◆◆◆◆ 6-8 先遣隊 ◆◆◆◆
【 高飛車そうな娘 】
「おーっほっほっほっ! 人呼んで〈緋閃剣〉とは、誰あろう、このわたしのことよ!」
二振りの剣を引っ提げた娘が、高笑いする。
【 あやしげな男 】
「クククク……〈霹靂匠〉とでも、呼んで、貰おうかな……クク……」
痩せぎすの男が、小ぶりな弾弓をまさぐりつつ、薄笑いをうかべる。
*弾弓……弾丸を飛ばすための弓。ここではパチンコの意。
【 翳のある美女 】
「世間では〈救神双手〉などと呼ばれております。お見知りおきを――」
両手を手袋で覆った、落ち着いた雰囲気の女性が、一礼する。
【 ホノカナ 】
「あっ、は、はいっ、よろしくお願いします……!」
――帝都のはずれの、小ぢんまりとした酒場の片隅にて。
夜を待ってひそかに城を抜け出してきた 鱗・ホノカナは、奇妙な一団と卓を囲んでいた。
【 緋閃剣 】
「それで? あなたはなんと仰るのかしら?」
【 ホノカナ 】
「え、えっ? わ、わたしは、その――」
ホノカナは一介の女官であるから、当然ながら気の利いた異名など持っているはずもない。
【 ホノカナ 】
「――え、えっと、そう、〈小万勇〉でお願いします……!」
とっさに、先祖とされる神祖の功臣〈万勇騎〉こと鱗・ハルカナにあやかった異名をでっちあげる。
【 緋閃剣 】
「あら、鱗大将軍にゆかりがあるのかしら? さぞかしあなたも、見かけによらず腕が立つのでしょうねぇ――?」
【 ホノカナ 】
「そ、それはっ……」
【 ミズキ 】
「閃の……いえ、緋閃剣殿、無駄話はほどほどに」
【 緋閃剣 】
「ええ、ええ、わかっていますわ、〈紅雪華〉殿! さぁどうぞ、お話を!」
【 ミズキ 】
「では……今後の方針について、〈天侠大聖〉からの指令を伝えにまいりました」
紅雪華こと、女官長ミズキが告げる。
隣に座ったホノカナが、そんなかっこいい綽名あるなんて知らなかった……と言いたげな視線を向けるが、気にしたそぶりもない。
【 救神双手 】
「ふむ……いよいよ、“国を治す”とき……これは、大がかりな手術となりそうですね」
【 霹靂匠 】
「ククッ……ククク、なにを爆破すればいいんですかぁ……?」
【 緋閃剣 】
「いよいよですね! このわたしが! 邪魔する者はことごとく討ち倒してみせます! ええ、我らが盟主のために!」
【 ホノカナ 】
「~~~~っ……」
なぜホノカナが、このあやしげな面々と同席する羽目に至ったのかというと――
【 ヨスガ 】
「これからミズキとともに城外に出て、同志と会ってこい」
発端はいつものごとく、ヨスガの命であった。
夜になってミズキの部屋を訪ねるなり、ホノカナはそう告げられたのである。
【 ホノカナ 】
「同士……って、あっ、宝玲山の?」
【 ヨスガ 】
「そうだ。本隊は、もっか帝都に接近中だが……市中に潜伏している先遣隊だな」
皇帝ヨスガのもう一つの顔……
それが、天侠大聖と呼ばれる遊侠の徒である。
*遊侠……仁義を守る任侠の意。
宝玲山は帝都の北方にある険しい山で、古来より山賊の住処として知られていた。
現在も、千人を超える武装集団が立てこもっているが、その正体はただの賊ではなく、いわばヨスガの私兵である。
【 ホノカナ 】
(それにしても……)
なぜヨスガが遊侠の士を名乗っているのか、なぜ宝玲山なのか……といった疑問はいまだにある。
それについては、話すと長くなるからおいおい語るとしよう――と、言われてはいるのだけれど。
【 ヨスガ 】
「連中と接触して、我からの指示を伝えよ」
【 ホノカナ 】
「ヨスガ姉さまの御名代として……ですよね?」
【 ヨスガ 】
「いや、そういうわけではない」
【 ホノカナ 】
「えっ? そ、そうなんですか?」
【 ヨスガ 】
「嶺将軍の時と違って、相手はいわば身内だ。そなたと連中の顔合わせという意味もある。気負う必要はない」
【 ホノカナ 】
「あ……なるほど」
ホノカナは、内心で胸を撫でおろした。
ここ最近、不安な日々を送っていることもあり、外に出られるなら、それだけでも少し気が晴れるだろう。
【 ホノカナ 】
「わかりました! じゃあわたし、皆さんと仲良くなってきますねっ!」
【 ヨスガ 】
「おお……そうか。健闘を祈る」
いつになく、ヨスガは微妙な顔で頷いてみせた。
【 ホノカナ 】
「…………?」
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