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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
110/421

◆◆◆◆ 6-15 燎氏の変(1) ◆◆◆◆

 祈願祭を二日後に控えた夜――


【 シジョウ 】

「支度の方はどうか?」


 宮城の外廷がいていにある宮殿の一角に、黄龍コウリュウ・シジョウら十二佳仙が集まっていた。

 *外廷……宮城のうち、君主が政務を執る公的な場所。


【 十二佳仙 】

「は、すでに万事、取り揃えました」


【 他の十二佳仙 】

「いつでも動くことができます。明日と言わず、今夜でも――」


【 シジョウ 】

「うむ……」


 シジョウらはヨスガらの見立て通り、祈願祭の前夜にことを起こす予定だった。

 だが、先手必勝――というとおり、急ぎ仕掛けるという判断も可能である。

 しかし……


【 シジョウ 】

「……予定は変えぬ。明日まで英気を養っておくがよい」


【 他の十二佳仙たち 】

「ははっ……」


 一礼し、方士たちはシジョウの前から下がっていった。


【 シジョウ 】

「…………」


 なぜこのとき、シジョウは仕掛けるのをためらったのだろうか?

 ひとつには、


【 シジョウ 】

(ギリギリになって、国母さまからの指令があるのでは……?)


 そんな不安が、胸を離れなかったからである。

 このことについて、後世の歴史家は、


 ――黄龍コウリュウ・シジョウは、従うべき強者を見極め、巧みに接近することで地位を得た。

 そういう意味では、人物の鑑識眼には優れていたといえよう。

 しかし、自分自身で重大な決断をする機会がなかったため、この機を逃したのである。

 所詮は、人の上に立つ器量の持ち主ではなかったのであろう。


 ……などと評しているが、これはいささか辛辣しんらつにすぎる見解かもしれない。

 ともあれシジョウは、土壇場まで待つことを選択した。

 それは腹を決めたうえでの“決断”だったのか、それとも、向き合うべき問題を先送りにしただけの“保留”だったのか?

 それは当人にしか……あるいは当人にすらわからないことであっただろう。




 一方、宮城の内廷ないていにおいては……

 *内廷……宮城のうち、君主の私的な場所。後宮など。


【 ヨスガ 】

「はぁ……」


 大宙帝国の皇帝たるエン・ヨスガが、何やら冴えない溜め息を漏らしていた。


【 セイレン 】

「おっ、不景気そうな顔をしておりますな、陛下! もしや、ここにきて不安に襲われておいでで?」


【 ヨスガ 】

「そうではない。物忌ものいみのせいでロクなものが食べられぬゆえ、力が出ぬのだ」


 アイ・セイレンの煽りに、不服そうに応じる。

 天地のまつりを行うためには、祭司たる天子が身を浄める必要がある。

 そのため、数日間は肉や匂いの強い食事は摂れない、という決まりがあるのだった。


【 セイレン 】

「ほほう、それはそれは、お気の毒な! どうせ儀式はおじゃんになる予定ですし、食べても構いますまい?」


【 ヨスガ 】

「そうはいかん。……他の者は、なにも知らぬのだからな」


 不行跡ふぎょうせきで通っているヨスガであるが、儀式を疎かにしているとわかれば、周囲に疑問に思われるだろう。

 *不行跡……行いがよろしくないの意。


【 ヨスガ 】

「あちら――つまり十二佳仙どもとて、こちらが襲撃を予測している可能性は考慮していようが……少しでも、油断させておきたいのでな」


【 セイレン 】

「ははぁ……まぁ、がんばってくだされ! もぐもぐ……」


【 ヨスガ 】

「あっ!? そなた、その生姜しょうが漬けの乾し肉はどこから……!?」


【 セイレン 】

「夜市に行って買ってきたのですが? ごくごく……」


【 ヨスガ 】

「ぐぐっ、香草入りの氷水までっ……ええい、この痴れ者め! ゆるさん、没収する!」


【 セイレン 】

「ええ~っ? ただ陛下が食べたいだけでは?」


【 ヨスガ 】

「問答無用! 欲しいものはなんとしても自分の力で手に入れる――それが、我の流儀よ!」


【 セイレン 】

「そのかっこいいセリフ、今言っちゃってよかったんですかぁ? ……ああっ!? せめて半分は残してくださいぃ……」

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