◆◆◆◆ 6-12 救神の手 ◆◆◆◆
【 カズサ 】
「くううっ……わたしがあなたの立場だったらっ、もっともっと陛下に甘え……いえ、お力になってみせるのにぃ!」
地団駄を踏んで悔しがるカズサ。
【 ホノカナ 】
「な、なんだか、すみません……」
理不尽なことには違いないものの、そんな気分になっていた。
【 カズサ 】
「~~っ、い、いい加減にしなさいっ! わたしはもう帰るわっ! 失礼します、大姐っ!」
カズサはミズキに一礼すると、そのまま足早に酒場を出ていってしまった。
【 晏老師 】
「まったく……言いたいことだけ言って出ていきましたね」
【 霹靂匠 】
「クク……歩く爆弾のごとし……」
【 ホノカナ 】
「あの~……放っておいていいんですか?」
自分が原因ではあるだけに、そわそわしてしまうホノカナ。
【 ミズキ 】
「放っておくのが優しさ、という場合もあります」
【 ホノカナ 】
「は、はぁ……」
【 ミズキ 】
「さて……私たちも、そろそろお暇しましょうか」
【 晏老師 】
「そうですね。ゆっくり酒盃を傾けるのは、万事、終わってからにしましょう」
そう言いつつ、おもむろに左右の手袋を脱ぐ晏老師。
傷を隠しているのかと思いきや、見た目は普通のようだけど……とホノカナが思っていると。
【 晏老師 】
「失礼――」
【 ホノカナ 】
「…………っ!?」
ふいに、晏老師がホノカナの手を取った。
その右の掌の熱さに、思わず驚いてしまう。
【 晏老師 】
「ふむ……あまり眠れていないようですね。それに、食も細くなっているようで……それから、背中に張りがありますね」
【 ホノカナ 】
「えっ……!?」
手を握ったまま、わずかに動かすだけであれこれ言い当てられ、ホノカナは驚嘆する。
【 ホノカナ 】
「ど、どうして、そこまでわかるんですかっ?」
【 晏老師 】
「いささか、医術の心得がありますので……ふむ……これなら……これで――」
【 ホノカナ 】
「……ひゃっ!?」
妙な声が出てしまったのは、彼女が伸ばしてきた左手が、恐ろしく冷たかったからである。
【 ホノカナ 】
(左右の手の熱さが、こんなに違うことなんてあるの……!?)
【 晏老師 】
「……いかがです?」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ……!?」
先ほどまであった身体の張りが、嘘のように消えていた。
【 ホノカナ 】
「す、すごいっ……鍼もお灸も使ってないのにっ!」
【 晏老師 】
「なに、たいしたことではありません。少し、経穴を押しただけですから」
と、穏やかに微笑んでみせる。
【 ミズキ 】
「衰えてはいませんね、晏老師」
【 晏老師 】
「幸いにも……というか、身の回りに怪我人も病人も絶えませんので」
【 晏老師 】
「とはいえ……所詮、この手で癒したり、救うことができる人々など、ほんの一握り――」
その端正な顔に翳が差す。
【 晏老師 】
「国を癒し、万民を救えるのは、我らが陛下のごとき御方のみ。この〈晏・ゼンキョク〉、そのために尽力する所存……」
【 ホノカナ 】
「……っ、あ、あのぉ~……」
いい話のさなか、ホノカナが遠慮がちに声を上げる。
【 ゼンキョク 】
「おや……どうしました?」
【 ホノカナ 】
「も、もう、大丈夫なので、手を……んんっ……!?」
【 ゼンキョク 】
「ふふ……貴方の反応は、実に――面白い」
【 ホノカナ 】
「~~~~~~っ!?」
肌をスリスリと撫でさすられ、思わず身体がこわばってしまう。
【 ゼンキョク 】
「ふぅむ……この経穴、常人よりも……ほほう……なかなか……」
【 ホノカナ 】
「いたっ!? いたたたぁっ!?」
【 ゼンキョク 】
「ならばここは――?」
【 ホノカナ 】
「きゃうんっ!? そ、それっ、なんだか……ふわわぁっ!?」
【 ゼンキョク 】
「ふふ……ふふふっ……」
【 ミズキ 】
「やれやれ……」
【 ホノカナ 】
(ちゃんとした人だと思ったけど、この人もやっぱり変~~っ!?)
しばし、ホノカナの悶絶する声が響いたのだった……
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