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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
113/421

◆◆◆◆ 6-18 燎氏の変(4) ◆◆◆◆

【 ケイヨウ 】

「ほォ、思ったより早かったのォ」


 みやこの外にあって、幕舎を構えていた枢密使たる八白ハチハク・ケイヨウは、知らせを受けても悠然と構えていた。


【 家臣 】

「か、閣下、どうなさいます……!? 今すぐに、城内に入るべきでは……」


【 ケイヨウ 】

「まァ、そう焦るでない」


 動揺を隠せない部下たちに対し、髭をいじりながら、焦った顔を見せもしないケイヨウ。


【 家臣 】

「し、しかし、これはただの火事ではなく、謀叛なのでは……!?」


【 ケイヨウ 】

「かもしれぬ。ならば余計に軽挙してはなるまいよ。あれは陽動で、本軍は別かもしれんからなァ。迂闊に乗せられてはならん」


【 家臣 】

「な、なるほどっ……では、防備を固めます!」


【 ケイヨウ 】

「おお、そうしてもらおう」


 家臣たちが下がったあと……


【 ケイヨウ 】

(さァて……この騒動、いったいどう転がりますかなァ)


 皺だらけの顔に、不敵な笑みを浮かべるのだった。




 一方、内城にある邸に目を向けると――


【 官僚 】

「――始まったか」


【 他の官僚 】

「いよいよですな、リョウ侍中じちゅう……!」

 *侍中……官職のひとつ。この時代においては名誉職であり、実権はとぼしい。


【 官僚 】

「うむ……時は、来た……!」


 そう言って頷いたのはリョウ・ケンシ。

 宙帝国の高官のひとりである。


【 ケンシ 】

「今こそ、帝国を正さねばならぬ……他の誰でもない、我らが!」


 そう、この火災は、ケンシとその同志たちの仕業であった。


【 他の官僚 】

「しかし、いささか火の手が激しいような……こちらにも燃え広がってきたりはしますまいな?」


【 ???? 】

「心配は――いりません――」


【 ケンシ 】

「おお、〈無明天師むみょうてんし〉!」


 暗がりから、ゆらりと奇妙な姿の人影が浮かび上がる。

 顔はすっぽりと頭巾に覆われ、くぐもった声は歳も性別すらもさだかではない。


【 無明天師 】

「――このあたりには延焼せぬよう、指示してあります――ご安心あれ」


【 ケンシ 】

「お心遣いかたじけない……!」


【 無明天師 】

「――手勢を、城内へ入れました。ほどなく、大事だいじは成りましょう――」


 おおっ、と同志たちが声をあげる。


【 ケンシ 】

「うむ――協力痛み入る。今こそ、我らが世を変える時ぞ……!」


【 他の官僚 】

「まさに……!」


【 無明天師 】

「まことに――これがすべての、はじまりと、なりましょう」


【 無明天師 】

「――そう――正されねばならない。この世の、すべてが――」


 熱狂する官僚たちに、無明天師なる妖人の無機質な声が届くことはなかった――

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