八白・ケイヨウは、知らせを受けても悠然と構えていた。
【 家臣 】
「か、閣下、どうなさいます……!? 今すぐに、城内に入るべきでは……」
【 ケイヨウ 】
「まァ、そう焦るでない」
動揺を隠せない部下たちに対し、髭をいじりながら、焦った顔を見せもしないケイヨウ。
【 家臣 】
「し、しかし、これはただの火事ではなく、謀叛なのでは……!?」
【 ケイヨウ 】
「かもしれぬ。ならば余計に軽挙してはなるまいよ。あれは陽動で、本軍は別かもしれんからなァ。迂闊に乗せられてはならん」
【 家臣 】
「な、なるほどっ……では、防備を固めます!」
【 ケイヨウ 】
「おお、そうしてもらおう」
家臣たちが下がったあと……
【 ケイヨウ 】
(さァて……この騒動、いったいどう転がりますかなァ)
皺だらけの顔に、不敵な笑みを浮かべるのだった。
一方、内城にある邸に目を向けると――
【 官僚 】
「――始まったか」
【 他の官僚 】
「いよいよですな、燎侍中……!」
*侍中……官職のひとつ。この時代においては名誉職であり、実権はとぼしい。
【 官僚 】
「うむ……時は、来た……!」
そう言って頷いたのは燎・ケンシ。
宙帝国の高官のひとりである。
【 ケンシ 】
「今こそ、帝国を正さねばならぬ……他の誰でもない、我らが!」
そう、この火災は、ケンシとその同志たちの仕業であった。
【 他の官僚 】
「しかし、いささか火の手が激しいような……こちらにも燃え広がってきたりはしますまいな?」
【 ???? 】
「心配は――いりません――」
【 ケンシ 】
「おお、〈無明天師〉!」
暗がりから、ゆらりと奇妙な姿の人影が浮かび上がる。
顔はすっぽりと頭巾に覆われ、くぐもった声は歳も性別すらもさだかではない。
【 無明天師 】
「――このあたりには延焼せぬよう、指示してあります――ご安心あれ」
【 ケンシ 】
「お心遣いかたじけない……!」
【 無明天師 】
「――手勢を、城内へ入れました。ほどなく、大事は成りましょう――」
おおっ、と同志たちが声をあげる。
【 ケンシ 】
「うむ――協力痛み入る。今こそ、我らが世を変える時ぞ……!」
【 他の官僚 】
「まさに……!」
【 無明天師 】
「まことに――これがすべての、はじまりと、なりましょう」
【 無明天師 】
「――そう――正されねばならない。この世の、すべてが――」
熱狂する官僚たちに、無明天師なる妖人の無機質な声が届くことはなかった――
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