◆◆◆◆ 6-15 燎氏の変(1) ◆◆◆◆
祈願祭を二日後に控えた夜――
【 シジョウ 】
「支度の方はどうか?」
宮城の外廷にある宮殿の一角に、黄龍・シジョウら十二佳仙が集まっていた。
*外廷……宮城のうち、君主が政務を執る公的な場所。
【 十二佳仙 】
「は、すでに万事、取り揃えました」
【 他の十二佳仙 】
「いつでも動くことができます。明日と言わず、今夜でも――」
【 シジョウ 】
「うむ……」
シジョウらはヨスガらの見立て通り、祈願祭の前夜にことを起こす予定だった。
だが、先手必勝――というとおり、急ぎ仕掛けるという判断も可能である。
しかし……
【 シジョウ 】
「……予定は変えぬ。明日まで英気を養っておくがよい」
【 他の十二佳仙たち 】
「ははっ……」
一礼し、方士たちはシジョウの前から下がっていった。
【 シジョウ 】
「…………」
なぜこのとき、シジョウは仕掛けるのをためらったのだろうか?
ひとつには、
【 シジョウ 】
(ギリギリになって、国母さまからの指令があるのでは……?)
そんな不安が、胸を離れなかったからである。
このことについて、後世の歴史家は、
――黄龍・シジョウは、従うべき強者を見極め、巧みに接近することで地位を得た。
そういう意味では、人物の鑑識眼には優れていたといえよう。
しかし、自分自身で重大な決断をする機会がなかったため、この機を逃したのである。
所詮は、人の上に立つ器量の持ち主ではなかったのであろう。
……などと評しているが、これはいささか辛辣にすぎる見解かもしれない。
ともあれシジョウは、土壇場まで待つことを選択した。
それは腹を決めたうえでの“決断”だったのか、それとも、向き合うべき問題を先送りにしただけの“保留”だったのか?
それは当人にしか……あるいは当人にすらわからないことであっただろう。
一方、宮城の内廷においては……
*内廷……宮城のうち、君主の私的な場所。後宮など。
【 ヨスガ 】
「はぁ……」
大宙帝国の皇帝たる焔・ヨスガが、何やら冴えない溜め息を漏らしていた。
【 セイレン 】
「おっ、不景気そうな顔をしておりますな、陛下! もしや、ここにきて不安に襲われておいでで?」
【 ヨスガ 】
「そうではない。物忌みのせいでロクなものが食べられぬゆえ、力が出ぬのだ」
藍・セイレンの煽りに、不服そうに応じる。
天地の祀りを行うためには、祭司たる天子が身を浄める必要がある。
そのため、数日間は肉や匂いの強い食事は摂れない、という決まりがあるのだった。
【 セイレン 】
「ほほう、それはそれは、お気の毒な! どうせ儀式はおじゃんになる予定ですし、食べても構いますまい?」
【 ヨスガ 】
「そうはいかん。……他の者は、なにも知らぬのだからな」
不行跡で通っているヨスガであるが、儀式を疎かにしているとわかれば、周囲に疑問に思われるだろう。
*不行跡……行いがよろしくないの意。
【 ヨスガ 】
「あちら――つまり十二佳仙どもとて、こちらが襲撃を予測している可能性は考慮していようが……少しでも、油断させておきたいのでな」
【 セイレン 】
「ははぁ……まぁ、がんばってくだされ! もぐもぐ……」
【 ヨスガ 】
「あっ!? そなた、その生姜漬けの乾し肉はどこから……!?」
【 セイレン 】
「夜市に行って買ってきたのですが? ごくごく……」
【 ヨスガ 】
「ぐぐっ、香草入りの氷水までっ……ええい、この痴れ者め! ゆるさん、没収する!」
【 セイレン 】
「ええ~っ? ただ陛下が食べたいだけでは?」
【 ヨスガ 】
「問答無用! 欲しいものはなんとしても自分の力で手に入れる――それが、我の流儀よ!」
【 セイレン 】
「そのかっこいいセリフ、今言っちゃってよかったんですかぁ? ……ああっ!? せめて半分は残してくださいぃ……」
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